2010年1月30日土曜日

沖縄米軍基地移転問題について②

 混迷を深める沖縄普天間の米軍基地移転問題。1月18日の小論に続いて論説をまとめた上で、鳩山首相が言明した5月やバマ米大統領の訪日が想定されている11月までの政策決定につながる提言としよう。

1.在日米軍基地の再編の背景 - 単なる沖縄の問題ではない

  唯一のスーパーパワーとしての地位を強めた1991年のソ連崩壊と冷戦構造の終結や2001年9月11日の米国同時多発テロの発生により、2001年以降、米国は従来の軍事戦略・防衛に関する枠組みを大幅に見直す必要が生じた。この背景には、イラクの大量破壊兵器問題やアフガニスタンにおける駐留継続の中、人的被害を抑制するためのITの活用など軍事技術の進展もある。2001年以降、米国防総省は、Transformationとして、米国軍配置を世界的な観点で見直す作業に着手。軍事的に不安定な地域(不安定の孤)に対する即応体制を主眼とした再編を進めてきている。その「孤」を形成する東シナ海・北朝鮮・ 中台海峡などアジア地域の軍事戦略は世界的戦略の柱の一つであり、その潜在的な脅威としては、社会主義国として軍事プレゼンスを拡大する中国および核保有の野心を隠さない北朝鮮が引き続き定義されている。この脅威に対応しつつも、米軍のトランスフォーメーションを円滑に遂行することは、日本および韓国やフィリピンにおける在留米軍基地の最適な再編・縮小を実現することであり、単なる撤退といった誤った政治的なメッセージを生まないようにしなければならない。

2.「日米同盟:未来のための変革と再編」中間報告の合意

 日米両国は2005年10月29日に米国防総省において、外務・防衛担当の4閣僚による日米安保協議委員会(2プラス2)を開催し、在日米軍と自衛隊の再編についての基本的な考えかたや当面の二国間の安全保障・防衛協力での態勢強化に不可欠な措置をまとめ、「日米同盟:未来のための変革と再編」として中間報告として大枠合意した。米国側は、中間報告という位置づけではなく、基本的な合意で変更の余地はないという理解であり、自民党から民主党への政権交代によって中間報告にすぎないという議論のすり替えに妥協する可能性は低い。この合意の意図は、国内基地規模の縮小と再編、共同訓練等の強化や共同戦略展開の方向性である。

 【主な合意内容】

○沖縄県
・普天間飛行場
 普天間飛行場を日本側に返還するために代替施設を2014年までにキャンプ・シュワブ海岸線陸上部 と大浦湾海域にまたがった地域(名護市、辺野古沿岸)に建設する。周辺集落上空を飛行ルートから外すため、2本の滑走路がV字状に設置される(図参照)。各滑走路は1,600mとなる予定。普天間飛行場は代替施設が完成後返還される。
・第3海兵遠征軍
 2014年までに、第3海兵遠征軍司令部。第3海兵師団司令部、第3海兵役務支援軍司令部、第1海兵航空団司令部、第12海兵連隊司令部等約8,000人及びその家族約9,000人をグアムに移転する。家族住宅を日本負担で約3,500戸建設する。グアムに建設される施設の整備費102.7億ドルのうち、日本側が60.9億ドルを支出する。
・キャンプ桑江
 全面返還。
・キャンプ瑞慶覧
 一部返還。
・牧港補給地区
 全面返還。
・那覇港湾施設
 浦添埠頭地区に新施設を建設し移転する。その後、全面返還。
・陸軍貯油施設(第1桑江タンク・ファーム)
 全面返還。普天間飛行場代替施設の桟橋に貯油施設を建設する。
・自衛隊
 陸上自衛隊-キャンプ・ハンセンで訓練を行う。
 航空自衛隊-嘉手納飛行場で日米共同訓練を行う。

○神奈川県
・キャンプ座間
 キャンプ座間(相模原市、座間市)へ、2008年度までに米陸軍第1軍団(米ワシントン州)をUEx:Unit of Employment Xに改編して移転。http://www.rimpeace.or.jp/jrp/riku/zama/uex.html 2012年までに陸上自衛隊中央即時集団司令部も朝霞駐屯地から移転する。チャペル・ヒル住宅地区のうち、1.1ヘクタールを住宅移設後に返還する。
・相模総合補給廠
 相模総合補給廠に戦闘指揮訓練センターを新たに建設する。小田急電鉄多摩線を延伸し、鉄道を平行して道路を建設するため、2ヘクタールを返還。西側の野積場(52ヘクタール)のうち、15ヘクタールを返還。35ヘクタールを地元との共同使用とする。
・厚木飛行場
 厚木基地へ岩国基地の海上自衛隊のP-3C等が移転する。

○東京都
・横田飛行場
 航空自衛隊航空総司令部を米軍横田飛行場(福生市、立川市など5市1町)に移転し、第5空軍司令部と併置する。日米統合運用調整所が設置された。日米両政府は、横田空域の管制権返還、飛行場の軍民共同使用について検討する。

○山口県
・岩国飛行場
 厚木基地の第5空母航空団(空母艦載機のF/A-18Cレガシー歩―ネット、F/A-18Fスーパーホーネット、EA-6BプラウラーおよびE-2Cホークアイ飛行隊)を岩国基地に移転。
 普天間飛行場の空中給油機KC-130ハーキュリーズは、飛行隊司令部、整備施設等とともに、岩国飛行場へ移転する。海上自衛隊鹿屋基地(鹿屋市)、グアムへ定期的にローテーション展開する。

○全国
・嘉手納飛行場、三沢飛行場、岩国飛行場における米軍の航空機訓練を千歳基地(千歳市)、新田原基地(新富町)、百里基地(小美玉市)、小松基地(小松市)、築城基地(行橋市)、三沢飛行場(三沢市)の6基地の自衛隊施設で行う。

3.沖縄米軍基地の全貌と普天間・辺野古
 
・沖縄における米軍基地
 沖縄の平地部の7割を占めるという米軍基地の全体像は以下の地図で

column/


・辺野古沖基地















4.結論に向けての考慮点

  もつれにもつれた、Gordian Knot(ゴーデァン・ノット)を一刀両断に解決することは不可能と思われるが、顧慮点を以下にあげてみる。

 (推進論)
 ・日米安保条約に基づいた平和と繁栄の実績
 ・日米両国は長期間(13年)をかけて基本方針として合意
 ・米国のグローバルな規模でにすでに展開している軍事戦略の一環
 ・代替策(基地受入地方自治体)がない(検討時間もない)
 ・代替策はコストがさらに嵩む可能性

 (反対論)
 ・在日米軍の趨勢的な国外撤退戦略の推進(対等な関係の樹立)
 ・連立政権における社民党の強硬な反対と連立維持
 ・反対派の稲嶺氏を24日の市長選(民主・共産・社民・国民推薦)で選出した名護市民の民意
 ・辺野古はジュゴンの生息地とする自然環境保護

5.展望

 鳩山首相は、オバマ大統領との信頼関係が確立できていない状況となっており、また、自らの政治献金問題、小沢民主党幹事長の政治資金問題等により、政権樹立時の民主党および鳩山首相の支持率が急速に低下してきている。「5月まで結論を得る」との言明も、平野官房長官の迷走も含めて、コントロール・タワー不在の中で道筋が見えていない。小沢幹事長もその剛腕発揮を封じ込められている。
 このような中で鳩山首相は、28日に「普天間基地の継続使用は選択肢としてない」と、自ら最後の妥協的選択肢をつぶしてしまった。ということで、残された選択肢は2つで前者の可能性が高い。(軍事評論家の田岡俊次氏の佐世保付近移転案を追記:1月31日)
 
 (選択肢)

 ○現行案で着地

 ・来年度予算を今年度中に可決したタイミングで社民党を切り捨てる形で現行案に揺れ戻す
 ⇒
  7月の参議院選挙では自民党はこの線では攻勢に出れないためダメージは少ない
  (社民党を政権与党として選択としたという意識は国民にはない)
  沖縄県民感情は最悪の状態となるが、計画の一部縮小や公共事業投資効果で反感を抑制

 ○普天間基地の継続使用
 
 ・首相が自らの発言を撤回し、結論の先送りとなる八方美人策で丸く収めとようとする
 ⇒
  自民党のみならず民主・社民の与党内からも厳しい批判が続出し、首相は引責辞任する

(追加:軍事評論家の田岡俊次氏の提言)

 ○佐世保付近へ再編

 ・第3海兵遠征軍8000人のグアム移転後も沖縄に残留する歩兵第4連隊、ヘリ部隊第36航空群を佐世保南の大村航空基地近辺への移転
 ⇒
 ・佐世保基地北西約6キロ地点の陸上自衛隊相浦駐屯地(島嶼防衛を専門とする西部方面総監
 部直轄の普通科歩兵連隊が駐屯)への歩兵第4連隊を移転
 ・普通科連隊はその替りとしてキャンプ・シュワブに移転
 (環境影響評価進行中)

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