2010年2月28日日曜日

Ⅲ 平成22年度予算について

 野党自民党の国会戦術の失敗と予算委員会審議への復帰により、週明けにも予算委員会での審議は終結し、平成22年度予算の衆議院本会議での可決、参議院への送付される見通しとなった。3月2日まで衆議院を通過すると、憲法の規定により、参議院で議決が行われなくても年度内に自然成立することとなる。なお、参議院で衆議院と異なった議決をした場合、衆議院は両院協議会を求めなければならないが、協議が成立しないときは、衆議院の議決が国会の議決とされることとなっている。

1.今年度の予算の編成・審議過程

 ・財政制度等審議会 財政制度分科会 建議(平成21年6月3日)
  -平成22年度予算編成の基本的考え方について
 ・概算予算基準閣僚会議了解(平成21年7月1日)
  -平成22年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について(閣議了解)
  -平成22年度一般歳出の概算要求基準の考え方
  -平成22年度概算要求概算要求のポイント
 ・平成22年度予算編成の方針閣議決定(平成21年9月29日)
  -平成22年度予算編成の方針について(閣議決定)
 ・各省庁の予算要求(概算要求)(平成21年10月15日)
  -マニュフェスト(「三党連立政権合意」を含む)を踏まえた平成22年度一般会計概算要求額(平成21年10月16日)
  -各府省の概算要求書及び政策評価調書(平成21年11月26日)
   1.概算要求の概要等
   2.概算要求書
    (1)一般会計
    (2)特別会計
   3.政策評価調書
  -平成22年度予算編成上の主な個別論点
 ・政府案閣議決定(平成21年12月25日)
  -平成22年度一般会計歳入歳出概算
 ・平成22年度一般会計歳入歳出概算の変更について(閣議決定)(平成22年1月22日)
  -平成22年度一般会計歳入歳出概算の変更について
 ・政府案国会提出(平成22年1月22日)
  -平成22年度予算書の情報
  -平成22年度予算政府案 
    
2.平成22年度予算のポイント

 ○平成22年度 一般会計予算フレーム
  「いのちを守る予算」3つの変革
  ・コンクリートから人へ
  ・政治主導の徹底
  ・予算編成プロセスン透明化

       21年度予算    22年度予算    差
(歳入)

 税収    46.1兆      37.4兆   ▲ 8.7兆
 その他収入 9.2兆      10.6兆     1.4兆
    
 公債金   33.3兆      44.3兆    11.0兆

 計      88.5兆      92.3兆    3.8兆

(歳出)

 国債費等   20.2兆      20.6兆    0.4兆
 
 地方交付税等16.6兆      17.4兆    0.9兆

 一般歳出   51.7兆      53.4兆    1.7兆
 
 調整資金繰戻          0.7兆    0.7兆

 計      88.5兆      92.3兆    3.8兆   

 ○主要経費の分類による予算の変化「コンクリートから人へ」

            21年度予算  22年度予算  差  伸率
 社会保障関係費   24.8兆    27.3兆  2.4兆 9.8%
 文教及び科学振興費  5.3兆     5.5兆  0.3兆 5.2%

 公共事業関係費    7.1兆     5.8兆  ▲1.3兆 ▲18.3%

 地方交付税交付金等 16.6兆    17.5兆  0.9兆 5.5%

 ○平成22年度 一般会計の歳出の構成

        21年度当初 %  22年度予算 %          
 一般歳出     51.7兆 58.4%  53.5兆 57.9%
  社会保障     24.8  28.0   27.3  29.5
  公共事業       7.1   8.0    5.8   6.3
  文教科学振興  5.3   6.0    5.6   6.1
  防衛           4.8   5.4    4.8   5.2
  その他        9.7   11.0   10.0   10.9
 地交税交付金等 16.6兆 18.7%  17.5兆  18.9%
 国債費       20.2兆 22.9%  20.6兆  22.4%

 ○マニュフェスト工程表の主要事項について
 
 -子ども手当 子供一人当たり月額13,000円(所得制限なし、児童手当法範囲で地方負担)
 -高校の実質無償化 公立高校(完全無料)私立高校(年額12万円助成)低所得上乗せ規定
 -年金記録 被保険者名簿等の紙台帳の精査 インターネット閲覧
 -医師不足解消 診療報酬本体の大幅プラス改定 急性期入院医療の医療費増額 救急・産科・小児・外科に重点
 -農業の戸別所得補償 モデル事業の定額部分の補償交付単価1.5万円/10a 変動部分を措置
 -暫定税率 当分の間維持
 -高速道路の無料化 社会実験を実施 段階的に進める
 -雇用対策 雇用保険の適用範囲を緩和

 ○マニュフェスト工程表の主要事項の財源確保
 
 -子ども手当        1.7兆
 -農業の戸別所得補償  0.6兆
 -高校の実質無償化   0.4兆
 -暫定税率        0.2兆
 -高速道路の無料化   0.1兆
 -年金記録         0.1兆
 -雇用対策         0.0兆(170億)
 計            3.1兆

 (行政刷新会議における事業仕分け等を通じて予算の全面的な組み替え実施)
 -事業仕分け評価反映  1.0兆
 -公益法人基金返納   1.0兆
 -要求段階での削減   1.3兆
 計            3.3兆

 ○税外収入について
 
   19年度当初  20年度当初  21年度当初  22年度当初
    4.0兆    4.2兆    9.2兆     10.6兆(過去最大)
 
 財投特会       4.8兆 
 外為特会       2.9兆
 その他        0.2兆
 
 公益法人基金返納   1.0兆
      
 ○平成22年度 我が国の財政事情
 
 (フロー)
 公債依存度      48.0%
 プライマリバランス▲ 23.7兆
   
 (ストック)
 公債残高     637兆(GDP比 134%)
 公的長期債務残高 862兆(GDP比 181%)     

3.課題

 民主党政権に移行し、予算策定のプロセスに事業仕分けなど新たな仕組みが導入されたことは一定の評価ができるが、このままでは構造的問題が解決されるばかりか、ますます国家財政が悪化し、国民社会生活に極めて深刻な悪影響を与える可能性が高まっている。その解決のために課題への対応策を明確にし、景気動向などを勘案しながら中長期のフレームワークの中で、具体的で実現可能と思われる目標値を設定し、今年度からでも補正予算も含めて施行していく必要がある。

 ○財政規律の方法論および方向性にかかるコンセンサスの形成
  成長戦略 
  消費税引き上げ
  年金保険料の引き上げ
  マニュフェスト実施優先順位および見直し

 ○予算策定プロセスのさらなる効率化
  事業仕分けの戦略的変更(範囲拡大・効果優先順位)
  結果検証の仕組みビルトイン
 
 ○新たな財源の確保
  政府資産や政府保有株の売り出し・民営化
  消費税引き上げ
  年金給付金引き下げ
  特別会計の抜本的な見直し・一般会計との整合性確保
  公務員制度改革によるスリム化・活性化
  議員定数の削減等政治の仕組みのスリム化

2010年2月25日木曜日

Ⅱ 政権交代の意味と現状

 昨年8月の総選挙で民主党は政権交代の旗印のもと、細川政権などの一時を除いて戦後続いてきた自民党を「平成(無血)革命」により打ち破った。小泉政権での構造改革が成就しないままに安部・福田・麻生と続いた政権の投げ出し・たらいまわしや相次ぐ閣僚の不祥事や不適切な発言など、深刻の度を増す国民経済社会の状況そっちのけで政治茶番劇が続いたため国民の政治不信が高まり、折からの世界金融恐慌というかなり強めの外部要因も加わったことで歴史的な政権交代が実現した。これは、逆説として民主党が勝ったのではなく、自民党に国民が「NO」を突きつけたということでもある。

 民主党政権発足後、100日のハネムーン期間もとうに過ぎて政権交代の高揚感や期待感は沈静・後退、総選挙戦勝ユーフォリアも醒めている。6ヶ月経過した2月末のこのタイミングで、そもそもマニュフェストで掲げていた政策の現状のステイタスはどうか、それを実現するプロセスとして「政治主導」・「事業仕分け」とは何だったのか、また政治の本旨であり、政策を実現するための「予算」とそれを実現する「税制」はどのようなものであるのかを検証していきたい。今後、6月頃に最終取りまとめるとともに、成長戦略実行計画(工程表)が作成される予定である、昨年12月に公表された「新成長戦略の基本方針」についても是非についてコメントを加えることとする。

1.いきなり躓いた政治資金問題と初めての地方選・長崎知事選での敗退

 小沢民主党幹事長の政治資金規正法にかかる疑念(別稿:2月4日「小沢一郎」的政治業の限界と破綻 )と鳩山首相自身の政治献金問題で金権的自民党体質と本質的には差異がないことが印象として固定し、直近の民主党支持率の低下となっている。支持率60%以上から40%以下への急落スピードは政権交代後の実績がない現状では、かなりの恐怖感があってもしかるべきだが、自民党の支持率が上がっていないことで、「妙な安心感」を生んでいる。抜本的な党勢を回復するためには「小沢幹事長の辞職」あるのみと考える。

 また、2月21日の長崎知事選で民主党候補を応援する石井一選挙対策委員長をはじめとする露骨な利益誘導(*)がかえって足を引っ張り、自民党などが支援する候補が、民主党推薦候補に9万票差で圧勝する結果となってしまった。長崎は、民主党が比較的強い県として知られ、2009年8月の衆院選でも、風が吹いたとはいえ、4つの小選挙区すべてで同党候補が当選したが、「政治とカネ」の問題が解決していない中では、県民の反応も冷ややかなだった。今後の地方選でこの傾向が定着するようだと、7月の参議院選挙を控えて小沢辞任論が高まるのは必至の状況となるだろう。

(*) 21日付産経新聞によると、民主党の小沢一郎幹事長は、1月17日にあった同党長崎県連のパーティーで、「(推薦候補の)橋本剛君を知事に選んでいただければ自主財源となる交付金も皆さんの要望通りできます。高速道路をほしいなら造ることもできます」と話した。
2月22日放送のテレ朝系「スーパーモーニング」では、石井一選対委員長が1月29日の応援演説で、「時代と逆行するような選択をされるのなら、民主党政権は長崎に対してそれなりの姿勢を示すべき」と語ったと報じた。
2月22日付日経新聞によると、石井氏は、1月28日の決起大会で「島原には道路は造らんといかん」と訴えたという。さらに、前原誠司国交相も、島原で道路を視察し、同30日には「お金も権限も来る」と支援を呼びかけたと報じられている。

2.「政治主導」像の張りぼて加減・失敗のパターン

 ○功をあせりすぎた失敗

 政権奪取後の民主党の動きはすばやかった。特に前原誠司国交相はフットワーク軽く八ッ場ダムの建設工事の中止を通告しに現地入りし、他のダムサイトにもこまめに足を運んでいる。マニュフェスト至上主義の原理行動だった。また、前政権からの課題であった日本航空問題への対応も視界不良・操縦経験なしの状態で強行着陸を自ら設定した「タスクフォース」に委ね結論が出せず時間を浪費。ダッチロールの末なんとか着陸できる場所を見つけて胴体着陸を試み、機体炎上は回避したものの新パイロットの稲盛機長の手腕に頼っても離陸はかなり困難な状況に陥っている。取り込まれてしまうという恐れを官僚に対して持っている政治家は「政治主導」をいつまでも実現できない。官僚からは「子供大臣」と揶揄されておしまいになっている。

 ○連立与党の政治主導は同床異夢の失敗

 国民新党亀井代表(金融・郵政改革担当大臣)と社民党代表福島瑞穂(少子化対策・消費者行政担当大臣)はそれぞれの支持基盤と政治理念に基づき連立の中で埋没しないことに腐心しており、閣議における反対など閣内不一致となる火種がある。沖縄米軍基地移転問題(社民党の強硬な国外・県外移転主張)、外国人参政権問題(国民新党が反対)などの不協和音もあり、この2つの問題は前者が米国との合意の経緯の問題、後者が中国・韓国など民主党が「公約外公約」として利益誘導しようとする支持層への問題が根っこにある。3党合意は以下のようになっており、平常運転の場合は上記の2つの問題を除いては火種はないと思われるが、少数派連立与党のスタンドプレーや「貧者の論理」はみんな結果が平等という悪平等に陥り、望むべき結果に導かれないことが多い。

 -連立政権政策合意骨子(3党が2009年9月9日に合意)
 
 既得権益構造・官僚支配の自民党政治を根底から転換し、政策を根本から改める
 競争至上主義の経済政策をはじめとした自公政権の失政によって、国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安が増大し、社会保障・教育のセーフティーネットはほころびを露呈
 国民からの負託は、税金の無駄遣いを一掃し、国民生活を支援することを通じ、経済社会の安定と成長を促す政策の実施
 連立政権は、家計に対する支援を最重点と位置付け、国民の可処分所得を増やし、消費の拡大につなげる。
 中小企業、農業など地域経済基盤を強化し、年金・医療・介護など社会保障制度や雇用制度を信頼できる、持続可能な制度へと組み替える
 地球温暖化対策として、低炭素社会構築のための社会制度の改革、新産業の育成等を進め、雇用の確保を図る。こうした施策を展開する
 日本経済を内需主導の経済へと転換を図り、安定した経済成長を実現し、国民生活の立て直しを図る

 (1)速やかなインフルエンザ対策、災害対策、緊急雇用対策
 (2)消費税率の据え置き
 (3)郵政事業の抜本的見直し
 (4)子育て、仕事と家庭の両立への支援
 (5)年金・医療・介護など社会保障制度の充実
 (6)雇用対策の強化-労働者派遣法の抜本改正
 (7)地域の活性化
 (8)地球温暖化対策の推進
 (9)自立した外交で、世界に貢献
 (10)憲法

 (全文)http://bit.ly/9YPvKR

 ○過信による失敗

 上記の郵政事業の抜本的な見直しの一環で、ユニバーサルサービスを担保できる郵便局・持ち株会社と4分社の経営形態の見直しを図るために小泉郵政改革で登用された西川元総裁の事実上の更迭と斉藤元財務省次官を後任に指名した。公約である「脱・官僚支配」の真逆の方向性となる官僚中の官僚の元財務次官の登用となった。これは、亀井郵政改革担当大臣の主導による決定(小沢氏は斉藤氏の盟友として当然同意)によるが、旧大蔵省をやめて14年経過しているとして天下りではないと誰が賛成すると思っているのだろうか?
 2月21日の長崎知事選は、民主党が政権政党としての初の地方選に臨んみ、「政治と金」の問題を曖昧なままでスルーするばかりか、露骨な利益誘導的選挙戦略をとってしまった。政権与党の政治力を見せつければ、選挙民はひれ伏すとでも思っていたのだろうか?
 
 ○軽さ・不誠実による失敗

 普天間米軍基地移転をめぐる問題(別稿:1月18日「沖縄米軍基地移転問題について①」、1月30日「沖縄米軍基地移転問題について②」)については、同盟国代表であり、合意内容の再検討をめぐって鋭意交渉中である米国への対応の不誠実さである。一国の首相と一国の大統領が議論し、一定の合意を模索する中での「トラスト・ミー」という言葉は、いわば債券発行のようなものである。「My word is my bond」というロンドン・シティの金言があるが、一度口にした言葉やそれを誠実に実行する責任の重さは、地位が高くなればなるほど取り返しのつかない事態をまねくことがある。

 ○人を使わない失敗

 政治主導も立派な思いであるが、政務三役ですべての行政事務を取り決めていくということは不可能である。重要な問題間の優先順位の問題、想定していなかった突発事項への対処、時間が限られていることの対応など、トップダウンで指示命令し、担当セクションがそれを効率的に処理していかなければ、会社で言えば即倒産ということになってしまう。政治主導というコンセプトをはきちがえ、官僚を有効に使わないということであれば行政はストップ・無政府状態となり、官僚は強いられたサボタージュ・バカンスを享受することになるだろう。

3.民主党マニュフェストで盛られていた内容と現状

 ○ムダ削減 - 国の総予算207兆円を全面的に組み替える

八ッ場ダム中止など難航。事業仕分けなどの手法により予算策定プロセスをガラス張りというか衆人環視の下にさらした。2010年度の削減額は16.8兆円の腹算用が約1兆円にとどまった。

 ○天下り - 天下りあっせん禁止、公益法人は原則廃止

上記のように日本郵政社長のポストに元官僚を起用。独立行政法人役員の公募を始める。

 ○子育て支援 - 子ども手当、高校の無償化

10年度予算に子ども手当半額分(月額1万3000円)、高校の無償化を担保する所要額を計上。4月以上に実施へ。11年度は子ども手当も満額支給を前提に5兆4000億円が必要。

 ○年金 - 2年間記録問題に集中。月額7万円の最低保障年金を創設

記録問題はマニュフェストより予算削減。制度改革の議論は手つかず。ミスター年金とよばれた長妻厚生労働相も疲れ気味。
 
 ○暫定税率 - ガソリン税など暫定税率の廃止

10年度は廃止を見送り。温暖化対策税の創設を検討。

 ○農業支援 - 農業の個別所得保障

10年度予算で約6000億円を確保。コメを先行実施。11年度以降は漁業などに拡大し、最終的に1.4兆円規模の助成予算となる。

 ○高速道路の無料化

10年度予算は概算要求の6000億円から1000億円に削減。無料化対象も交通量の少ない地方に限定して調査として実施。

 ○郵政事業 - 抜本的に見直し

西川前総裁を事実上更迭し、斎藤新総裁を指名。株式売却凍結法が成立。改革法案も提出予定。 

4.新成長戦略の基本方針

  昨年12月に公表された「新成長戦略の基本方針」では、今後10年について、「名目3%、実質2%を上回る成長を実現し、2020年の経済規模を650兆円とすることを目指す。失業率は直近の5.2%から3%台へ低下させる」としている。過去10年間の平均成長率は名目0%、実質1%に過ぎず、経済規模についても2007年度の515兆円が2009年度には473兆円に減少する見込みとなっていることを考えると、「言うは安し、行うは難し」を地でいくことになる。ばら色の絵は描けたものの、その画中に描かれている「餅」は眺めるだけで、そのうち絵の極彩色も退色していくことになるのだろう。自民党政権下での成長戦略は、公共事業主体の土建型国家、構造改革の名の下での供給サイドの生産性向上による成長戦略(行き過ぎた市場原理主義)に縛られてきたと総括した上で、今後は第3の道(環境・健康・観光の分野)における「新たな需要を創造」し、成長を目指すとしている。具体的にはこの3つの分野で2020年までに100兆円の新しい市場と470万人の雇用創出を実現する。

 ○6つの戦略分野

   強みを活かす成長分野  ⇒環境・エネルギー 健康(医療・介護) 
   フロンティアの開拓による成長 ⇒アジア 観光・地域活性化
   成長を支えるプラットフォーム ⇒科学・技術 雇用・人材

 施政方針演説にある、「官」から「民」へ、「中央」から「地方」へ、「コンクリート」から「人」へ、「国内」から「海外・アジア」へというベクトルに基づき、6月頃に取りまとめられる最終案と成長戦略実行計画(工程表)によって実現性の程度が確認されるので、この段階のコメントは難しい。ただ、成長戦略を実現するための財源の担保が可能であるかは、2009年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が過去最悪の40兆6000億円、名目GDP比8.6%という状況でのスタートとなりハードルはかなり高い。また、この考え方が需要創造型への転換とあるように「消費者であり、労働者である人」、つまり消費サイドのロジックで貫かれており、企業の国際競争力を高める生産性の向上や規制緩和などのコンセプトは曖昧で、供給サイドの視点がすっかり欠落している。
 また、上記の新成長戦略の最終案と同時期の6月までに中期的な財政再建目標を掲げる「財政運営戦略」とこの目標達成のために、2011年度から3ヵ年の予算をコントロールする「中期財政フレーム」を作るとしているが、消費税を4年間据え置くという公約も含めて戦略間の矛盾や不整合が目立ち、立ち往生することになろう。

5.鳩山政権は長命か

 平成時代に入り22年目となったが、この間の日本の総理大臣は15人。政治が安定しないと社会経済も安定しないということもあるが、この短期政権では中長期の成長戦略を取りようもなく、「政策よりも政局」に傾斜せざるを得ないということも否めない。

 ○長期政権の特徴(この項2008年9月12日付シティグループ証券資料より一部抜粋)

 歴代首相で、4年以上の政権の座にあったのは、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎の4氏である。この4氏の共通項は以下の通り。
 
  ・厳しい総裁選挙を戦った経験がある
  ・明確な戦略目標がある
    池田勇人 :所得倍増計画
    佐藤栄作 :沖縄返還
    中曽根康弘:三公社(NTT、JR、JT)民営化
    小泉純一郎:郵政公社民営化
  ・強力な参謀がいる
    池田勇人 :大平正芳(官房長官、外務大臣)
    佐藤栄作 :保利茂(官房長官、幹事長)
    中曽根康弘:後藤田正晴(官房長官、総務庁長官)
    小泉純一郎:竹中平蔵(郵政民営化担当大臣、経済財政金融担当大臣、総務大臣)

 これを鳩山首相に当てはめてみる

  ・厳しい政権交代の総選挙を戦った(民主党内では小沢党首の辞任による総裁選で勝利)
  ・明確な戦略目標がある
    鳩山由紀夫:政治主導・脱官僚、コンクリートから人へ
  ・強力な参謀がいる  
    鳩山由紀夫:平野博文(官房長官)、寺島実郎(日本総合研究所会長)、平田オリザ(演出家)

 ○55体制以降の歴代首相

  就任年  首相     出身大学    前職      世襲の有無
  1954年  鳩山一郎   東京大学    地方議員    父が地方議員
  1956年  石橋湛山   早稲田大学   民間      なし
  1957年  岸信介    東京大学    官僚      なし
  1960年  池田勇人   京都大学    官僚      なし
  1964年  佐藤栄作   東京大学    官僚      なし
  1972年  田中角栄   -ー      民間      なし
  1974年  三木武夫   明治大学    民間      なし
  1976年  福田赳夫   東京大学    官僚      なし
  1978年  大平正芳   一橋大学    官僚      なし
  1980年  鈴木善幸   東京水産大学  民間      なし
  1982年  中曽根康弘  東京大学   官僚      なし
  1987年  竹下登    早稲田大学   地方議員    父が地方議員 
  1989年  宇野宗佑   神戸大学中退  地方議員    なし 
  1989年  海部俊樹   早稲田大学   政治家秘書   なし
  1991年  宮沢喜一   東京大学   官僚      父が国会議員
  1993年  細川護煕   上智大学    知事      祖父が首相
  1994年  羽田孜    成城大学    民間      父が国会議員
  1994年  村山富市   明治大学    公務員     なし
  1996年  橋本龍太郎  慶応大学    民間      父が国会議員
  1998年  小渕恵三   早稲田大学   学生      父が国会議員
  2000年  森善朗    早稲田大学   地方議員    父が地方議員
  2001年  小泉純一郎  慶応大学    政治家秘書   父が国会議員
  2006年  安倍晋三   成蹊大学    民間      父が国会議員
  2007年  福田康夫   早稲田大学   民間      父が国会議員
  2008年  麻生太郎   学習院大学   民間      祖父が首相
  2009年  鳩山由紀夫  東京大学    学者      祖父が首相・父が国会議員  

 ○菅副総理・財務大臣はしたたか

 昨年9月16日、鳩山由紀夫内閣発足により、副総理(内閣法第九条の第一順位指定大臣、経済財政相兼科学技術相)に就任し、担当事項として国家戦略局の担当したが、今年1月7日、藤井元財務大臣の体調不良による辞任に伴い、後任の財務大臣に横滑りの形で就任した。なお、経済財政相を続投するばかりか、国家戦略室は仙谷大臣に引き継ぐも国家戦略策定部分の権限は自らの手に残した。早速、消費税議論を開始するとの宣言とマニュフェスト(政権公約)についても政策に効果がなければ見直すという「政策達成目標明示制度」を導入を主導した。2010年、11年と実施した結果を12年度から政策の精査基準をもって予算査定へ反映することになる。これらはすべて菅副総理がもし首相になったときには、極めて重要かつ役に立つ仕組となるはず。

 ○民主党は自ら政権を降りることはない(連立解消はトカゲの尻尾切り)

 衆議院で絶対過半数を占め、解散がなければ今後3年半は政権与党として権限を思う存分に奮うことができる。鳩山首相、菅副首相、岡田外務相、前原国交相小沢党幹事長と5人の党首経験者をそろえ、自民党のようだと批判されようとも首の挿げ替え・政権のたらい回しによる政権維持は可能なラインアップである。これに枝野行政刷新相、野田財務副大臣も加わり、総理総裁候補の育成プロセスも起動し始めているように見える。解散するとしても勝利の方程式とタイミングは民主党の手の中にある。ということで、民主党の長期政権の道は始まったばかりであり、今後国内外の経済環境の好転や予算執行の効果が実感され始めると政権運営に強さもでてくることが予想される。今夏(7月11日想定)の参議院選挙で民主党が過半数を獲得できない、または惨敗を喫するケースでも衆議院の優越からこのシナリオに大きな変化はない。後述の自民党解体プロセスの進行により、「荷崩れ的」(馬糞の川流れといった御仁もあった)に民主党に合流する元自民も増えるのではないか、また公明党が節操もなく政権与党の甘い蜜に擦り寄ってくるケースもあると想定する。w)€刋ネw) 民主党にとっての獅子身中の虫は連立合意に縛られる社民党と国民新党の存在である。参議院の安定運営が上の2つのシナリオのいずれかの場合には是々非々で連立合意の見直しを提起し、実行することになるだろう。

 ○自民党の最終的な解体プロセスは確実に進行中

 自民党の凋落はとどまるところを知らない。(別稿:1月18日「自民党は今何をなすべきか①」、1月25日「自民党は今何をなすべきか②」 )今何をなすか。また、今何をなすことを期待されているかを理解していないし、理解しようともしていない。民主党の「政治とカネ」の問題追及は、天に唾するようなものである。「自民党的」政治とカネという枕詞が必ずつく論点を掘り下げても、国民の政治不信感を高めることはできても、自らは同じ穴のムジナのポジショニングから抜け出すことが出来ない。政策提案をし続けるべきだが、新しい党綱領を見ると政策立案能力欠如が露呈しており暗澹たる思いがする。渡辺みんなの党主の歯切れのよさ、潔さから比較すると2大政党制のもう一つは近い将来「みんなの党」ということになるかもしれない。

2010年2月24日水曜日

Ⅰ 鳩山首相の施政方針演説について

 1月29日の首相施政方針演説の全文を読んだ。マスコミで報道されるのは、もっぱら「いのちを、守りたい」との冒頭切り出しとこのフレーズが全文で24回繰り返したということ。また、具体的な内容が無いため実効性が疑わしいとのコメントである。首相の施政方針演説にはそもそも具体的な実効性のある項目は盛り込まれなくても構わないのであり、文字通りその内容において「施政の方針」が貫かれており時代の要請に適合しておればよいと考える。その中身を聞きも読みもせず、片言隻句を捉えた表面的な批判は的外れであるとともに国民としてよりよい政治・政治家を選ぶという責任を放棄しているともいえる。以下に全文を骨子としてまとめる。

 また、内容についての評価であるが、良い点としては①鳩山家の家訓:「友愛」の精神である博愛的な主義・思想が貫かれている、②拝金的な資本主義はすでに限界的な状況であるとして「新しい公共」という概念を提示している、③国内の限界を海外、特にアジアとの連携で成長していこうとしてる、④政治主導(官邸主導)による行政体制の見直しが明示されている、などあげられる。
 一方、①「総花的」でこの全てを実行できるのか、②何を基準として優先順位を決めるか、③「いのちを守る」予算を実現するための財政規律についてスルーしているなど実務上の措置を考える際に大きな欠陥があることは否めない。この施政方針どおりに全てを同時に運営しようとしても「へそ」がなく、国家レベルでの混乱に陥る可能性が高い。その予兆はすでに現れている。

 ○首相施政方針演説の骨子

1.はじめに
 いのちを、守りたい。⇒いのちを守る予算
  ・生まれてくるいのち、そして育ちゆくいのち⇒少子化への対応
  ・働くいのち⇒雇用問題への対応と新しい共同体のあり方
  ・世界のいのち⇒核廃絶、国際社会における責任や協働ネットワーク
  ・地球のいのち⇒環境・資源問題と生態系の激変への対応や「人間圏」のあり方
 
2.目指す日本のあり方⇒人間が人間らしく幸福に生きていくための経済、社会、教育
  ~マハトマ・ガンジーのことば(7つの社会的大罪)~
  ・理念なき政治
  ・労働なき富
  ・良心なき快楽
  ・人格なき教育
  ・道徳なき商業
  ・人間性なき科学
  ・犠牲なき宗教

 人間のための経済、再び
  経済のグローバル化・情報通信の高度化で便利になる反面で経済システムを制御できない事態
  ⇒経済のしもべとして人間が存在するのではなくて人間の幸福を実現するための経済
  ⇒ステイクホールダーや社会に貢献する日本の企業風土の確立

 「新しい公共」によって支えられる日本⇒5月を目途に具体化
  企業の社会的な貢献、政治の力だけではなく市民・非営利組織の活躍による課題解決
  肥大化した「官」をスリム化し、「新しい公共」を育成支援

 文化立国としての日本
  芸術や文化活動のみではなく、国民の生活・行動様式うあ経済のあり方や価値観を含む
  伝統文化と現代文明の融合:日本へ訪れたいという気持ちとなる愛され、輝きのある国

 人材と知恵で世界に貢献する日本
  人(人格)を育てる教育、人間の可能性(人間性)を創造する科学

3.いのちを守るために⇒予算 公共事業18.3%減、社会保障費9.8%増、文教科学費5.2%増

 子供のいのちを守る
  所得制限のない月額1万3000円の子供手当ての創設
  高校の実質無償化
  「子供・子育てビジョン」⇒待機児童の解消や幼保一体化によるサービス充実
 
 いのちを守る医療と年金の再生
  危機的な国民医療の立て直しと再生⇒医師養成数の増大、診療報酬の改定と配分見直し
  年金集中対応期間(2年間)

 働くいのちを守り、人間を孤立させない
  雇用機会の拡大(雇用調整助成金の支給要件の緩和)
  雇用保険の対象の抜本的拡充
  派遣労働法の見直し
  生活費支援を含む恒常的な求職者支援制度の創設
  男女共同参画の推進
  障害者自立支援法の廃止や障害者権利条約の批准
  自殺対策の強化や救急救命体制の充実
  犯罪捜査の高度化

4.危機を好機に

 いのちのための成長を担う産業の創造
  新たな成長戦略の基本方針
  成長の原動力としての危機:環境・エネルギー・医療・介護・健康
  2020年に1990年比CO2の25%削減⇒グリーン・イノベーションの推進
  地球温暖化対策基本法の策定し、環境・エネルギー関連規制の改革と新制度の導入
  医療・介護・健康産業の質的充実⇒ライフ・イノベーション  

 成長のフロンティアとしてのアジア⇒世界経済におけるわが国の活動の場
  環境問題、都市化、少子高齢化などの日本と共通する課題を共有し、ともに成長する
  アジア地域の自律的な経済成長に貢献できる高度な技術やサービスのパッケージ
  日本への訪問誘致⇒2020年までに2500万人、3000万人目標の総合的な観光政策
  空港、港湾、道路などのインフラ整備の戦略的な推進

 地域経済を成長の源に⇒地域経済の疲弊の緩和・活性化
  地方交付税の1.1兆円の増額
  地域経済活性化・雇用機会の創出を目的とした2兆円規模の景気対策
  農林水産業における新たな価値創出⇒「第六次産業」化
  個別所得補償制度
  食料自給率を50%まで向上
  中小企業の資金繰りへの対応
  「中小企業憲章」の策定
  高速道路の一部無料化への試み
  ユニバーサルサービスを担保できる郵便局・持ち株会社と4分社の経営形態の見直し

5.地域主権と財政規律

 地域主権の確立⇒地域主権革命元年・地域主権戦略大綱・地方分権改革推進計画
  中央集権から自律的でフラットな地域主権型の構造に変革
  地方に対する不必要な義務や枠付けを廃止
  直轄事業負担金制度の廃止
  国と地方との協議の場を法律に基づいて設置
  ひも付き補助金の一括交付金化・出先機関の改革
  「緑の分権改革」推進
  「コンクリートの道」から「光の道」として情報通信技術の利活用

 責任ある経済財政運営⇒中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略
  2009年予算第二次補正予算24兆円の編成
  過去最大規模となる2010年予算の編成⇒切れ目のない景気対策の実行・デフレの克服
  財政の規律(今回新規国債発行額44兆円以下)
  事業仕分けや公益法人の基金返納などで3兆円捻出
  複数年度を視野に入れた中期財政フレームの策定

6.責任ある政治の実践

 「戦後行政の大掃除」の本格実施
  予算編成の議論を事業仕分けという公開の場で実施
  規制や制度のあり方の抜本的見直し
  独立行政法人や公益法人の必要性の検証
  特別会計の整理統合
  一般会計と特別会計を合わせた総予算を全面的に組み替え
  行政刷新会議を法定化し、権限と組織を強化 

 政治主導による行政体制の見直し
  行政組織や国家公務員のあり方を見直しと意識改革
  縦割り省庁行政を廃し、国家的観点からの予算・税制の編成を担う国家戦略局の設置
  内閣人事局の設置による幹部人事の内閣一元管理
  政府内における国会議員の職責の充実強化を担保する関連法策定
  府省編成の見直し
  天下りの根絶と国家公務員の労働基本権のあり方、定年まで勤務できる環境等

 政治家自ら襟を正す
  議員定数や歳費のあり方
  政治資金の問題

7.世界に発信する日本

 文化融合の国、日本
  多様な文化は技術を吸収し、独自の文化との融合で豊かな文化をはぐくんできた
  伝統的な価値観は大切にしつつ、新たな文化交流・人的交流に積極的に取り組む
  新しい価値観を世界に発信していく

 東アジア共同体のあり方
  東アジア共同体は「いのちと文化」の共同体
  日米同盟はその前提条件となる重要な位置づけ
  多角的な自由貿易体制の強化が第一の利益

 いのちと文化の共同体
  東アジア共同体の具体策はいのちを守るための協力、文化面での交流の強化
  地震・台風・津波などの自然災害対策の協働
  新型インフルなど感染症・疾病への対応策の協働
  米国中心の人道支援「パシフィック・パートナーショップ」に海上自衛隊の輸送艦派遣

 人的交流の飛躍的充実
  今後5年間にアジア各国を中心に10万人を超える青少年を日本に招聘
  域内各国言語・文化の専門家の育成
  アジア太平洋経済協力会議(APEC)の枠組みの充実強化

 日米同盟の深化
  今年は日米安保条約改定50周年
  日米安全保障体制はアジア・世界の平和と繁栄に不可欠・重要な存在
  日米同盟の成果・課題の総括と重層的な同盟関係への深化・発展
  国連総会で採択された「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」で日米協調
  普天間基地移転問題の最善な解決策の5月末までの策定
  気候変動問題における技術協力や共同実証実験、研究者の交流の実施

 アジア太平洋地域における二国間関係
  日中間の戦略的互恵関係の充実
  日韓関係の節目韓国併合100周年における未来志向の友好関係強化
  ロシアとの北方領土問題の解決・アジア太平洋地域における協力強化
  北朝鮮の拉致・核・ミサイルの諸問題の包括的な解決と日朝国交正常化
  6カ国協議による緊密な連携と拉致問題対策本部のもと解決に向けてた最大限の努力 

 貧困や紛争、災害からいのちを救う支援
  発展途上国や紛争地域における飢餓や貧困で苦しむ人々への支援
  ハイチ地震など被災者への救済策(自衛隊派遣や緊急・復興支援金の提供)
  国連など国際機関や主要国との密接な連携

8.むすび

 いのちを守りたい。
 15年前の阪神・淡路大震災の教訓⇒防災・減災への取り組み
 「新しい公共」の出発点 

2010年2月4日木曜日

「小沢一郎」的政治業の限界と破綻

1.はじめに

 「小沢一郎」的政治業とは、、、と書いて続ける気の重さに戸惑ってしまう。私たち国民が求めている「政治家」像とは、私の考えではそれと全く異なる「政治屋」の属性と思われる。また、それならば、その政治屋をどの程度知り、分析し、理解したうえで論じるのか。伝えられた間接的な虚像をもって判断する気の重さ。さは然り乍ら、そうせざるを得ない対象であることの重さ。それを意識しつつ進めていこう。

 政治家の在り方とは、選挙民から選挙によって選出され、その付託された権限に基づいて、法律(ルール)を制定し、選挙民の福利厚生や益増進に貢献すること。また、関連する内外の利害関係を調整することなどが実務的な面といえる。さらに、その根本となる精神的な面は、国家(団体)の方向性や意義をビジョンとして指し示し、己を捨ててもこれを達成するというリーダーシップを持つことであろう。

 小沢一郎的な政治屋の成り立ちを簡略に記すところから本題に入ろう。27歳という若さで初当選してから、田中角栄元首相に引き立てられ薫陶を受けた。その後、自治大臣兼国家公安委員長を経て、自民党幹事長に就任。常に政治の全線で剛腕と破壊を繰り返す、政界の「壊し屋」政治屋の経歴の始まり始まり。

 宮沢内閣の不信任決議の際に造反し、自民党を離党。流動化の中心として、新生党、新進党、自由党を経て、自民党との自・自連合で政権に復帰。その後、自自公政権で存在感が低下した自由党は連立を離脱。この際に連立残留派と政党助成金の分割を巡った「金(カネ)」を巡る争いを起こす。その後民主党と自由党の合併となり、この際に自由党から小沢一郎が代表を務める改革国民会議に自由党の政党助成金5億6096万円を含む13億6816万円の寄付行われ、ここでも「金(カネ)」を巡る問題を起こした。その後、民主党代表となるものの自民党福田総理総裁との連立を民主党代表としてリードするも党内の合意を得られず、「プッツン」したとして代表辞任を訴えるも慰留を受け続投。また、2009年5月に西松建設疑惑関連で公設秘書が逮捕された件で代表を辞任した。

 小泉劇場・自民党人気のあおりを受けて存在感のない民主党であったが、安倍、福田、麻生と政権たらいまわしの中で景気後退や政治不信が募り、自民党が自滅的に国民の信を失う中、2009年の衆議院選挙で「政権交代」を旗印に地道な選挙戦を戦い抜き、自民党政権を終焉に追い込んだ第一人者。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%B2%A2%E4%B8%80%E9%83%8E

2.政治家の姿

 価値観は個人的なもので、また、時代背景により異なることもあるが、明治維新の偉勲の一人である西郷隆盛の政治家の在り方を記した「西郷南洲遺訓」を例としてとりあげよう。

 万民の上に位する者、己を慎み、品行を正しくし、驕奢を戒め、節倹を努め、職事に勤労して人民の標準となり、下民その勤労を気の毒に思ふ様ならでは、政令は行なはれ難し。
 租税を薄くして民を裕にするは即ち国力を養成する也。故に国家多端にして財用の足らざるを苦しむとも、租税の定制を確守し、上を損じて下を虐げぬもの也。
 会計出納は制度の由って立つ所、百般の事業皆これより生じ、経綸中の枢要なれば、慎まずばならぬ也。その大体を申さば、入るを量りて出ずるを制するの外、更に他の術数なし。
 節義廉恥を失ひて、国を維持するの道決してあらず。西洋各国同然なり。上に立つ者下に臨みて利を争い義を忘るる時は、下皆これに倣ひ、人忽ち財利に趨る。
 命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也。この仕末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬ也。

3.判断の根拠

 直接会ったこともないので人のコメントなどを三題話としてまとめよう。

(石原慎太郎氏の判断)

「私は彼を評価しません。あの人ほどアメリカの言いなりになった人はいない。大した党にならないと思うね」と酷評。「(小沢氏は)自民党を牛耳っていた金丸信元副総裁らを背景に自民党幹事長を務めたが、アメリカに言われて、造らなくていい公共工事をやって、湾岸戦争の時は、一瞬にして戦費支出を決めた。自民党で一番いい思いをしたのは、あのグループ(旧経世会)じゃないの」と指摘。

産経新聞に掲載された「日本へ」(石原慎太郎によるエッセイ)

 あの後とは、私が議員時代自民党が金丸信なる悪しき実力者の君臨の下経世会に支配され、その後体よく自民党を割って飛び出し新党を作って転々し今は民主党のフィクサーとして在る小沢一郎がその配下として幹事長を務めていた頃、日本はアメリカから構造協議なるものを持ちかけられ内需の拡大という美名の下に貿易を抑制し国内で無駄な支出を重ねることで国力を衰弱させよという圧力に屈した後々のことだ。大体、「構造協議」などという二国間協議のもっともらしい名称は国民の目を憚(はばか)るために日本の役人たちが改竄(かいざん)したもので、相手側の原文はストラクチュラル・インペディメンツ・イニシャティブ(構造障壁積極構想)、その「積極性」を持つ者は当初からアメリカということだ。それを当時の政府は国民への体裁を考慮し敢えての改訳を行った。そもそもこうした経済会議はOECDとかWTOといった汎世界的な協議機関で論じられるべきなのだが、他の先進国たちも相手が日本なら放っておけということでアメリカの非を唱えはしなかった。
 その場でアメリカが持ち出した要求は二百数十項目にも及ぶ内容で、中には日本の実情を無視した荒唐無稽(むけい)なものも数多くあった。それに対して私たち有志の勉強会「黎明の会」は日本としての対案を百四十項目作って相手にぶつけさせようとしたが、その提案を申し込んだ自民党の最高議決機関の総務会を小沢幹事長は会期末に意図的に三度続けて開かずに封殺した。仕方なしに他に場所をもうけ、外国人記者クラブでもその案を発表したが、当時の日経連会長の鈴木永二さんにこんな良い案の発表が遅すぎると叱(しか)られたものだった。

 しかしその後金丸、小沢体制下の自民党政府はさらに、向こう八年間に400兆の公共事業を行って内需を刺激せよというアメリカからの強い要請を丸呑みして、結果としてそれを上回るなんと430兆の公共事業を行ってのけたのだった。その結果夜は鹿か熊しか通らぬ高速道路があちこちの田舎に出来上がった。

「Will」2007年9月号に寄せられた石原慎太郎による記事「小沢総理なんてまっぴらだ」より

 そして1991年に湾岸戦争が起きた。ブレディというアメリカの財務長官が日本に圧力をかけに飛んできた。アメリカにはカネがないから、日本はカネを出せと言いに来た。
 当時は傀儡政権の海部政権、これは金丸と小沢が作った内閣です。金丸は海部の言うことなんか全く聞かずに、自分で人事をし、内閣を作った。海部は総理にしてもらっただけで、人事は何もできなかった。
 その海部内閣の主要閣僚、外務大臣・中山太郎、大蔵大臣・橋本龍太郎、通商産業大臣・武藤嘉文、内閣官房長官・坂本三十次の四人で紀尾井町の「福田屋」という料理屋で接待したら、ブレディがいきなり40億ドル出せと言った。
 四人はぶったまげて「そんなカネは急には出せない」と断った。ブレディは繰り返し三回言った後、「駄目なら俺は帰るぞ。駄目なんだな」と念を押した。
 「よしわかった。これで日米関係は悪くなる。あんた方の責任だ。もう一回名前を教えろ。中山、橋本、武藤、坂本だな」。
 そうしたら慌てて一人が立ち上がって「ちょっと待ってください!」。恐らく官房長官の坂本でしょう、そう言ってある人に電話をかけた。
 当然、相手は幹事長の小沢です。その後には金丸がいたろう。小沢が相談して、金丸が「それじゃあ出してやれ」となって、40億ドル出すことになった。
 ブレディは日本に四、五時間しかいなかったのに40億ドルせしめて帰ってきて、ワシントンで記者会見をした。
 私は日本の政治家で一人だけ外人記者クラブのメンバーなんです。年中アメリカ人の記者と喧嘩する。喧嘩すると仲良くなるので、こちらに嫌な情報も教えてくれる。その一人からブレディの情報を聞いた。けれども嘘か本当かわからない。NHKの日高義樹くんが当時ワシントンの支局にいたので、帰国した時に裏をとって聞きました。その通りだと。

 記者会見で、記者が「あまり機嫌がよくないけど、日本はやっぱりカネを出しませんでしたか」と聞いた。ブレディは「出したよ」と答える。
 記者が「不機嫌なのを見ると、額が少ないんですね?いくらなんですか?」と聞かれて、ブレディが「40億ドル」と言ったら、みんなぶったまげた。
 日本に数時間しかいなくてそれだけのカネが取れたのなら大成功じゃないですか、と言われたブレディがニヤッと笑って「俺は二日かかると思ったんだが、アイツらちょっと脅かしたら四時間でカネを出した。だったら最初からもっとふっかければよかった」。こんなことまで言われていたんだ。
 その後、さらにアメリカは90億ドルを要求してきた。さすがにこれは内閣の一存では決まりませんから、九月に臨時国会を開いて、結局、合わせて130億ドルを出してアメリカの戦争を助けた。
 ところが出した直後に戦争は終わってしまった。カネをどう使ったか報告がない。日本にキックバックしたという噂があります。日本のメディアはやる能力も覇気もないから調べられない。アメリカ人の二人の記者が書きました。そのカネが誰にいったのか。想像に難くないけど。

 そして、それからすぐ小沢一郎は党を割って出て行った。
 その後、1992年に金丸事件が起き、金丸さんは略式起訴された。警察が金丸さんの事務所に踏み込んでみると、刻印のない金の延べ棒が出てきた。金塊というのは、それを作った国の刻印が必ずあるんです。刻印のない金塊は北朝鮮です。北とどういう取り引きがあってのことか。途中で当人が亡くなってしまい真相は闇に葬られてしまった。
 小沢・金丸は何をやったんですか。アメリカに約束した八年間に430兆のカネを無駄遣いして日本の経済力を弱めた。
 430兆のカネを使って何をやったか。沖縄の経済需要の全くない島に5万トンのコンテナ船が着くような港ができている。市長が自慢して見に来てくれと言われたけれど、船が来るのかと聞けばニヤニヤ笑うだけ。
 北海道で熊や鹿しか出てこないようなところに道路を作った。その先に街なんかありゃしない。そういう馬鹿なことをやった。みんな国民の税金です。そのため国債も発行した。それで日本の財政はガタガタになってしまった。
 いまだに670兆という厖大な国債がある。あっという間にイタリアの倍の国債依存率になってしまった。この体たらくを作ったのは誰なんですか。

 今、年金の問題で騒がれているが、これはまさしく組合の体質の問題だ。四十五分働いて十五分休む。一日にキーボード五千字しか打たない。原稿用紙にしたら十二枚半だ。小説で十二枚半書くのは大変だけど、そこにある資料を打ち込むだけです。こんなものを業務協定で約束させる組合なんて、昔の国鉄よりもっと悪い。
 国鉄は民営化することによってよくなった。当時の国鉄の中に、西日本の井出、東日本の松田とか、東海の葛西とか、そうそうたる連中が体を張って組合と戦い、殺されるのを覚悟で民営化した。
 社保庁も安倍総理が、このままじゃ駄目だ、一度つぶして、解体し新しいものにしようとしている。それに反対しているのは組合におもねっている民主党じゃないですか。

 アメリカの言いなりになって、いまだに国をアメリカ化するための要望書をつきつけられている。こんな国は日本しかない。こんな体制を作ったのは誰か。小沢一郎じゃないですか。こんな男がリードする政党が日本を変えていくとはとても思えない。
 私は民主党に期待しているんです。しかし岡田君も挫折した。前原君もつまらんことで挫折した。ああいう若い人たちがもう一度立ち上がって、若い仲間と若い発想で、自民党が思いもつかないことを考えてやってくれることを期待しています。

 しかし現在上に立っている小沢一郎たちに、何を期待するんですか。彼が過去にやってきたことを思い出すと、本当に怖い。彼が日本の親父になるのは、ひとりの日本人として、まっぴらゴメンです。

(奥村貞雄氏の判断)

奥村貞雄氏は自民党幹事室に1965年から1996年の31年間勤め、22名の幹事長に仕えた。以下は「自民党幹事長室の30年」(中央公論社2002年12月10日発行)からの引用。

幹事長室長として最初に仕えた田中角栄こそベストの幹事長だった。では、ワーストワンは?と聞かれれば、私は躊躇なくこの人物の名前を挙げる。
 小沢一郎である。海部内閣での幹事長就任。この時47歳。奇しくも師匠である田中角栄が幹事長になったのと、同年齢であった。権力欲が旺盛で警戒心がことのほか強かった。自民党が参議院で少数派であるため、予算、補正予算、暫定予算と参議院で否決され、両議院協議会での協議。与党として国会対策に煩雑で胃の痛くなるような調整を強いられた。このような情勢の中、小沢がもっとも血道をあげていたのは、自らの基盤固めであった。昼時になると決まって自派(竹下派)の若手だけを5~6人程幹事長室に招き入れ、奥の個室で懇談の時間を持っていた。幹事長室に自派の議員を引きずりこんで、自分のシンパ拡大に励んだ政治家は他にはいない。

二日酔いで重要会議すっぽかし

1991年米英を中心とする多国籍軍がイラクを攻撃し、湾岸戦争が勃発する。自衛隊の多国籍軍支援などをめぐって議論が沸騰している中、1月24日に自民党は定期党大会を開く。前日には各都道府県の幹事長を集め全国幹事長会議が開かれる予定となっていた。結論から言うと、その重要な会議の前夜、小沢は通産官僚と痛飲し、「高熱のため出席できなくなった」とこの重要な局面の重要な会議をすっぽかしたのだ。憲法と自衛隊の在り方が真正面から議論されている「有事」に開かれる党大会であり幹事長会議をさぼる。日頃「日本はこんな平和ボケでいいのか」とのたまうその人の真の姿なのである。

(岩手県地元建設会社)

 「野党」の党首や幹事長として職務権限が法の違反を構成する立場にはないので、贈収賄として法を犯していないというのか。では「天の声」とは、何か。工事受注を邪魔されたくないので「企業献金をした」という動機はどこにあるのか。政治家の在り方としての選挙民やその他利害関係者への総合的な福利厚生に貢献するといった謙虚な姿は全く見えない。
 「多少とも何か理念を揚げるのなら、自分がいったい何をしてきたのか、その実態を洗いざらい総括して国民に示し、まず謝罪すべきではないか。冗談じゃないですよ」(AERA 2010年1月25日)

4.政治資金規正法違反

 元秘書らの政治資金規正法違反は、2004年、2005年にあったとされる容疑である。政治資金規正法違反の虚偽記載罪(罰則は最大禁固5年)の時効は5年である(刑事訴訟法250条の5)。時効は犯人もしくは共犯者が起訴された場合には停止する(刑事訴訟法254条1項、2項)。つまり、元秘書ら3名が起訴されれば、29005年以降については、小沢氏が関連していれば小沢氏の時効の対象にはならない。

5.それでいいのか

 疑わしきは罰せずは法の精神であるが、政治家は疑わしきは説明せよである、と日経新聞は書いている。国民の税金である政党助成金は、政治活動=国民の福利厚生に資する事項のための活動に費消してもよいのであって、不動産購入がこれにあたるのか。

 西郷南洲曰く、万民の上に位する者、己を慎み、品行を正しくし、驕奢を戒め、節倹を努め、職事に勤労して人民の標準となり、下民その勤労を気の毒に思ふ様ならでは、政令は行なはれ難し、ということではないか。

 このような政治はいらない。