2011年4月18日月曜日

菅内閣は総辞職すべき

民主党政権を生んだ熱狂は怒りに変わった

昨年9月5日に「民主党政権の一年を振り返る」と題し小稿をまとめたが、それからさらに半年が経過した。民主党政権を生んだ熱狂はとうに過ぎ去り、担政能力が欠如し、素人のような行動原理の政治家集団の民主党の実態をみるにつけ、しばらくは見守るという根気はなくなり怒りとなっている。

「民主党政権の一年を振り返る」
http://nihonseikeijuku.blogspot.com/2010/09/blog-post.html

東日本大震災が流れを変えた

在日外国人からの政治献金問題を根拠に、自民党等の野党は内閣不信任決議によって政権奪還を目途し、また、その方向性も強まっていた。

現在からはほんの3ヶ月前となるが、2011年1月14日に菅第二次改造内閣が発足した。鳩山政権時代の度重なる失政による民主党支持率の低下からの脱却、党内力学上の覇権把握および政権浮上のためにも脱小沢を指向することでレイム・ダック状態からの脱出を図るものの、その後も相次ぐ問題の発生と閣僚等の離脱が相次いだ。
(以下、Wikiより一部引用)
 尖閣諸島中国漁船衝突事件と尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件での対応を批判され、参議院で問責決議が可決された仙谷由人内閣官房長官法務大臣馬淵澄夫国土交通大臣、さらに延坪島砲撃事件が発生した際、即日警察庁に登庁しないなど危機管理能力が疑われた岡崎トミ子国家公安委員長を退任させた。また党執行部と内閣の要職には反小沢派の重鎮を置き「脱小沢路線」を一層加速させた人事となった。しかし「打倒民主党」を掲げたたちあがれ日本の結党に参画した与謝野馨や参院選敗退時の幹事長だった枝野幸男、前参議院議長の江田五月の入閣については様々な議論をよんでいる。

そこに、3月11日の東日本大震災が発生し、激甚な災害対策という緊急性の高い意思決定が行われる必要が生じたために政治の流れに大きな変化が起き、皮肉にも首相の進退どころではない状態となった。

菅内閣は危機管理能力がない

危機管理対策の要諦は、リーダーが(特に重要な)意思決定において、そのリーダーシップを発揮し、一糸乱れぬ統制をもって課題解決を図っていくことである。課題解決の第一歩は課題の特定、ビジョンの言語化、優先順位の策定、担当分担・権限委譲の明確化、スケジュール/資材管理、情報の共有および開示などを同時に進めるとともに、一方で想定通りにならない場合に備えて冷静にセカンドオプションも策定するということである。3月11日現在で、このような危機的状況になるだろうということは、誰の目にも明らかであったが、菅首相のとった第一の行動は、3月14日に違法献金104万円を返却し、在日外国人献金問題をどさくさに紛れて葬り去ろうとしたことである。
危機管理の現場における個々の行動は、上記の課題解決のプロセスを時系列に適宜修正を加えつつ、絶え間なく進めていくことが必要であるが、この状況にあって「公」より「私」を優先するなどリーダーにおいてはあってはならないことである。被災地訪問、東京電力への叱責などのスタンドプレーについては、この行動原理=自己保全から来ているということで極めてわかりやすい。仙石官房副長官を官邸に戻したことを除いては、危機管理能力がないと判断する。

菅内閣は総辞職すべし

このような危機管理能力のない内閣総理大臣をいただくことは「国難」である。菅内閣はしかるべき早いタイミングで総辞職し、「挙国一致内閣」に政権移譲することを提言する。単に東日本の復興にとどまらず、今後100年程度をそのスパンとしてとらえて、日本の国家としての新たな設計を行うため、一年間程度の時限をきって(現衆議院議員の任期内を意識して)暫定的挙国一致内閣を組閣する。各党が総合的に政策調整を行う場と仕組みを作り、その過程も広く国民に開示する。この際に、国会議員の仕事は国家の経営の基本である「立法」であるということ、国会議員は国民を代表する存在であることを改めて認識されたい。内閣の構成は民主党を中心に、自民党、公明党、みんなの党等の野党間の調整で、今後一年で議論し、決定する政策の大骨子と政策決定過程の仕組みに賛意を示した政党の議員数を参考に閣僚数を按分するなどの考慮で一体感(担政責任感)も醸成されるだろう。

国際政治の今後の考え方

国際政治についても3月11日以降に大きく動いた。特に同盟国としての米国の危機管理能力能力および行動力は実証された。世界の超大国としての責任をもった行動は賞賛され、日本国民として感謝しなければならない。同盟国としての一体感が特に米軍・自衛隊等の防衛の現場では形成された。然り。今回の対応は、100%の人道支援的活動つまり「トモダチ」作戦であった。ただし、今後は、このような一体感が対外的な軍事攻撃戦略への一体的戦略体系に組み込まれないように留意しなければならない。すでに米国に対しては「対等な関係」を標榜することは難しくなったが、属国として扱われることとならないように日本が国家としての矜持を維持できる切り口が必要となる。

米国だけではなく、台湾等の親日国からの義捐金・被災地救援活動については、感謝の言葉も尽くせない。
(被災者支援をした国家の一覧)
http://laxmi858.blog60.fc2.com/blog-entry-29.html
今後、日本の復興と新たな時代(「福島以降」)での国際的な役割を考える際に、国際社会に何らかの形で還元していくという観点も欠かせないだろう。若い世代に海外との関連で物事を考えるという必要性をしっかり意識付け、今後の行動原理の中にこのような国際貢献の意義と重要性を落とし込んでいく教育が重要になる。

2010年9月5日日曜日

民主党政権の一年を振り返る

 昨年8月30日の衆議院選挙の結果、国民は一種の「高揚感」を持って「政権交代」の歴史的現実を迎えていた。鳩山首相(当時)は、新しい政治=脱官僚を掲げ、国民第一、コンクリートから人への転換を高らかに宣言した。
 現在、9月14日の民主党代表選挙の真っただ中であり、可能性としては一年程度の間に3人目の民主党代表=首相が就任することもあるというタイミングであるため、この機会に民主党政権の一年を振り返ることとする。
 昨年の衆議院選挙では私自身も民主党に(それほどその担政力に期待も無く)投票し、自民党が二大政党制の中で古い体質を構造的に変革する機会としてほしいという気持を持っていた。だが、結論から言うと、想像を上回る民主党の迷走と担政力という実務能力の低さ、政党体質の劣悪さを目の当たりにし、うんざりしている。返す刀で、対極の自民党も長期的な低落傾向にも歯止めがかかっていない。
 大企業など自助により危機対応の検討や実行ができる主体は、根本的な戦略変更の選択を迫られた結果、そうせざるを得ないという地点に追い詰められているが、自助できない主体は「緩慢な自殺」に好むと好まざると得ずに進んでいる。そう、練炭をもって個室にこもり一酸化炭素中毒で自殺を図るように。ただ、これも意識した行動であれば自殺だが、意識をしていなければ事故死ということであるが。

○民主党政権下での振り返りポイント

1.民主党運営-小沢幹事長との二元構造と反発⇒迷走した
 【小沢幹事長室への権限集中と政調会の廃止から揺れ戻し】
 当初党運営は小沢前幹事長の完全なコントロール下におかれたが、鳩山前首相の抱きつき辞任で反小沢の枝野幹事長に交代したため、反作用として揺れ戻しが顕著となった。

2.財政・経済政策-公約を果たすことも対策も構造改革もできず⇒大きな禍根を残した
 【事業仕分けも新年度予算編成は92兆円規模に拡大】
 マスコミに受ける事業仕分けは、財政支出の無駄を切りだす一種の「見える化」であったが、公約の規模には全く至らず、重箱の隅をつついただけ。結局はバラマキ公約の実施により過去最大に肥大した予算と国債の発行となった。

 【経済問題(景気・株式市況・為替・失業)は何も対策が打てず】
 民主党内に目立った政策通もおらず、脱官僚を指向したため官僚には体の良いサボタージュの口実を与えることになり、無為無策に終始した。この部分の無作為という失策が一番罪が大きい。

3.国内政治の動き-連立政権の限界と参院選敗北による混乱⇒政治への絶望感が高まった
 【郵政改革法案の優先決議決定と先送り】
 連立を組む国民新党の主張により、郵政民意化を凍結する郵政改革法案も参議院選挙後の最優先決議議案とすることに合意したが、参院のねじれにより今度の方向性は混沌としている。小泉政権時に郵政民営化には賛成した国民の判断が生きているので、よりよいタイミングとやり方で民営化を進め行く余地が残っている点に希望がある。 連立政権の限界 (3月28日)


 【沖縄普天間基地移転問題をめぐる社民党の政権離脱】
 連立の社民党の主張に同調した鳩山前首相の友愛精神。ブレにブレた結果、当初案に回帰して、納まる鞘さえ失わせた不手際。前代未聞の未成熟な政治手法によって、結果として社民党は連立を離脱。国民は選挙によって社民党に政権を委ねたわけでは全くないのであるべき姿に回帰した。ただ、その爪痕は後述するが国益の厖大な棄損をもたらす結果となった。

 【在日外国人参政権問題】
 マスコミの表舞台では議論されておらず、それこそ「国民不在」の法案審議プロセスとなっていた。時間をかけた議論が必要であり、拙速は避けるべし。参院のねじれにより、この問題についての適切なプロセスが実現することは考え方によっては国民のバランス感覚の示現とも言える。 外国人参政権問題の論点 (3月5日)

 【宮崎県口蹄疫問題】
 舛添前厚労相下であった新型ウイルスの対応の「滑った転んだ」的な滑稽劇も困ったものだが、宮崎県口蹄疫問題は、国家の検疫に対する戦略のなさと危機管理体制のなさを露呈した。将来的な課題として、然るべき対応を平時から行っておかなければならない。日本の亜熱帯化等の気候変動によって、マラリア、デング熱等の風土病への罹患は避けられない現実として、危機対応と準備は万全に行っておくべき。

 【鳩山首相と小沢幹事長(いずれも当時)の辞任と菅首相への交代】
 普天間基地移転問題の迷走と政治とカネ問題で躓いた民主党トップ2の参院選挙対策としての辞任と菅首相への交代。ありとあらゆる失敗のパターンを繰り出してきた鳩山政権が早晩息詰まることは自明であったこと、また、当時の菅副総理・財務相はしたたかという見方をしてきたこともあり、この展開は当然のこととして受け止めた。ただし、鳩山政権を支えてきた副官としての政権の総括は全くなく、批判から入った政治手法に菅総理の野望と権力掌握の陶酔が露呈していた。その後は、期待された矢継ぎ早の政策の提示ではなく、前総理以下のガバナンス失墜の連続となっている。 政権交代の意味と現状 (2月25日)

 【参議院選挙での敗退】
 消費税の引き上げ議論を唐突に、また、野党である自民党の公約に抱きつく形でヘッジした姑息さと、一度口に出した政治家の言葉の重さを自覚しない覚悟のなさを突かれた。自ら副首相を務めていた政権の総括も無く、予算委員会における議論も端折って高支持率に掛けた短慮を恥ずべきである。また、国民の審判として受け止めるならば、何らも責任を取らない在り方については、大きな疑問である。選挙に落選した千葉法務大臣を継続して、「民間」大臣として職に当たらせるなど前代未聞の大失態である。反省がないということを世間に明確に示したということ。

 【非存在高齢者問題】
 実現形態は問わないが。国民背番号制(一体的なセキュリティ管理システム)を本格的に検討し、3年間で実現すべし。管理社会として自由主義的な観点からは批判もあるが、個人情報の保護を制度的にしっかりと設計し、老齢者の管理を国家的に行っていかなければならない。限界集落の問題などとあわせて国家レベルで検討する課題であり、各家庭の問題として矮小化してはならない。

 【おまけ:鳩山首相Twitterでのつぶやき】
 大衆迎合の究極で失策の一つ。オバマ米大統領との比較でいうと、選挙活動中から情報発信として活用しているならば救いはあった。一国の代表のコミュニケーションはSNS的に成り立つわけでもなく、これを演出した電通のサトナオさんの手柄となっただけ。

4.国際政治-世界に例をみない高頻度の首相交代⇒日本の国際的地位は確実に低下

 【沖縄普天間基地移転問題】
 鳩山前首相の思いつきと自作自演の下手芝居によって、すべてのシナリオが狂った。沖縄県民を愚弄した罪、日米安全お保障を基礎とする日米関係と延いてはアジアの安全保障のバランスに変調を生じさせた罪は、時間の浪費とともに国益の厖大な棄損をもたらした。

 【韓国海軍軍艦の沈没】  日米関係の軋みに同期して北朝鮮の冒険主義、中国の拡張主義傾向が明確になってきている。米国と韓国の大規模な合同演習の実施や台湾への戦闘機等武器輸出は陰画のように、国際政治の織りなす陰陽の絵模様である。国連中心主義も中国が拒否権を持つ安全保障理事会の常任理事国であるかぎり限界があることを認識するのが当然で、そうでなければよほどのお人好しである。国際社会は国益と国益のぶつかりで、近所住民の人間対人間のような良好な関係を常時維持できるほど成熟していない。
 
 【韓国航空機爆破犯人の金賢姫元死刑囚来日】
 北朝鮮の核問題・拉致問題は、日本の未解決政治課題の一つとして大きな問題である。金生日総書記の権力移譲のタイミングでもあり、今しかできない骨太の政治交渉はあり、これは国内政治問題とは切り離して、自民党との協働して取り組んでいくような国家をあげての姿勢でないと通じない。(この点でも朝鮮労働党と友党関係の社民党が連立を離れたメリットは大きい)

2010年4月25日日曜日

沖縄米軍基地移転問題について③

 「混迷を深める沖縄米軍基地移転問題」と書いた前回(1月30日)から3か月が経過し、鳩山首相が自ら設定した期限の5月が迫ってきており、解決はほぼ不可能というのがもっぱらの見方であるし、その通りだと思われる。ビジョンとリーダーシップのない組織の末路というべきか、日経は「政権末期」としての表現を用いるまでになっている。

1.問題の本質

 沖縄米軍基地移転問題② において書いた本質論をサマリーすると以下のようになる。
 
 ・日米合意の取り扱い:日米間で時間をかけて2005年に合意した「日米同盟:未来のための変革と再編」中間報告をどのように取り扱うか。政権交代したから当然「ゼロベース」で検討というが、国家間の合意・意思決定は外交および安全保障にかかわる事項では継続性が担保されるべき。この点において、鳩山政権がこの問題を政権交代時の「高揚」の中で一重に国内政治目線での議論をスタートし、方向付けに曖昧さとか目的に錯覚があった。

 ・普天間基地周辺の危険除去:名護市街地の中心部にある基地の飛行機・ヘリコプター発着による騒音や危険除去を行う必要があることが最重要ポイントでありコンセンサスであった。

 ・移転候補地の決定:環境アセスメントや地元の受け入れ合意には時間がかかるし、基本的にはかなり難易度が高いため、既存の自衛隊基地や米軍基地の役割変更が選択肢となる。

 ・単なる沖縄米軍基地の問題ではない:9.11以降の米国の軍事戦略の変更=グローバルなTransformationにおける位置づけ、今後の日米安全保障の在り方(在韓米軍基地の一部撤退を含めた米韓の軍事関係の変化)。軍事のIT化の進展と老朽既存兵器・装備のリプレースメントといった安全保障や軍事にかかる全面的な見直しの局面にある。

2.単なる日米安全保障上の問題ではなくなった

 こうした本質論を離れ、観念的で浅薄な言葉が躍る。曰く、「沖縄の美しい海を守る」、「5月までに結論を得る」、「最低限県外、できれば国外」などなど。また、閣僚や官房長官の思惑の違いによる発言の不一致、候補地選定や国内調整の段取りの悪さなどにより混迷の度は加速的に深まる。
 首相はこうした混迷を「積極的に」深める役割を果たしている。自分自身の発言が、一国の首相としてどれほど重いものかを認識していない、国民にとっては「耐えられない軽さ」が目につく。そして、この先のシナリオは当然首相交代ということにのだろう。つまり、沖縄米軍基地移転問題が首相退陣という国内問題にまでつながってしまったということ。郵政改革の後退や高速道路料金をめぐる錯綜だけでは首相退陣にまでは至らなかったのではないか。

2010年3月28日日曜日

連立政権の限界

 国民新党の亀井代表が連立政権内での混乱要素となってきている。在日外国人参政権問題では民主党のマニュフェスト外政策の強行を抑止するという効果もあるが、郵政事業の抜本的見直しでは、「暴走」といえる。

 郵政民営化のポイントは、①効率的な運営がされ赤字事業などの見直しにつながること、②郵便貯金のより効率的な運用や貸出が実現し、経済活性化につながる、③事業体としての成熟度のアップやその後の保有株式売り出しにより財政への貢献が期待できるなどがある。
 小泉政権後の自民党政権末期の不作為の反動として民主党を中心とした連立政権が発足しているが、これによって郵政民営化の後退まで国民が選択しているかというとそうではない。特定郵便局長会や労働者団体の意向を汲みすぎるのは政権移行の「光と影」の「影」の面として写る。

亀井郵政改革大臣は以下を強行しようとしている。それを鳩山首相が承認した、しないで意思疎通の齟齬もあるように報道されている。

 ・国の保有する株式を一定部分は売却しない
 ・郵便貯金預入制限の緩和
 ・非正規社員の正社員化

これによって得られる効果は、事業展開の国有としての硬直化、民間金融機関への圧迫、郵政関連事業の費用増加と労働者層の政治関与の増大がある。三党党首クラスによる基本政策閣僚委員会を早期に開催し、亀井大臣の暴走を阻止することが肝要である。

○三党連立政権の政権合意

2009年9月9日に民主党、社会民主党、国民新党の三党は、第45回衆議院総選挙で国民が示した政権交代の審判を受け、新しい連立政権を樹立することとし、その発足に当たり、次の通り合意した。

 一 三党連立政権は、政権交代という民意に従い、国民の負託に応えることを確認する。

 一 三党は、連立政権樹立に当たり、別紙の政策合意にいたったことを確認する。

 一 調整が必要な政策は、三党党首クラスによる基本政策閣僚委員会において議論し、その結果を閣議に諮り、決していくことを確認する。

 政策合意の項目は以下の通り。

 1 速やかなインフルエンザ対策、災害対策、緊急雇用対策
 2 消費税率の据え置き
 3 郵政事業の抜本的見直し
 4 子育て、仕事と家庭の両立への支援
 5 年金・医療・介護など社会保障制度の充実
 6 雇用対策の強化―労働者派遣法の抜本改正―
 7 地域の活性化
 8 地球温暖化対策の推進
 9 自立した外交で、世界に貢献
10 憲法

2010年3月21日日曜日

自民党は今何をなすべきか③

 民主党鳩山内閣の支持率の低下が止まらない。また、それに輪をかけて自民党の崩壊が急速に進んでいる。党内改革を責任者を決め、広報戦略を明確にして、待ったなしで進めていかなければならない。
「自民党は今何をなすべきか②」(1月25日)で明示した党内改革

 派閥・長老的政治の打破
 年功議員は党幹部職として政策立案サイドへの転進か引退
 世襲の弊害の打破(親族の地盤は直接には継げない仕組み)
 民間・官僚との交流の活性化と登用
 政権構想ネットワークの構築
 党員拡大のKPIの設定
 政党助成金の効率的な活用
 政調会の所属ローテーションの活性化・部会再構成・戦略スタッフの外部化
 広報戦略の再定義(訴求するターゲット別支持拡大策の策定)

 これをさらに実効的に進めるために、「影の内閣」制度に基づいた次世代布陣を明確にし、この中で、若手議員(落選した浪人元議員)の発言機会の確保と政策研究の深化を図っていく。

 特に民主党の政策や法案については、何でも反対ではなくて、対案となる考え方の提示、よりよい政策実現となるよう法案修正へ働きかけなど、国民に担政力・政策実現能力をアピールしなければならない。

 鳩山邦夫元総務相の離党騒ぎは、これ自体を非難・批判するのではなく、自民党崩壊の警鐘として上記のような自浄のプロセスのきっかけとなるよう、谷垣総裁は大きな意思決定を早急に行う必要があり、そのための党執行部の人事を断行すべきである。河野太郎議員の登用など最もわかりやすいメッセージとなる。

2010年3月5日金曜日

外国人参政権問題の論点

 民主党マニュフェストへの盛り込みが見送られた「外国人参政権に係る法案」が民主党主導で今国会審議にかけられるところだった。鳩山首相・小沢幹事長の政治資金問題による支持率の低下や連立与党である国民新党の亀井代表の明確な反対もあり、今般の通常国会への上程は見送られることとなったが、今後引き続いた論争となることも想定されるため、論点をまとめておくこととしたい。

 この問題はつまるところ、韓国・北朝鮮との戦後処理問題と同根である。国民的コンセンサス形成不在の中で、民主党が多数を恃みに拙速にすすめる進め方自体が信頼感を損なう結果になっている。また、国家のあり方を論じる高邁な論客もいる一方で、差別的感情論の発露に終始する混迷の論客もおり、収集がつかない状況となっている。国政と地方との参政権の区分、参政権を選挙権と被選挙権の区分なくいっしょくたにし、何でも反対(何でも賛成)となっているように見受けられる。

-ポイントと考え方

 ○外国人の定義と範囲:特別永住者および別途定める要件(滞在期間・語学・資産・職業等)に適合した者として極めて限定的にとらえる必要
 ○相互主義:相互主義対象国については人口規模や制約条件の彼我の差はあるが、前提として必要
 ○プロセス:自動的に付与するのではなく、申請・登録手続きとその受理においてGood Citizen条項による審査や日本人からの推薦を条件
 ○参政権の範囲:国政への参政権(選挙権・被選挙権)については、外交・財政・防衛等の高度な判断は国民に帰属し、帰化を前提に考えるべきで当面凍結。地方への参政権は選挙権をまず開放する一方、被選挙権については選挙権の行使の状況などの経過を参考にしながら今後の検討とし、当面凍結
 ○選挙権剥奪の定義:刑法違反の犯罪行為、一定の過料以上の処分を受ける場合などを定める
 ○帰化の条件緩和:一定期間以上継続して地方参政権を行使した実績をもって帰化の条件を緩和するなどの仕組を別途検討

-その根拠

 ○「開かれた国家」観の提示
 ○相互主義の義務的手当と今後の相互主義対象国の拡大
 ○良質の外国人の流入促進による今後の総人口減少への手当
 ○友好国家群の醸成と外国からの軍事的攻撃を緩衝する国防上の措置
 ○危惧される内国政治干渉についても地方の選挙権に限定することで大きな影響を回避

○外国人の定義

 ・特別永住者
 1991年(平成3年)11月1日、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(入管特例法)の施行により、戦前(1945年 9月2日以前)から引き続き日本に居住している平和条約国籍離脱者(韓国・朝鮮人及び台湾人)とそれらの人たちの子孫を対象に定められた在留の資格で、ほとんど制限がなく日本に永住できる。また、特別永住者の子孫も、日本で出生し、所定の手続をした場合は特別永住者となる。慣例的に「特別永住権」と呼ばれることがあるが法的に権利ではない。平成20年(2008年)の特別永住者の実数は、前年より9924人減少し42万305人である。国籍別では「韓国・朝鮮」が41万6309人で99%を占める。大阪・兵庫・京都の近畿3府県に約45%が集中する。

 日本から一時的に出国して戻ってくる場合に必要となる再入国許可の有効期間が4年間(事情によっては1年間延長可能で計5年。特別永住者以外の在留外国人は最長で3年間プラス1年の計4年)となり、この期間を通して日本国外に滞在でき、数次有効の再入国許可を取得すれば何回でも出入国できる。ただし、この有効期間内に再入国しないと、特別永住者の資格が直近の出国時に溯って消滅する。退去強制事由も4項目に限定(特別永住者以外の外国人は24項目)され、たとえば7年超(前同1年超)の懲役または禁錮に処せられた者で法務大臣が認定した者などと緩和されている。

 ・一般永住者
 一定の要件を満たして永住許可申請をし、許可され、日本国に永住している外国人のこと。平成20年(2008年)末現在で492,056人。国籍別では中国[台湾]が142,469人(29.0%)、ブラジルが110,267人(22.4%)、フィリピンが75,806人(15.4%)、韓国・朝鮮が53,106人(10.8%)、ペルーが29,976人(6.1%)、タイが12,519人(2.5%)、米国が11,814人(2.4%)などとなっている。近年は年10%以上の急速な拡大を見せている。平成19年(2007年)末に初めて特別永住者の数を上回った。特別永住者は韓国・朝鮮が99%を占めるのに対し、一般永住者は中国[台湾]・ブラジル・フィリピンの上位3国で3分の2を占める。

 永住の在留資格等を持ち日本に定着居住している外国人(在日韓国・朝鮮人、在日中国人、在日台湾人、日系ブラジル人、在日フィリピン人、在日ペルー人等)を「在日外国人」(英:resident aliens)と言う。短期滞在者(在日米軍関係者、在留資格を持たない者を含む)を「来日外国人」(英:visiting aliens)と言う。

○在留外国人の現状

 日本は海外移民受入による人口増効果は他国と比べ非常に小さいが、それでも外国人登録者数の推移を見ると、外国人は1991年末の122万人から2008年末の222万人へと17年間で8割増加している。特に90年代末からの増勢が目立っている。(データは法務省の登録外国人統計)

長期的には、1980年代後半からの増勢が目立っている。それまでの在日韓国・朝鮮人が60万人でほぼ一定という状況から、1980年代後半以降、中国人、ブラジル人、フィリピン人など多国籍化が進むという変化が顕著である。

 国籍(出身地)別には、特別永住者が多数を占める韓国・朝鮮人は従来外国人のほとんどを占めていたが近年は高齢化とともに減少を続けている。他方、中国人、ブラジル人、フィリピン人、ペルー人が17年間で2.3~3.8倍と大きく増加している。増加数規模では中国人の増加が同期間に48.4万人増と全体の増加数99.9万人の48%と半分近くを占めており特に目立っている。2007年末以降にはついに中国人が韓国・朝鮮人を上回った。

 韓国・朝鮮人でも特別永住者以外は増加している。韓国・朝鮮人特別永住者は1996年末の55万人から2008年末の42万人へと13万人の減であるが、特別永住者以外は同時期に11万人から17万人へと6万人の増である。

 ニューカマーと呼ばれるブラジル、ペルーなどの日系南米人は、1990年の入管法改正により新たに国内での求職、就労、転職に制限のない「定住者」資格が付与され、自動車産業の下請企業、業務請負業者等に雇用され急増するようになったものである。なお、2008年末には世界経済危機に伴う自動車産業の低迷で帰国した者も多くブラジル人はむしろ減少している。

 国勢調査では国籍別人口について産業別就業者数、失業者数を集計している。これを見ると、ブラジル人は製造業就業比率が6割以上と高く、失業率も4%台と相対的に低く、3次産業就業者が多く失業率も日本人並みに高い中国人、フィリピン人とは対照的となっている。また、韓国・朝鮮人は失業率が11%以上と日本人より高く、米国人、英国人はビジネス派遣や在日米軍関係が多いと見られ失業率も3~4%と非常に低い。このように、外国人は国籍別に日本経済における位置づけが大きく異なっている。
図録:外国人登録者数の推移
○外国人入国者及び登録者数

 主要五カ国の1998-2006年の国籍別外国人登録者数の推移

法務省入国管理局の統計によると、2008年(平成20年)の外国人入国者数は、世界的な不況の影響で、2007年比0.1%減の914万6108人となった。 2008年末現在の外国人登録者数は、中・長期的に生活を送る者が増加し、2007年比3.0%増の221万7426人、総人口に占める割合も1.74%で過去最高を更新した。

 2009年(平成21年)1月1日現在の不法残留者数は、入国審査の厳格化、関係機関との密接な連携による入管法違反外国人の集中摘発の実施等総合的な不法滞在者対策により、前年比24.5%減の11万3072人となった。過去最高であった1993年(平成5年)5月1日現在の29万8646人から一貫して減少している。不法滞在者の21.4%が韓国人であり、毎年最も多い不法滞在外国人となっている。

2008年末現在の日本における国籍別外国人登録者数

国籍     人数    構成比

中国     655,377  29.6%
韓国・朝鮮 589,239  26.6%
ブラジル   312,582  14.1%
フィリピン  210,617   9.5%
ペルー     59,723   2.7%
米国       52,683   2.4%
その他    337,205   15.2%

合計     2,217,426   100%


2008年末現在の日本における外国人の在留資格

在留の資格   人数   構成比

一般永住者  492,056   22.2%
特別永住者  420,305   19.0%
定住者     258,498   11.7%
日本人の配偶者等 245,497 11.1%
留学       138,514   6.2%
その他      662,556   29.8%

合計      2,217,426   100%

○外国人参政権について各国の現状

 外国人に対して、出身国籍を問わず国内全体で地方自治の選挙権を与えている国は、現在24ヶ国(/世界の独立国203ヶ国)ある。これらの国々も国籍や滞在期間、在留資格、年収などの要件で参政権を与える外国人を制限している。国家基本問題研究所によれば、外国人に参政権を認めている国は、長期間外国人労働者を誘引する政策を採用していたなどの特別な理由のある場合のみである。

 ヨーロッパ各国が外国人地方参政権の付与に積極的に見えるのは、欧州連合という枠組みにおいて、国家間の政策や協力により一致結束して実行するという目的が背景にある。ヨーロッパのうち、フランス、ドイツ、イタリア、オーストリア、チェコ、ギリシャの6カ国では、付与対象者の国籍をEU加盟国に限っている。その他、EU加盟国、英連邦加盟国同士や、近隣国の間で国籍を限定した外国人参政権を認めた国がある。また、限られた地方自治体の中で外国人参政権を認めている国もある。それらを合計しても外国人参政権を認めている国は39ヶ国で、外国人参政権を認めていない国の方が多い。

・日本

 日本は日本国憲法の、第15条第1項で「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」、第43条第1項で「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」としており、現状で外国人参政権は国政も地方も認められていない。しかし2009年、外国人参政権推進派の多い民主党が与党となり、推進派は地方参政権を付与する法案の提出を目指して活動を活発化させている。

・韓国

 韓国では一部の外国人にも地方参政権を付与している。なお2005年7月の済州道における住民投票が、永住権者の参政権を認める初の例となった。在日韓国人参政権要求に関する相互主義

• 韓国は、相互主義として在日韓国人への参政権の付与を日本に対して求めている。これに対しては、「そもそも在韓日本人で参政権を得ている者は数十人であるにもかかわらず、日本で対象となる在日韓国人は数十万人もいて、決して相互主義が成立する条件に無い」とする長崎県議会意見書や、「韓国では参政権付与の前提として永住権取得が義務付けられており、永住権取得には日本円にして2億円以上の投資や相当の高年収を得ている必要があるなど条件が極めて高く、とても相互互恵とはいえない」とする見解や、韓国で永住が認められるのは主として韓国人の配偶者やその子弟であること、日韓双方の対象人口の大きな隔たりなどを指摘したうえで互恵主義が成立する条件が欠如しているとする見解がある。

• また、日本では在日本大韓民国民団が外国人参政権を獲得するためとして、外国人参政権付与を民団に約束した政党を支援する選挙活動を行っているが、韓国では外国人が選挙運動に参加した場合は3年以下の懲役刑が科せられることとなっている。

・北朝鮮

 北朝鮮は外国人に参政権を付与していない。朝鮮新報は「参政権付与が安易に時代の流れと言えないことは明白だ。」としている

・中国

 中国は外国人に参政権を付与していない。

・フランス

 フランス(EU加盟国)は、EU国民に限って地方参政権の付与を認めている。過去の憲法においては、外国人地方参政権の付与が認められなかったが、EU他国との相互主義を前提としてEU国民に地方参政権を付与できるように憲法を改正してきたが、2010年1月13日、フランス政府リュック・シャテル(Luc Chatel)報道官は、最大野党の社会党が、EU国民以外に対する外国人地方参政権法案を提出する動きを示したことについて、「論外」とフランス政府の公式見解として表明し、一般外国人の参政権を認めないことを明らかにした

・ドイツ

 ドイツ(EU加盟国)は、EU他国との相互主義を前提としてEU国民に限って地方参政権の付与を認めている。EU成立以前、ドイツ憲法では、外国人の参政権は認めていなかった。1989年、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州が相互主義を前提とした外国人地方参政権を付与した件が憲法訴訟に発展した。1990年、ドイツの連邦憲法裁判所はこの州法を違憲とする判決を出している。ドイツは「ヨーロッパ連合条約の批准」という要請があったため、1990年に憲法を改正し、EU加盟国国民に地方参政権を認めた。

・オランダ

 オランダ(EU加盟国)は、ロッテルダムにおける1979年の地方選挙で外国人参政権を認めた。この動きは1985年までに全国に拡がることとなった。なお西尾幹二は「オランダではEU域外の外国人へ地方参政権付与を行ったために外国人が都市部に集中して移住し、オランダ人の立ち入れない別国家のようなものが形成され、オランダの文化や生活習慣を祖国流に変革しようとする動きが、内乱に近い状態を生み出している」とする見解を述べている。

○国政参政権と地方参政権

国政レベルの被選挙権(立候補権) :イギリスが英連邦国民に認める1例のみで、国籍を問わず与える国は存在しない。

国政レベルの選挙権(投票権) :特定の国籍に限り与える国が7ヶ国あり、国籍を問わず与える国が4ヶ国ある。

地方レベルの被選挙権(立候補権)  :特定の国籍に限り与える国が11ヶ国あり、国籍を問わず与える国が14ヶ国ある。

地方レベルの選挙権(投票権)   :特定の国籍に限り与える国が13ヶ国あり、国籍を問わず与える国が26ヶ国ある。

 ・外国人参政権を与えている国家

• EU(欧州連合):アイルランド、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ハンガリー、スロバキア、スロベニア、リトアニア、エストニア

• EU非加盟:ノルウェー、アイスランド、ロシア

• イギリス連邦:ニュージーランド

• 北米・南米:チリ、ウルグアイ、ベネズエラ

• その他:韓国、イスラエル、マラウイ

韓国における参政権の制約条件

国政 選挙権:×  被選挙権:× 地方 選挙権:○  被選挙権:×
全ての国 を対象  永住資格取得後3年以上が経過した19歳以上の外国人。永住資格(F-5)取得には次のいずれかの条件を満たすことが必要。

1. 200万ドル以上を投資した外国人投資家として、韓国国民を5人以上雇った外国人。
2. 50万ドル以上を投資した外国人で、企業投資(D-8)の資格で、3年以上韓国国内に継続して滞在しながら、韓国国民を3人以上を雇った外国人。
3. 法務部長官が定める先端技術分野の博士学位証明書を所持する者で、永住(F-5)の資格申請時に韓国内企業に雇用され、法務部長官が定める金額(韓国の国民一人当たりGNIの4倍)以上の賃金を受ける外国人。
4. 法務部長官が定める先端技術分野の学士号以上の学位証明書、または法務部長官が定める先端技術資格を所持する者であって、韓国滞在期間が3年以上で、永住(F-5)の資格申請時に韓国国内企業に雇用され、法務部長官が定める金額(韓国の国民一人当たりGNIの4倍)以上の賃金を受ける外国人。
5. 科学分野で、一定の論文引用頻度や受賞歴があり、科学技術部長官の推薦を受けた外国人。
6. 経営分野で、常時勤労者数300人以上、及び資本金80億ウォンを超過する内外企業の常勤理事や相談職を勤めている者で、大韓商工会議所長、大韓貿易投資振興公社長または全国経済人連合会長の推薦を受けた外国人。または、世界有数の経済誌(FORTUNE等)が選定した最近3年以内の世界トップ500企業で、店長や経営幹部として1年以上勤務した経歴を持っている者のうち、韓国国内の支社などで役員として勤務している外国人。
7. 教育分野で、論文の引用程度、又は研究実績によって、教育部長官の推薦を受けた外国人。
8. 文化芸術分野で、国際的に名声のある芸術家、監督、声楽家等として、文化観光部長官の推薦を受けた者 。
9. 体育分野で、オリンピック、世界選手権大会、アジア競技大会、またはこれと同等な水準の大会で、銅メダル以上の賞を受賞した選手と、その指導者の外国人、ワールドカップサッカー大会で16位以上の成績をおさめた選手と、その指導者のうち、文化観光部長官の推薦を受けた外国人。
10. 勲章などを受けた韓国の独立や発展に特別に功労があった者で、法務部長官が認める外国人。
11. 聖職者でとして社会福祉活動に顕著に貢献し、韓国に特別な貢献があると法務部長官が認める外国人。
12. 韓国国外からの年金を受ける60歳以上の者であって、年間の年金額が法務部長官が定める金額(韓国の国民一人当たりGNIの2倍)を超える外国人。
13. 大韓民国民法によって成人で、本人または同伴の家族が生活を維持する能力があり、素行に問題がなく、韓国に継続居住するのに必要な基本的な素養を備えるなど、法務部長官が定める条件を満たした者で、駐在(D-7)、企業投資(D-8)、貿易経営(D-9)、教授(E-1)、会話指導(E-2)、研究(E-3)、技術指導(E-4)、専門職業(E-5)、特定活動(E-7)、居住(F-2)の資格で、5年以上韓国に滞在している外国人。
14. 永住(F-5)の資格を持つ者の配偶者や未成年の子供として、韓国に2年以上滞在している者であって、韓国に必要があると認められる外国人。

○推進の動き

 在日韓国・朝鮮人など「永住外国人に地方選挙権を付与する法案」を通常国会で提出し、実現させることを目的として在日韓国人をはじめとする永住外国人住民の法的地位向上を推進する議員連盟が、2008年1月に設置された。会長は、岡田克也外相。衆参議員65人(衆院29人、参院36人)が参加している。

 民主党は、外国人地方参政権付与法案を1998年、2000年に提出していたが、いずれも廃案となっていた。しかし、2006年に韓国が永住外国人の地方選挙権を認めたことから、白真勲、川上義博、津村啓介、千葉景子らは「相互主義の観点からも、これ以上放置できない」として民主党内で呼びかけ、この議員連盟が発足した。
 また、外国人地方参政権付与は自民党が慎重であり、逆に公明党が強く求めていることから「参院に民主党が法案を提出し、公明党に賛成を呼びかければ、与党の分断を図ることができる」ともしている。しかし、民主党内の保守派議員からは「憲法上も、国のあり方という観点からも、絶対に認められない」し、「逆に党内に亀裂が生じるのではないか」という批判も出ている。
 岡田外相は、2008年1月30日の初会合にて「この外国人地方参政権問題は、民主党としては長年の政策であり、悲願でもあった。私も政策責任者だったおりに、この法案を何度か国会に提出しながら、実現しないことに責任を感じてきた。党として、しっかり法案提出に持って行く。それがこの議連の役割だ。多様な価値観を認める日本の象徴が、この法案だ。」と語っている。
 小沢幹事長は、2008年2月の訪韓の際に、李明博大統領から「在日本大韓民国民団(民団)からの要望」もあり、地方参政権付与の協力を求められ、「在日韓国人への参政権付与を与えるのがもたもたしているのは遺憾に思っている」と成立に強い意欲を示し、2008年12月には民団が民主党の支援を表明し、小沢はそれに謝意を伝えている。
 2009年4月には、櫻井よしこを勉強会に招き、櫻井から参政権付与には帰化をさせるべきと意見され、参加した一部の議員からは「極めて共鳴した」(蓮舫)、「おおむね私の認識と同じだ」(牧義夫)と共感された一方、議連会長の岡田克也は「『選挙権を得たければ国籍を捨てろ』といわれたら許せない」などと主張し、意見を受け入れることはなかった。
 2008年5月、同議員連盟は「永住外国人への地方選挙権付与に関する提言」をまとめている。この中では、(1)対象者を「特別永住者」のみならず「一般永住者」まで拡大すること(ただし国交のない北朝鮮国籍者を除く)、(2)「相互主義」を前提とせずに外国人参政権を与えるつもりであること、(3)対象選挙を「地方選挙権」に限ること(直接請求権・公務就任権は今後必要に応じて検討)、(4)「申請主義」を採用し、要件として20歳以上で3ヶ月以上居住していること、等まとめている。 (この提言が現在の民主党案の草案として想定されているものである)

 一方、北朝鮮系と言われる朝鮮総連は、一貫して在日朝鮮人の選挙権付与には強硬に反対している。

○なぜ帰化ではないのか

 ・経済的・家庭的な理由で結果的に長期に亘る滞在となっただけでもともと帰化の意図は無い
 ・母国への愛国心や先輩世代からの批判、プレッシャーがあり、帰化に後ろ向き
 ・帰化のメリットが明確でない(不自由はない)

○なぜ参政権付与を拒否するか

 ・参政権とは国内の政治に影響力を行使するための権利であり、外国人に参政権を認めるということは、この内政干渉を合理化することにつながる
 ・国政はもちろん、地方自治体の政治も内政の一部である
 ・税金は道路、医療、消防、警察などの公共サービスの対価であり、参政権とは関係ない(もし、税金によって参政権が与えられるなら、逆に言えば学生や主婦、老人など、税金を払っていない人は参政権が剥奪される)
 ・在日韓国人・朝鮮人は祖先が強制的に連れてこられた経緯はあるにせよが、在日の方々は100%自分の意思で日本に居住している人々で、彼らに対して帰国を制限していない
 ・外国人に参政権を与えるとなれば、それは外交問題であり、日本だけの都合では取り返しがつかない
 ・国籍を与えないで参政権を与えることは、国際的な意味での日本のイメージの悪化にもつながる可能性がある

○参政権を付与・剥奪する条件等

 ・当該地方自治体に連続した一定の期間滞在
 ・日常的に利用する日本語能力
 ・Good Citizen条項
  無犯罪
  納税実態
  公安要素(スパイ防止法)
  申請および推薦・身元保証
  Bad Citizen判定は他自治体でも適用

○想定される影響や問題

 ・不法滞在、外国人犯罪
 ・文化の違いによるトラブル - 例えば、銭湯の入場拒否事件
 ・外国人学校の学費が高く、子供をお目当ての学校に通わせられず不就学になってしまう
 ・派遣切りなどで出稼ぎ者が職場をクビになり、再就職先も見つからず 
 ・犯罪の温床
 ・政治団体的な他国の国益の追求とわが国へのネガティブ反応

2010年3月1日月曜日

法案国会提出と閣議決定について

 外国人参政権に係る法案の国会提出が見送られることになった。かねてより亀井静香国民新党代表、金融・郵政改革担当相が党として、また、政治家個人として反対するとしていたため、法案提出に関する閣議決定のプロセスにおいて、事と次第によっては内閣不一致という事態となり、亀井大臣が「更迭」された上で他の国務大臣が後任として兼務し、当案件を閣議決定するというシナリオも無いわけではなった。
 その場合、国民に連立政権の担政能力の著しい欠如を露呈することになり、結局は「誰も得しない」結果となったであろう。一方、自民党も国会の場で審議する十分な用意と毅然としたポリシーも無く、単に民主党政権の問題にとどまらず、国家・国民主権に関わる大問題に発展していたことも想定される。今回は、そのような事態に陥らなかったことをよしとし、「閣議」について各種資料をもとにまとめることとする。(また、外国人参政権の問題については別途、論考することとする。)

○閣議とは(定義)

 閣議とは、内閣法によって、内閣が職権を行使するときに開催が義務づけられている、内閣総理大臣と国務大臣全員による会議のこと。内閣は、合議体であって、内閣の意思は国務大臣が閣議によって決めることを原則としている。(内閣法第4条で規定されたものだが、会議の手続きについては定めがなく、慣行によっている。)

○開催要項

 閣議には毎週火曜日と金曜日の午前中に開かれる「定例閣議」と、必要に応じて開く「臨時閣議」があり、原則として全閣僚が総理大臣官邸閣議室(国会期間中は国会内の閣議室)に集まって行われる。しかし、早急な処理を要する案件の場合には内閣参事官が閣議書を持ち回ってそれぞれの閣僚の署名を集めることにより意思決定とする場合がある。これを「持ち回り閣議」という。閣議は非公開(秘密会)が原則である。
 閣議は、総理大臣が主宰するが、実際の司会・進行は内閣官房長官が行う。 国務大臣が海外出張する時には、当該大臣の臨時代理が前もって決められる。
 閣議は円形のテーブル(*)で行われ、席次は省庁の設置順である。閣議の結論は、内閣官房長官を通じて外部に報告される。意思決定には参加できないが、内閣官房副長官と内閣法制局長官が陪席することになっている。

 (*)現在は首相官邸公式サイトに新・旧両首相官邸の閣議室の写真が掲載されている。現在の首相官邸閣議室は広さ約110平方メートルで、直径5.2メートルの円形テーブルが置かれており、通常は閣僚がこのテーブルを取り囲むように着席する(陪席の内閣官房副長官・内閣法制局長官は別テーブル)

○提出される案件種別

・一般案件(国政に関する基本的事項で、内閣としての意思決定が必要であるもの)
・国会提出案件(法律に基づき内閣が国会に提出・報告するもの)質問主意書に対する答弁書なども含む。
・法律・条約の公布
・法律案の決定
・政令の決定
・報告(国政に関する調査、審議会答申などを閣議に報告する)
・配布(閣議の席上に資料を配付する)

○決定事項の種別

 明確な根拠法に基づくものでなく、案件の重要性に応じた分類と慣習的に考えられている。閣議決定、閣議了解、閣議報告として処理され、どのような案件をどの決定形式にするかの規則が作られているわけではない。閣議の意思決定には「閣議決定」、「閣議了解」の2つがある。内閣としての意思決定を「閣議決定」、本来は主務大臣の管轄事項だが、その重要性から閣議に付された案件に対する同意としての意思決定を「閣議了解」と区別するが、その効力に差があるわけではない。

・閣議決定: 合議体である内閣の意思決定。閣議における案件処理のなかでは、最も重みを持つ。
・閣議了解: 本来主任大臣の権限に属する事項について、それらの事項の重要性を考慮したうえで、閣議に提出して他の国務大臣の意向も聞くことが適当と判断されたものについて行われる。
・閣議報告: 主要な審議会の答申や省庁の白書等を閣議で披露するような場合に行われる。

○閣議決定と文書の流れ
 
 憲法または法令に定められた、法律案・政令・予算など内閣の職務権限として明示された事項および他の重要な事項について行われる内閣の全員一致(*)による意思決定。もし、反対の意志を曲げない大臣がいた場合は、内閣総理大臣は閣議での議決を断念するか、その大臣をその場で罷免するかを選択しなければならない。

(1) 各省で特定の案件を閣議に提出することを求める閣議請議の文書を起案し、大臣が決裁し、内閣官房に送付する。
(2) 内閣官房(内閣書記官室)で送付された文書の案について国務大臣の署名欄のある用紙(閣議書)で起案し、閣議の席上で各国務大臣の署名(花押)を求める。
(3) 内閣官房(内閣書記官室)は、決定された内容について閣議を求めた省に通知し、政府の方針の決定のようなものであれば関係機関にも通知の書面を送る。

(*) 内閣が、「行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う」(内閣法第1条第2項)ことに基づく。)

○その他

 定例閣議は各省庁から上がってきた書類への署名に精一杯なのが現状。閣議終了後、閣議で取り上げられなかった議題や国政の議論を「閣僚懇談会」などを設けて自由討論したり、情報交換を行ったりすることもある。閣議及び閣僚懇談会には、公式的な議事録はない。記録を残すと、外に出た場合、閣内不一致を指摘される恐れがあるからである。
 首相が入院したために、閣議を主催できない状態で首相臨時代理を指定しないまま定例閣議の時間を迎えた安倍内閣末期の場合、定例閣議に代わる閣僚懇談会が閣議進行役の内閣官房長官が主導する形で行われ、全閣僚が閣議書に署名した後で首相が入院先の病院で決裁する「持ち回り閣議」の手法をとっていた。
 鳩山由紀夫内閣の平野博文官房長官は、2009年12月1日の記者会見で、「閣僚間の忌憚ない意見交換ができる場だから作成していない」、「かならず記者会見などを行うことで透明性は確保される」と理由を述べ、公式的な議事録は今後も作成する予定はないとしている。
 また、閣議の効力についても、法律等の国会決議そのものではないので、国民の理解を得て世論が変われば、決定内容も絶対的なものとはいえない。

(首相官邸HP 閣議)
http://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/1-2-5.html

(首相官邸HP 閣議案件)
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/index.html

(kotobank.jp 新藤宗幸千葉大学法経学部教授 )
http://kotobank.jp/word/%E9%96%A3%E8%AD%B0

(北海道医師連盟 常任執行委員 中川俊男氏)
http://www.doiren.jp/key_kakugikettei.html

(wikipedia 閣議)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A3%E8%AD%B0

2010年2月28日日曜日

Ⅲ 平成22年度予算について

 野党自民党の国会戦術の失敗と予算委員会審議への復帰により、週明けにも予算委員会での審議は終結し、平成22年度予算の衆議院本会議での可決、参議院への送付される見通しとなった。3月2日まで衆議院を通過すると、憲法の規定により、参議院で議決が行われなくても年度内に自然成立することとなる。なお、参議院で衆議院と異なった議決をした場合、衆議院は両院協議会を求めなければならないが、協議が成立しないときは、衆議院の議決が国会の議決とされることとなっている。

1.今年度の予算の編成・審議過程

 ・財政制度等審議会 財政制度分科会 建議(平成21年6月3日)
  -平成22年度予算編成の基本的考え方について
 ・概算予算基準閣僚会議了解(平成21年7月1日)
  -平成22年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について(閣議了解)
  -平成22年度一般歳出の概算要求基準の考え方
  -平成22年度概算要求概算要求のポイント
 ・平成22年度予算編成の方針閣議決定(平成21年9月29日)
  -平成22年度予算編成の方針について(閣議決定)
 ・各省庁の予算要求(概算要求)(平成21年10月15日)
  -マニュフェスト(「三党連立政権合意」を含む)を踏まえた平成22年度一般会計概算要求額(平成21年10月16日)
  -各府省の概算要求書及び政策評価調書(平成21年11月26日)
   1.概算要求の概要等
   2.概算要求書
    (1)一般会計
    (2)特別会計
   3.政策評価調書
  -平成22年度予算編成上の主な個別論点
 ・政府案閣議決定(平成21年12月25日)
  -平成22年度一般会計歳入歳出概算
 ・平成22年度一般会計歳入歳出概算の変更について(閣議決定)(平成22年1月22日)
  -平成22年度一般会計歳入歳出概算の変更について
 ・政府案国会提出(平成22年1月22日)
  -平成22年度予算書の情報
  -平成22年度予算政府案 
    
2.平成22年度予算のポイント

 ○平成22年度 一般会計予算フレーム
  「いのちを守る予算」3つの変革
  ・コンクリートから人へ
  ・政治主導の徹底
  ・予算編成プロセスン透明化

       21年度予算    22年度予算    差
(歳入)

 税収    46.1兆      37.4兆   ▲ 8.7兆
 その他収入 9.2兆      10.6兆     1.4兆
    
 公債金   33.3兆      44.3兆    11.0兆

 計      88.5兆      92.3兆    3.8兆

(歳出)

 国債費等   20.2兆      20.6兆    0.4兆
 
 地方交付税等16.6兆      17.4兆    0.9兆

 一般歳出   51.7兆      53.4兆    1.7兆
 
 調整資金繰戻          0.7兆    0.7兆

 計      88.5兆      92.3兆    3.8兆   

 ○主要経費の分類による予算の変化「コンクリートから人へ」

            21年度予算  22年度予算  差  伸率
 社会保障関係費   24.8兆    27.3兆  2.4兆 9.8%
 文教及び科学振興費  5.3兆     5.5兆  0.3兆 5.2%

 公共事業関係費    7.1兆     5.8兆  ▲1.3兆 ▲18.3%

 地方交付税交付金等 16.6兆    17.5兆  0.9兆 5.5%

 ○平成22年度 一般会計の歳出の構成

        21年度当初 %  22年度予算 %          
 一般歳出     51.7兆 58.4%  53.5兆 57.9%
  社会保障     24.8  28.0   27.3  29.5
  公共事業       7.1   8.0    5.8   6.3
  文教科学振興  5.3   6.0    5.6   6.1
  防衛           4.8   5.4    4.8   5.2
  その他        9.7   11.0   10.0   10.9
 地交税交付金等 16.6兆 18.7%  17.5兆  18.9%
 国債費       20.2兆 22.9%  20.6兆  22.4%

 ○マニュフェスト工程表の主要事項について
 
 -子ども手当 子供一人当たり月額13,000円(所得制限なし、児童手当法範囲で地方負担)
 -高校の実質無償化 公立高校(完全無料)私立高校(年額12万円助成)低所得上乗せ規定
 -年金記録 被保険者名簿等の紙台帳の精査 インターネット閲覧
 -医師不足解消 診療報酬本体の大幅プラス改定 急性期入院医療の医療費増額 救急・産科・小児・外科に重点
 -農業の戸別所得補償 モデル事業の定額部分の補償交付単価1.5万円/10a 変動部分を措置
 -暫定税率 当分の間維持
 -高速道路の無料化 社会実験を実施 段階的に進める
 -雇用対策 雇用保険の適用範囲を緩和

 ○マニュフェスト工程表の主要事項の財源確保
 
 -子ども手当        1.7兆
 -農業の戸別所得補償  0.6兆
 -高校の実質無償化   0.4兆
 -暫定税率        0.2兆
 -高速道路の無料化   0.1兆
 -年金記録         0.1兆
 -雇用対策         0.0兆(170億)
 計            3.1兆

 (行政刷新会議における事業仕分け等を通じて予算の全面的な組み替え実施)
 -事業仕分け評価反映  1.0兆
 -公益法人基金返納   1.0兆
 -要求段階での削減   1.3兆
 計            3.3兆

 ○税外収入について
 
   19年度当初  20年度当初  21年度当初  22年度当初
    4.0兆    4.2兆    9.2兆     10.6兆(過去最大)
 
 財投特会       4.8兆 
 外為特会       2.9兆
 その他        0.2兆
 
 公益法人基金返納   1.0兆
      
 ○平成22年度 我が国の財政事情
 
 (フロー)
 公債依存度      48.0%
 プライマリバランス▲ 23.7兆
   
 (ストック)
 公債残高     637兆(GDP比 134%)
 公的長期債務残高 862兆(GDP比 181%)     

3.課題

 民主党政権に移行し、予算策定のプロセスに事業仕分けなど新たな仕組みが導入されたことは一定の評価ができるが、このままでは構造的問題が解決されるばかりか、ますます国家財政が悪化し、国民社会生活に極めて深刻な悪影響を与える可能性が高まっている。その解決のために課題への対応策を明確にし、景気動向などを勘案しながら中長期のフレームワークの中で、具体的で実現可能と思われる目標値を設定し、今年度からでも補正予算も含めて施行していく必要がある。

 ○財政規律の方法論および方向性にかかるコンセンサスの形成
  成長戦略 
  消費税引き上げ
  年金保険料の引き上げ
  マニュフェスト実施優先順位および見直し

 ○予算策定プロセスのさらなる効率化
  事業仕分けの戦略的変更(範囲拡大・効果優先順位)
  結果検証の仕組みビルトイン
 
 ○新たな財源の確保
  政府資産や政府保有株の売り出し・民営化
  消費税引き上げ
  年金給付金引き下げ
  特別会計の抜本的な見直し・一般会計との整合性確保
  公務員制度改革によるスリム化・活性化
  議員定数の削減等政治の仕組みのスリム化

2010年2月25日木曜日

Ⅱ 政権交代の意味と現状

 昨年8月の総選挙で民主党は政権交代の旗印のもと、細川政権などの一時を除いて戦後続いてきた自民党を「平成(無血)革命」により打ち破った。小泉政権での構造改革が成就しないままに安部・福田・麻生と続いた政権の投げ出し・たらいまわしや相次ぐ閣僚の不祥事や不適切な発言など、深刻の度を増す国民経済社会の状況そっちのけで政治茶番劇が続いたため国民の政治不信が高まり、折からの世界金融恐慌というかなり強めの外部要因も加わったことで歴史的な政権交代が実現した。これは、逆説として民主党が勝ったのではなく、自民党に国民が「NO」を突きつけたということでもある。

 民主党政権発足後、100日のハネムーン期間もとうに過ぎて政権交代の高揚感や期待感は沈静・後退、総選挙戦勝ユーフォリアも醒めている。6ヶ月経過した2月末のこのタイミングで、そもそもマニュフェストで掲げていた政策の現状のステイタスはどうか、それを実現するプロセスとして「政治主導」・「事業仕分け」とは何だったのか、また政治の本旨であり、政策を実現するための「予算」とそれを実現する「税制」はどのようなものであるのかを検証していきたい。今後、6月頃に最終取りまとめるとともに、成長戦略実行計画(工程表)が作成される予定である、昨年12月に公表された「新成長戦略の基本方針」についても是非についてコメントを加えることとする。

1.いきなり躓いた政治資金問題と初めての地方選・長崎知事選での敗退

 小沢民主党幹事長の政治資金規正法にかかる疑念(別稿:2月4日「小沢一郎」的政治業の限界と破綻 )と鳩山首相自身の政治献金問題で金権的自民党体質と本質的には差異がないことが印象として固定し、直近の民主党支持率の低下となっている。支持率60%以上から40%以下への急落スピードは政権交代後の実績がない現状では、かなりの恐怖感があってもしかるべきだが、自民党の支持率が上がっていないことで、「妙な安心感」を生んでいる。抜本的な党勢を回復するためには「小沢幹事長の辞職」あるのみと考える。

 また、2月21日の長崎知事選で民主党候補を応援する石井一選挙対策委員長をはじめとする露骨な利益誘導(*)がかえって足を引っ張り、自民党などが支援する候補が、民主党推薦候補に9万票差で圧勝する結果となってしまった。長崎は、民主党が比較的強い県として知られ、2009年8月の衆院選でも、風が吹いたとはいえ、4つの小選挙区すべてで同党候補が当選したが、「政治とカネ」の問題が解決していない中では、県民の反応も冷ややかなだった。今後の地方選でこの傾向が定着するようだと、7月の参議院選挙を控えて小沢辞任論が高まるのは必至の状況となるだろう。

(*) 21日付産経新聞によると、民主党の小沢一郎幹事長は、1月17日にあった同党長崎県連のパーティーで、「(推薦候補の)橋本剛君を知事に選んでいただければ自主財源となる交付金も皆さんの要望通りできます。高速道路をほしいなら造ることもできます」と話した。
2月22日放送のテレ朝系「スーパーモーニング」では、石井一選対委員長が1月29日の応援演説で、「時代と逆行するような選択をされるのなら、民主党政権は長崎に対してそれなりの姿勢を示すべき」と語ったと報じた。
2月22日付日経新聞によると、石井氏は、1月28日の決起大会で「島原には道路は造らんといかん」と訴えたという。さらに、前原誠司国交相も、島原で道路を視察し、同30日には「お金も権限も来る」と支援を呼びかけたと報じられている。

2.「政治主導」像の張りぼて加減・失敗のパターン

 ○功をあせりすぎた失敗

 政権奪取後の民主党の動きはすばやかった。特に前原誠司国交相はフットワーク軽く八ッ場ダムの建設工事の中止を通告しに現地入りし、他のダムサイトにもこまめに足を運んでいる。マニュフェスト至上主義の原理行動だった。また、前政権からの課題であった日本航空問題への対応も視界不良・操縦経験なしの状態で強行着陸を自ら設定した「タスクフォース」に委ね結論が出せず時間を浪費。ダッチロールの末なんとか着陸できる場所を見つけて胴体着陸を試み、機体炎上は回避したものの新パイロットの稲盛機長の手腕に頼っても離陸はかなり困難な状況に陥っている。取り込まれてしまうという恐れを官僚に対して持っている政治家は「政治主導」をいつまでも実現できない。官僚からは「子供大臣」と揶揄されておしまいになっている。

 ○連立与党の政治主導は同床異夢の失敗

 国民新党亀井代表(金融・郵政改革担当大臣)と社民党代表福島瑞穂(少子化対策・消費者行政担当大臣)はそれぞれの支持基盤と政治理念に基づき連立の中で埋没しないことに腐心しており、閣議における反対など閣内不一致となる火種がある。沖縄米軍基地移転問題(社民党の強硬な国外・県外移転主張)、外国人参政権問題(国民新党が反対)などの不協和音もあり、この2つの問題は前者が米国との合意の経緯の問題、後者が中国・韓国など民主党が「公約外公約」として利益誘導しようとする支持層への問題が根っこにある。3党合意は以下のようになっており、平常運転の場合は上記の2つの問題を除いては火種はないと思われるが、少数派連立与党のスタンドプレーや「貧者の論理」はみんな結果が平等という悪平等に陥り、望むべき結果に導かれないことが多い。

 -連立政権政策合意骨子(3党が2009年9月9日に合意)
 
 既得権益構造・官僚支配の自民党政治を根底から転換し、政策を根本から改める
 競争至上主義の経済政策をはじめとした自公政権の失政によって、国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安が増大し、社会保障・教育のセーフティーネットはほころびを露呈
 国民からの負託は、税金の無駄遣いを一掃し、国民生活を支援することを通じ、経済社会の安定と成長を促す政策の実施
 連立政権は、家計に対する支援を最重点と位置付け、国民の可処分所得を増やし、消費の拡大につなげる。
 中小企業、農業など地域経済基盤を強化し、年金・医療・介護など社会保障制度や雇用制度を信頼できる、持続可能な制度へと組み替える
 地球温暖化対策として、低炭素社会構築のための社会制度の改革、新産業の育成等を進め、雇用の確保を図る。こうした施策を展開する
 日本経済を内需主導の経済へと転換を図り、安定した経済成長を実現し、国民生活の立て直しを図る

 (1)速やかなインフルエンザ対策、災害対策、緊急雇用対策
 (2)消費税率の据え置き
 (3)郵政事業の抜本的見直し
 (4)子育て、仕事と家庭の両立への支援
 (5)年金・医療・介護など社会保障制度の充実
 (6)雇用対策の強化-労働者派遣法の抜本改正
 (7)地域の活性化
 (8)地球温暖化対策の推進
 (9)自立した外交で、世界に貢献
 (10)憲法

 (全文)http://bit.ly/9YPvKR

 ○過信による失敗

 上記の郵政事業の抜本的な見直しの一環で、ユニバーサルサービスを担保できる郵便局・持ち株会社と4分社の経営形態の見直しを図るために小泉郵政改革で登用された西川元総裁の事実上の更迭と斉藤元財務省次官を後任に指名した。公約である「脱・官僚支配」の真逆の方向性となる官僚中の官僚の元財務次官の登用となった。これは、亀井郵政改革担当大臣の主導による決定(小沢氏は斉藤氏の盟友として当然同意)によるが、旧大蔵省をやめて14年経過しているとして天下りではないと誰が賛成すると思っているのだろうか?
 2月21日の長崎知事選は、民主党が政権政党としての初の地方選に臨んみ、「政治と金」の問題を曖昧なままでスルーするばかりか、露骨な利益誘導的選挙戦略をとってしまった。政権与党の政治力を見せつければ、選挙民はひれ伏すとでも思っていたのだろうか?
 
 ○軽さ・不誠実による失敗

 普天間米軍基地移転をめぐる問題(別稿:1月18日「沖縄米軍基地移転問題について①」、1月30日「沖縄米軍基地移転問題について②」)については、同盟国代表であり、合意内容の再検討をめぐって鋭意交渉中である米国への対応の不誠実さである。一国の首相と一国の大統領が議論し、一定の合意を模索する中での「トラスト・ミー」という言葉は、いわば債券発行のようなものである。「My word is my bond」というロンドン・シティの金言があるが、一度口にした言葉やそれを誠実に実行する責任の重さは、地位が高くなればなるほど取り返しのつかない事態をまねくことがある。

 ○人を使わない失敗

 政治主導も立派な思いであるが、政務三役ですべての行政事務を取り決めていくということは不可能である。重要な問題間の優先順位の問題、想定していなかった突発事項への対処、時間が限られていることの対応など、トップダウンで指示命令し、担当セクションがそれを効率的に処理していかなければ、会社で言えば即倒産ということになってしまう。政治主導というコンセプトをはきちがえ、官僚を有効に使わないということであれば行政はストップ・無政府状態となり、官僚は強いられたサボタージュ・バカンスを享受することになるだろう。

3.民主党マニュフェストで盛られていた内容と現状

 ○ムダ削減 - 国の総予算207兆円を全面的に組み替える

八ッ場ダム中止など難航。事業仕分けなどの手法により予算策定プロセスをガラス張りというか衆人環視の下にさらした。2010年度の削減額は16.8兆円の腹算用が約1兆円にとどまった。

 ○天下り - 天下りあっせん禁止、公益法人は原則廃止

上記のように日本郵政社長のポストに元官僚を起用。独立行政法人役員の公募を始める。

 ○子育て支援 - 子ども手当、高校の無償化

10年度予算に子ども手当半額分(月額1万3000円)、高校の無償化を担保する所要額を計上。4月以上に実施へ。11年度は子ども手当も満額支給を前提に5兆4000億円が必要。

 ○年金 - 2年間記録問題に集中。月額7万円の最低保障年金を創設

記録問題はマニュフェストより予算削減。制度改革の議論は手つかず。ミスター年金とよばれた長妻厚生労働相も疲れ気味。
 
 ○暫定税率 - ガソリン税など暫定税率の廃止

10年度は廃止を見送り。温暖化対策税の創設を検討。

 ○農業支援 - 農業の個別所得保障

10年度予算で約6000億円を確保。コメを先行実施。11年度以降は漁業などに拡大し、最終的に1.4兆円規模の助成予算となる。

 ○高速道路の無料化

10年度予算は概算要求の6000億円から1000億円に削減。無料化対象も交通量の少ない地方に限定して調査として実施。

 ○郵政事業 - 抜本的に見直し

西川前総裁を事実上更迭し、斎藤新総裁を指名。株式売却凍結法が成立。改革法案も提出予定。 

4.新成長戦略の基本方針

  昨年12月に公表された「新成長戦略の基本方針」では、今後10年について、「名目3%、実質2%を上回る成長を実現し、2020年の経済規模を650兆円とすることを目指す。失業率は直近の5.2%から3%台へ低下させる」としている。過去10年間の平均成長率は名目0%、実質1%に過ぎず、経済規模についても2007年度の515兆円が2009年度には473兆円に減少する見込みとなっていることを考えると、「言うは安し、行うは難し」を地でいくことになる。ばら色の絵は描けたものの、その画中に描かれている「餅」は眺めるだけで、そのうち絵の極彩色も退色していくことになるのだろう。自民党政権下での成長戦略は、公共事業主体の土建型国家、構造改革の名の下での供給サイドの生産性向上による成長戦略(行き過ぎた市場原理主義)に縛られてきたと総括した上で、今後は第3の道(環境・健康・観光の分野)における「新たな需要を創造」し、成長を目指すとしている。具体的にはこの3つの分野で2020年までに100兆円の新しい市場と470万人の雇用創出を実現する。

 ○6つの戦略分野

   強みを活かす成長分野  ⇒環境・エネルギー 健康(医療・介護) 
   フロンティアの開拓による成長 ⇒アジア 観光・地域活性化
   成長を支えるプラットフォーム ⇒科学・技術 雇用・人材

 施政方針演説にある、「官」から「民」へ、「中央」から「地方」へ、「コンクリート」から「人」へ、「国内」から「海外・アジア」へというベクトルに基づき、6月頃に取りまとめられる最終案と成長戦略実行計画(工程表)によって実現性の程度が確認されるので、この段階のコメントは難しい。ただ、成長戦略を実現するための財源の担保が可能であるかは、2009年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が過去最悪の40兆6000億円、名目GDP比8.6%という状況でのスタートとなりハードルはかなり高い。また、この考え方が需要創造型への転換とあるように「消費者であり、労働者である人」、つまり消費サイドのロジックで貫かれており、企業の国際競争力を高める生産性の向上や規制緩和などのコンセプトは曖昧で、供給サイドの視点がすっかり欠落している。
 また、上記の新成長戦略の最終案と同時期の6月までに中期的な財政再建目標を掲げる「財政運営戦略」とこの目標達成のために、2011年度から3ヵ年の予算をコントロールする「中期財政フレーム」を作るとしているが、消費税を4年間据え置くという公約も含めて戦略間の矛盾や不整合が目立ち、立ち往生することになろう。

5.鳩山政権は長命か

 平成時代に入り22年目となったが、この間の日本の総理大臣は15人。政治が安定しないと社会経済も安定しないということもあるが、この短期政権では中長期の成長戦略を取りようもなく、「政策よりも政局」に傾斜せざるを得ないということも否めない。

 ○長期政権の特徴(この項2008年9月12日付シティグループ証券資料より一部抜粋)

 歴代首相で、4年以上の政権の座にあったのは、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎の4氏である。この4氏の共通項は以下の通り。
 
  ・厳しい総裁選挙を戦った経験がある
  ・明確な戦略目標がある
    池田勇人 :所得倍増計画
    佐藤栄作 :沖縄返還
    中曽根康弘:三公社(NTT、JR、JT)民営化
    小泉純一郎:郵政公社民営化
  ・強力な参謀がいる
    池田勇人 :大平正芳(官房長官、外務大臣)
    佐藤栄作 :保利茂(官房長官、幹事長)
    中曽根康弘:後藤田正晴(官房長官、総務庁長官)
    小泉純一郎:竹中平蔵(郵政民営化担当大臣、経済財政金融担当大臣、総務大臣)

 これを鳩山首相に当てはめてみる

  ・厳しい政権交代の総選挙を戦った(民主党内では小沢党首の辞任による総裁選で勝利)
  ・明確な戦略目標がある
    鳩山由紀夫:政治主導・脱官僚、コンクリートから人へ
  ・強力な参謀がいる  
    鳩山由紀夫:平野博文(官房長官)、寺島実郎(日本総合研究所会長)、平田オリザ(演出家)

 ○55体制以降の歴代首相

  就任年  首相     出身大学    前職      世襲の有無
  1954年  鳩山一郎   東京大学    地方議員    父が地方議員
  1956年  石橋湛山   早稲田大学   民間      なし
  1957年  岸信介    東京大学    官僚      なし
  1960年  池田勇人   京都大学    官僚      なし
  1964年  佐藤栄作   東京大学    官僚      なし
  1972年  田中角栄   -ー      民間      なし
  1974年  三木武夫   明治大学    民間      なし
  1976年  福田赳夫   東京大学    官僚      なし
  1978年  大平正芳   一橋大学    官僚      なし
  1980年  鈴木善幸   東京水産大学  民間      なし
  1982年  中曽根康弘  東京大学   官僚      なし
  1987年  竹下登    早稲田大学   地方議員    父が地方議員 
  1989年  宇野宗佑   神戸大学中退  地方議員    なし 
  1989年  海部俊樹   早稲田大学   政治家秘書   なし
  1991年  宮沢喜一   東京大学   官僚      父が国会議員
  1993年  細川護煕   上智大学    知事      祖父が首相
  1994年  羽田孜    成城大学    民間      父が国会議員
  1994年  村山富市   明治大学    公務員     なし
  1996年  橋本龍太郎  慶応大学    民間      父が国会議員
  1998年  小渕恵三   早稲田大学   学生      父が国会議員
  2000年  森善朗    早稲田大学   地方議員    父が地方議員
  2001年  小泉純一郎  慶応大学    政治家秘書   父が国会議員
  2006年  安倍晋三   成蹊大学    民間      父が国会議員
  2007年  福田康夫   早稲田大学   民間      父が国会議員
  2008年  麻生太郎   学習院大学   民間      祖父が首相
  2009年  鳩山由紀夫  東京大学    学者      祖父が首相・父が国会議員  

 ○菅副総理・財務大臣はしたたか

 昨年9月16日、鳩山由紀夫内閣発足により、副総理(内閣法第九条の第一順位指定大臣、経済財政相兼科学技術相)に就任し、担当事項として国家戦略局の担当したが、今年1月7日、藤井元財務大臣の体調不良による辞任に伴い、後任の財務大臣に横滑りの形で就任した。なお、経済財政相を続投するばかりか、国家戦略室は仙谷大臣に引き継ぐも国家戦略策定部分の権限は自らの手に残した。早速、消費税議論を開始するとの宣言とマニュフェスト(政権公約)についても政策に効果がなければ見直すという「政策達成目標明示制度」を導入を主導した。2010年、11年と実施した結果を12年度から政策の精査基準をもって予算査定へ反映することになる。これらはすべて菅副総理がもし首相になったときには、極めて重要かつ役に立つ仕組となるはず。

 ○民主党は自ら政権を降りることはない(連立解消はトカゲの尻尾切り)

 衆議院で絶対過半数を占め、解散がなければ今後3年半は政権与党として権限を思う存分に奮うことができる。鳩山首相、菅副首相、岡田外務相、前原国交相小沢党幹事長と5人の党首経験者をそろえ、自民党のようだと批判されようとも首の挿げ替え・政権のたらい回しによる政権維持は可能なラインアップである。これに枝野行政刷新相、野田財務副大臣も加わり、総理総裁候補の育成プロセスも起動し始めているように見える。解散するとしても勝利の方程式とタイミングは民主党の手の中にある。ということで、民主党の長期政権の道は始まったばかりであり、今後国内外の経済環境の好転や予算執行の効果が実感され始めると政権運営に強さもでてくることが予想される。今夏(7月11日想定)の参議院選挙で民主党が過半数を獲得できない、または惨敗を喫するケースでも衆議院の優越からこのシナリオに大きな変化はない。後述の自民党解体プロセスの進行により、「荷崩れ的」(馬糞の川流れといった御仁もあった)に民主党に合流する元自民も増えるのではないか、また公明党が節操もなく政権与党の甘い蜜に擦り寄ってくるケースもあると想定する。w)€刋ネw) 民主党にとっての獅子身中の虫は連立合意に縛られる社民党と国民新党の存在である。参議院の安定運営が上の2つのシナリオのいずれかの場合には是々非々で連立合意の見直しを提起し、実行することになるだろう。

 ○自民党の最終的な解体プロセスは確実に進行中

 自民党の凋落はとどまるところを知らない。(別稿:1月18日「自民党は今何をなすべきか①」、1月25日「自民党は今何をなすべきか②」 )今何をなすか。また、今何をなすことを期待されているかを理解していないし、理解しようともしていない。民主党の「政治とカネ」の問題追及は、天に唾するようなものである。「自民党的」政治とカネという枕詞が必ずつく論点を掘り下げても、国民の政治不信感を高めることはできても、自らは同じ穴のムジナのポジショニングから抜け出すことが出来ない。政策提案をし続けるべきだが、新しい党綱領を見ると政策立案能力欠如が露呈しており暗澹たる思いがする。渡辺みんなの党主の歯切れのよさ、潔さから比較すると2大政党制のもう一つは近い将来「みんなの党」ということになるかもしれない。

2010年2月24日水曜日

Ⅰ 鳩山首相の施政方針演説について

 1月29日の首相施政方針演説の全文を読んだ。マスコミで報道されるのは、もっぱら「いのちを、守りたい」との冒頭切り出しとこのフレーズが全文で24回繰り返したということ。また、具体的な内容が無いため実効性が疑わしいとのコメントである。首相の施政方針演説にはそもそも具体的な実効性のある項目は盛り込まれなくても構わないのであり、文字通りその内容において「施政の方針」が貫かれており時代の要請に適合しておればよいと考える。その中身を聞きも読みもせず、片言隻句を捉えた表面的な批判は的外れであるとともに国民としてよりよい政治・政治家を選ぶという責任を放棄しているともいえる。以下に全文を骨子としてまとめる。

 また、内容についての評価であるが、良い点としては①鳩山家の家訓:「友愛」の精神である博愛的な主義・思想が貫かれている、②拝金的な資本主義はすでに限界的な状況であるとして「新しい公共」という概念を提示している、③国内の限界を海外、特にアジアとの連携で成長していこうとしてる、④政治主導(官邸主導)による行政体制の見直しが明示されている、などあげられる。
 一方、①「総花的」でこの全てを実行できるのか、②何を基準として優先順位を決めるか、③「いのちを守る」予算を実現するための財政規律についてスルーしているなど実務上の措置を考える際に大きな欠陥があることは否めない。この施政方針どおりに全てを同時に運営しようとしても「へそ」がなく、国家レベルでの混乱に陥る可能性が高い。その予兆はすでに現れている。

 ○首相施政方針演説の骨子

1.はじめに
 いのちを、守りたい。⇒いのちを守る予算
  ・生まれてくるいのち、そして育ちゆくいのち⇒少子化への対応
  ・働くいのち⇒雇用問題への対応と新しい共同体のあり方
  ・世界のいのち⇒核廃絶、国際社会における責任や協働ネットワーク
  ・地球のいのち⇒環境・資源問題と生態系の激変への対応や「人間圏」のあり方
 
2.目指す日本のあり方⇒人間が人間らしく幸福に生きていくための経済、社会、教育
  ~マハトマ・ガンジーのことば(7つの社会的大罪)~
  ・理念なき政治
  ・労働なき富
  ・良心なき快楽
  ・人格なき教育
  ・道徳なき商業
  ・人間性なき科学
  ・犠牲なき宗教

 人間のための経済、再び
  経済のグローバル化・情報通信の高度化で便利になる反面で経済システムを制御できない事態
  ⇒経済のしもべとして人間が存在するのではなくて人間の幸福を実現するための経済
  ⇒ステイクホールダーや社会に貢献する日本の企業風土の確立

 「新しい公共」によって支えられる日本⇒5月を目途に具体化
  企業の社会的な貢献、政治の力だけではなく市民・非営利組織の活躍による課題解決
  肥大化した「官」をスリム化し、「新しい公共」を育成支援

 文化立国としての日本
  芸術や文化活動のみではなく、国民の生活・行動様式うあ経済のあり方や価値観を含む
  伝統文化と現代文明の融合:日本へ訪れたいという気持ちとなる愛され、輝きのある国

 人材と知恵で世界に貢献する日本
  人(人格)を育てる教育、人間の可能性(人間性)を創造する科学

3.いのちを守るために⇒予算 公共事業18.3%減、社会保障費9.8%増、文教科学費5.2%増

 子供のいのちを守る
  所得制限のない月額1万3000円の子供手当ての創設
  高校の実質無償化
  「子供・子育てビジョン」⇒待機児童の解消や幼保一体化によるサービス充実
 
 いのちを守る医療と年金の再生
  危機的な国民医療の立て直しと再生⇒医師養成数の増大、診療報酬の改定と配分見直し
  年金集中対応期間(2年間)

 働くいのちを守り、人間を孤立させない
  雇用機会の拡大(雇用調整助成金の支給要件の緩和)
  雇用保険の対象の抜本的拡充
  派遣労働法の見直し
  生活費支援を含む恒常的な求職者支援制度の創設
  男女共同参画の推進
  障害者自立支援法の廃止や障害者権利条約の批准
  自殺対策の強化や救急救命体制の充実
  犯罪捜査の高度化

4.危機を好機に

 いのちのための成長を担う産業の創造
  新たな成長戦略の基本方針
  成長の原動力としての危機:環境・エネルギー・医療・介護・健康
  2020年に1990年比CO2の25%削減⇒グリーン・イノベーションの推進
  地球温暖化対策基本法の策定し、環境・エネルギー関連規制の改革と新制度の導入
  医療・介護・健康産業の質的充実⇒ライフ・イノベーション  

 成長のフロンティアとしてのアジア⇒世界経済におけるわが国の活動の場
  環境問題、都市化、少子高齢化などの日本と共通する課題を共有し、ともに成長する
  アジア地域の自律的な経済成長に貢献できる高度な技術やサービスのパッケージ
  日本への訪問誘致⇒2020年までに2500万人、3000万人目標の総合的な観光政策
  空港、港湾、道路などのインフラ整備の戦略的な推進

 地域経済を成長の源に⇒地域経済の疲弊の緩和・活性化
  地方交付税の1.1兆円の増額
  地域経済活性化・雇用機会の創出を目的とした2兆円規模の景気対策
  農林水産業における新たな価値創出⇒「第六次産業」化
  個別所得補償制度
  食料自給率を50%まで向上
  中小企業の資金繰りへの対応
  「中小企業憲章」の策定
  高速道路の一部無料化への試み
  ユニバーサルサービスを担保できる郵便局・持ち株会社と4分社の経営形態の見直し

5.地域主権と財政規律

 地域主権の確立⇒地域主権革命元年・地域主権戦略大綱・地方分権改革推進計画
  中央集権から自律的でフラットな地域主権型の構造に変革
  地方に対する不必要な義務や枠付けを廃止
  直轄事業負担金制度の廃止
  国と地方との協議の場を法律に基づいて設置
  ひも付き補助金の一括交付金化・出先機関の改革
  「緑の分権改革」推進
  「コンクリートの道」から「光の道」として情報通信技術の利活用

 責任ある経済財政運営⇒中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略
  2009年予算第二次補正予算24兆円の編成
  過去最大規模となる2010年予算の編成⇒切れ目のない景気対策の実行・デフレの克服
  財政の規律(今回新規国債発行額44兆円以下)
  事業仕分けや公益法人の基金返納などで3兆円捻出
  複数年度を視野に入れた中期財政フレームの策定

6.責任ある政治の実践

 「戦後行政の大掃除」の本格実施
  予算編成の議論を事業仕分けという公開の場で実施
  規制や制度のあり方の抜本的見直し
  独立行政法人や公益法人の必要性の検証
  特別会計の整理統合
  一般会計と特別会計を合わせた総予算を全面的に組み替え
  行政刷新会議を法定化し、権限と組織を強化 

 政治主導による行政体制の見直し
  行政組織や国家公務員のあり方を見直しと意識改革
  縦割り省庁行政を廃し、国家的観点からの予算・税制の編成を担う国家戦略局の設置
  内閣人事局の設置による幹部人事の内閣一元管理
  政府内における国会議員の職責の充実強化を担保する関連法策定
  府省編成の見直し
  天下りの根絶と国家公務員の労働基本権のあり方、定年まで勤務できる環境等

 政治家自ら襟を正す
  議員定数や歳費のあり方
  政治資金の問題

7.世界に発信する日本

 文化融合の国、日本
  多様な文化は技術を吸収し、独自の文化との融合で豊かな文化をはぐくんできた
  伝統的な価値観は大切にしつつ、新たな文化交流・人的交流に積極的に取り組む
  新しい価値観を世界に発信していく

 東アジア共同体のあり方
  東アジア共同体は「いのちと文化」の共同体
  日米同盟はその前提条件となる重要な位置づけ
  多角的な自由貿易体制の強化が第一の利益

 いのちと文化の共同体
  東アジア共同体の具体策はいのちを守るための協力、文化面での交流の強化
  地震・台風・津波などの自然災害対策の協働
  新型インフルなど感染症・疾病への対応策の協働
  米国中心の人道支援「パシフィック・パートナーショップ」に海上自衛隊の輸送艦派遣

 人的交流の飛躍的充実
  今後5年間にアジア各国を中心に10万人を超える青少年を日本に招聘
  域内各国言語・文化の専門家の育成
  アジア太平洋経済協力会議(APEC)の枠組みの充実強化

 日米同盟の深化
  今年は日米安保条約改定50周年
  日米安全保障体制はアジア・世界の平和と繁栄に不可欠・重要な存在
  日米同盟の成果・課題の総括と重層的な同盟関係への深化・発展
  国連総会で採択された「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」で日米協調
  普天間基地移転問題の最善な解決策の5月末までの策定
  気候変動問題における技術協力や共同実証実験、研究者の交流の実施

 アジア太平洋地域における二国間関係
  日中間の戦略的互恵関係の充実
  日韓関係の節目韓国併合100周年における未来志向の友好関係強化
  ロシアとの北方領土問題の解決・アジア太平洋地域における協力強化
  北朝鮮の拉致・核・ミサイルの諸問題の包括的な解決と日朝国交正常化
  6カ国協議による緊密な連携と拉致問題対策本部のもと解決に向けてた最大限の努力 

 貧困や紛争、災害からいのちを救う支援
  発展途上国や紛争地域における飢餓や貧困で苦しむ人々への支援
  ハイチ地震など被災者への救済策(自衛隊派遣や緊急・復興支援金の提供)
  国連など国際機関や主要国との密接な連携

8.むすび

 いのちを守りたい。
 15年前の阪神・淡路大震災の教訓⇒防災・減災への取り組み
 「新しい公共」の出発点