1月29日の首相施政方針演説の全文を読んだ。マスコミで報道されるのは、もっぱら「いのちを、守りたい」との冒頭切り出しとこのフレーズが全文で24回繰り返したということ。また、具体的な内容が無いため実効性が疑わしいとのコメントである。首相の施政方針演説にはそもそも具体的な実効性のある項目は盛り込まれなくても構わないのであり、文字通りその内容において「施政の方針」が貫かれており時代の要請に適合しておればよいと考える。その中身を聞きも読みもせず、片言隻句を捉えた表面的な批判は的外れであるとともに国民としてよりよい政治・政治家を選ぶという責任を放棄しているともいえる。以下に全文を骨子としてまとめる。
また、内容についての評価であるが、良い点としては①鳩山家の家訓:「友愛」の精神である博愛的な主義・思想が貫かれている、②拝金的な資本主義はすでに限界的な状況であるとして「新しい公共」という概念を提示している、③国内の限界を海外、特にアジアとの連携で成長していこうとしてる、④政治主導(官邸主導)による行政体制の見直しが明示されている、などあげられる。
一方、①「総花的」でこの全てを実行できるのか、②何を基準として優先順位を決めるか、③「いのちを守る」予算を実現するための財政規律についてスルーしているなど実務上の措置を考える際に大きな欠陥があることは否めない。この施政方針どおりに全てを同時に運営しようとしても「へそ」がなく、国家レベルでの混乱に陥る可能性が高い。その予兆はすでに現れている。
○首相施政方針演説の骨子
1.はじめに
いのちを、守りたい。⇒いのちを守る予算
・生まれてくるいのち、そして育ちゆくいのち⇒少子化への対応
・働くいのち⇒雇用問題への対応と新しい共同体のあり方
・世界のいのち⇒核廃絶、国際社会における責任や協働ネットワーク
・地球のいのち⇒環境・資源問題と生態系の激変への対応や「人間圏」のあり方
2.目指す日本のあり方⇒人間が人間らしく幸福に生きていくための経済、社会、教育
~マハトマ・ガンジーのことば(7つの社会的大罪)~
・理念なき政治
・労働なき富
・良心なき快楽
・人格なき教育
・道徳なき商業
・人間性なき科学
・犠牲なき宗教
人間のための経済、再び
経済のグローバル化・情報通信の高度化で便利になる反面で経済システムを制御できない事態
⇒経済のしもべとして人間が存在するのではなくて人間の幸福を実現するための経済
⇒ステイクホールダーや社会に貢献する日本の企業風土の確立
「新しい公共」によって支えられる日本⇒5月を目途に具体化
企業の社会的な貢献、政治の力だけではなく市民・非営利組織の活躍による課題解決
肥大化した「官」をスリム化し、「新しい公共」を育成支援
文化立国としての日本
芸術や文化活動のみではなく、国民の生活・行動様式うあ経済のあり方や価値観を含む
伝統文化と現代文明の融合:日本へ訪れたいという気持ちとなる愛され、輝きのある国
人材と知恵で世界に貢献する日本
人(人格)を育てる教育、人間の可能性(人間性)を創造する科学
3.いのちを守るために⇒予算 公共事業18.3%減、社会保障費9.8%増、文教科学費5.2%増
子供のいのちを守る
所得制限のない月額1万3000円の子供手当ての創設
高校の実質無償化
「子供・子育てビジョン」⇒待機児童の解消や幼保一体化によるサービス充実
いのちを守る医療と年金の再生
危機的な国民医療の立て直しと再生⇒医師養成数の増大、診療報酬の改定と配分見直し
年金集中対応期間(2年間)
働くいのちを守り、人間を孤立させない
雇用機会の拡大(雇用調整助成金の支給要件の緩和)
雇用保険の対象の抜本的拡充
派遣労働法の見直し
生活費支援を含む恒常的な求職者支援制度の創設
男女共同参画の推進
障害者自立支援法の廃止や障害者権利条約の批准
自殺対策の強化や救急救命体制の充実
犯罪捜査の高度化
4.危機を好機に
いのちのための成長を担う産業の創造
新たな成長戦略の基本方針
成長の原動力としての危機:環境・エネルギー・医療・介護・健康
2020年に1990年比CO2の25%削減⇒グリーン・イノベーションの推進
地球温暖化対策基本法の策定し、環境・エネルギー関連規制の改革と新制度の導入
医療・介護・健康産業の質的充実⇒ライフ・イノベーション
成長のフロンティアとしてのアジア⇒世界経済におけるわが国の活動の場
環境問題、都市化、少子高齢化などの日本と共通する課題を共有し、ともに成長する
アジア地域の自律的な経済成長に貢献できる高度な技術やサービスのパッケージ
日本への訪問誘致⇒2020年までに2500万人、3000万人目標の総合的な観光政策
空港、港湾、道路などのインフラ整備の戦略的な推進
地域経済を成長の源に⇒地域経済の疲弊の緩和・活性化
地方交付税の1.1兆円の増額
地域経済活性化・雇用機会の創出を目的とした2兆円規模の景気対策
農林水産業における新たな価値創出⇒「第六次産業」化
個別所得補償制度
食料自給率を50%まで向上
中小企業の資金繰りへの対応
「中小企業憲章」の策定
高速道路の一部無料化への試み
ユニバーサルサービスを担保できる郵便局・持ち株会社と4分社の経営形態の見直し
5.地域主権と財政規律
地域主権の確立⇒地域主権革命元年・地域主権戦略大綱・地方分権改革推進計画
中央集権から自律的でフラットな地域主権型の構造に変革
地方に対する不必要な義務や枠付けを廃止
直轄事業負担金制度の廃止
国と地方との協議の場を法律に基づいて設置
ひも付き補助金の一括交付金化・出先機関の改革
「緑の分権改革」推進
「コンクリートの道」から「光の道」として情報通信技術の利活用
責任ある経済財政運営⇒中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略
2009年予算第二次補正予算24兆円の編成
過去最大規模となる2010年予算の編成⇒切れ目のない景気対策の実行・デフレの克服
財政の規律(今回新規国債発行額44兆円以下)
事業仕分けや公益法人の基金返納などで3兆円捻出
複数年度を視野に入れた中期財政フレームの策定
6.責任ある政治の実践
「戦後行政の大掃除」の本格実施
予算編成の議論を事業仕分けという公開の場で実施
規制や制度のあり方の抜本的見直し
独立行政法人や公益法人の必要性の検証
特別会計の整理統合
一般会計と特別会計を合わせた総予算を全面的に組み替え
行政刷新会議を法定化し、権限と組織を強化
政治主導による行政体制の見直し
行政組織や国家公務員のあり方を見直しと意識改革
縦割り省庁行政を廃し、国家的観点からの予算・税制の編成を担う国家戦略局の設置
内閣人事局の設置による幹部人事の内閣一元管理
政府内における国会議員の職責の充実強化を担保する関連法策定
府省編成の見直し
天下りの根絶と国家公務員の労働基本権のあり方、定年まで勤務できる環境等
政治家自ら襟を正す
議員定数や歳費のあり方
政治資金の問題
7.世界に発信する日本
文化融合の国、日本
多様な文化は技術を吸収し、独自の文化との融合で豊かな文化をはぐくんできた
伝統的な価値観は大切にしつつ、新たな文化交流・人的交流に積極的に取り組む
新しい価値観を世界に発信していく
東アジア共同体のあり方
東アジア共同体は「いのちと文化」の共同体
日米同盟はその前提条件となる重要な位置づけ
多角的な自由貿易体制の強化が第一の利益
いのちと文化の共同体
東アジア共同体の具体策はいのちを守るための協力、文化面での交流の強化
地震・台風・津波などの自然災害対策の協働
新型インフルなど感染症・疾病への対応策の協働
米国中心の人道支援「パシフィック・パートナーショップ」に海上自衛隊の輸送艦派遣
人的交流の飛躍的充実
今後5年間にアジア各国を中心に10万人を超える青少年を日本に招聘
域内各国言語・文化の専門家の育成
アジア太平洋経済協力会議(APEC)の枠組みの充実強化
日米同盟の深化
今年は日米安保条約改定50周年
日米安全保障体制はアジア・世界の平和と繁栄に不可欠・重要な存在
日米同盟の成果・課題の総括と重層的な同盟関係への深化・発展
国連総会で採択された「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」で日米協調
普天間基地移転問題の最善な解決策の5月末までの策定
気候変動問題における技術協力や共同実証実験、研究者の交流の実施
アジア太平洋地域における二国間関係
日中間の戦略的互恵関係の充実
日韓関係の節目韓国併合100周年における未来志向の友好関係強化
ロシアとの北方領土問題の解決・アジア太平洋地域における協力強化
北朝鮮の拉致・核・ミサイルの諸問題の包括的な解決と日朝国交正常化
6カ国協議による緊密な連携と拉致問題対策本部のもと解決に向けてた最大限の努力
貧困や紛争、災害からいのちを救う支援
発展途上国や紛争地域における飢餓や貧困で苦しむ人々への支援
ハイチ地震など被災者への救済策(自衛隊派遣や緊急・復興支援金の提供)
国連など国際機関や主要国との密接な連携
8.むすび
いのちを守りたい。
15年前の阪神・淡路大震災の教訓⇒防災・減災への取り組み
「新しい公共」の出発点
まだ見ぬ春
1 年前
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