2010年9月5日日曜日

民主党政権の一年を振り返る

 昨年8月30日の衆議院選挙の結果、国民は一種の「高揚感」を持って「政権交代」の歴史的現実を迎えていた。鳩山首相(当時)は、新しい政治=脱官僚を掲げ、国民第一、コンクリートから人への転換を高らかに宣言した。
 現在、9月14日の民主党代表選挙の真っただ中であり、可能性としては一年程度の間に3人目の民主党代表=首相が就任することもあるというタイミングであるため、この機会に民主党政権の一年を振り返ることとする。
 昨年の衆議院選挙では私自身も民主党に(それほどその担政力に期待も無く)投票し、自民党が二大政党制の中で古い体質を構造的に変革する機会としてほしいという気持を持っていた。だが、結論から言うと、想像を上回る民主党の迷走と担政力という実務能力の低さ、政党体質の劣悪さを目の当たりにし、うんざりしている。返す刀で、対極の自民党も長期的な低落傾向にも歯止めがかかっていない。
 大企業など自助により危機対応の検討や実行ができる主体は、根本的な戦略変更の選択を迫られた結果、そうせざるを得ないという地点に追い詰められているが、自助できない主体は「緩慢な自殺」に好むと好まざると得ずに進んでいる。そう、練炭をもって個室にこもり一酸化炭素中毒で自殺を図るように。ただ、これも意識した行動であれば自殺だが、意識をしていなければ事故死ということであるが。

○民主党政権下での振り返りポイント

1.民主党運営-小沢幹事長との二元構造と反発⇒迷走した
 【小沢幹事長室への権限集中と政調会の廃止から揺れ戻し】
 当初党運営は小沢前幹事長の完全なコントロール下におかれたが、鳩山前首相の抱きつき辞任で反小沢の枝野幹事長に交代したため、反作用として揺れ戻しが顕著となった。

2.財政・経済政策-公約を果たすことも対策も構造改革もできず⇒大きな禍根を残した
 【事業仕分けも新年度予算編成は92兆円規模に拡大】
 マスコミに受ける事業仕分けは、財政支出の無駄を切りだす一種の「見える化」であったが、公約の規模には全く至らず、重箱の隅をつついただけ。結局はバラマキ公約の実施により過去最大に肥大した予算と国債の発行となった。

 【経済問題(景気・株式市況・為替・失業)は何も対策が打てず】
 民主党内に目立った政策通もおらず、脱官僚を指向したため官僚には体の良いサボタージュの口実を与えることになり、無為無策に終始した。この部分の無作為という失策が一番罪が大きい。

3.国内政治の動き-連立政権の限界と参院選敗北による混乱⇒政治への絶望感が高まった
 【郵政改革法案の優先決議決定と先送り】
 連立を組む国民新党の主張により、郵政民意化を凍結する郵政改革法案も参議院選挙後の最優先決議議案とすることに合意したが、参院のねじれにより今度の方向性は混沌としている。小泉政権時に郵政民営化には賛成した国民の判断が生きているので、よりよいタイミングとやり方で民営化を進め行く余地が残っている点に希望がある。 連立政権の限界 (3月28日)


 【沖縄普天間基地移転問題をめぐる社民党の政権離脱】
 連立の社民党の主張に同調した鳩山前首相の友愛精神。ブレにブレた結果、当初案に回帰して、納まる鞘さえ失わせた不手際。前代未聞の未成熟な政治手法によって、結果として社民党は連立を離脱。国民は選挙によって社民党に政権を委ねたわけでは全くないのであるべき姿に回帰した。ただ、その爪痕は後述するが国益の厖大な棄損をもたらす結果となった。

 【在日外国人参政権問題】
 マスコミの表舞台では議論されておらず、それこそ「国民不在」の法案審議プロセスとなっていた。時間をかけた議論が必要であり、拙速は避けるべし。参院のねじれにより、この問題についての適切なプロセスが実現することは考え方によっては国民のバランス感覚の示現とも言える。 外国人参政権問題の論点 (3月5日)

 【宮崎県口蹄疫問題】
 舛添前厚労相下であった新型ウイルスの対応の「滑った転んだ」的な滑稽劇も困ったものだが、宮崎県口蹄疫問題は、国家の検疫に対する戦略のなさと危機管理体制のなさを露呈した。将来的な課題として、然るべき対応を平時から行っておかなければならない。日本の亜熱帯化等の気候変動によって、マラリア、デング熱等の風土病への罹患は避けられない現実として、危機対応と準備は万全に行っておくべき。

 【鳩山首相と小沢幹事長(いずれも当時)の辞任と菅首相への交代】
 普天間基地移転問題の迷走と政治とカネ問題で躓いた民主党トップ2の参院選挙対策としての辞任と菅首相への交代。ありとあらゆる失敗のパターンを繰り出してきた鳩山政権が早晩息詰まることは自明であったこと、また、当時の菅副総理・財務相はしたたかという見方をしてきたこともあり、この展開は当然のこととして受け止めた。ただし、鳩山政権を支えてきた副官としての政権の総括は全くなく、批判から入った政治手法に菅総理の野望と権力掌握の陶酔が露呈していた。その後は、期待された矢継ぎ早の政策の提示ではなく、前総理以下のガバナンス失墜の連続となっている。 政権交代の意味と現状 (2月25日)

 【参議院選挙での敗退】
 消費税の引き上げ議論を唐突に、また、野党である自民党の公約に抱きつく形でヘッジした姑息さと、一度口に出した政治家の言葉の重さを自覚しない覚悟のなさを突かれた。自ら副首相を務めていた政権の総括も無く、予算委員会における議論も端折って高支持率に掛けた短慮を恥ずべきである。また、国民の審判として受け止めるならば、何らも責任を取らない在り方については、大きな疑問である。選挙に落選した千葉法務大臣を継続して、「民間」大臣として職に当たらせるなど前代未聞の大失態である。反省がないということを世間に明確に示したということ。

 【非存在高齢者問題】
 実現形態は問わないが。国民背番号制(一体的なセキュリティ管理システム)を本格的に検討し、3年間で実現すべし。管理社会として自由主義的な観点からは批判もあるが、個人情報の保護を制度的にしっかりと設計し、老齢者の管理を国家的に行っていかなければならない。限界集落の問題などとあわせて国家レベルで検討する課題であり、各家庭の問題として矮小化してはならない。

 【おまけ:鳩山首相Twitterでのつぶやき】
 大衆迎合の究極で失策の一つ。オバマ米大統領との比較でいうと、選挙活動中から情報発信として活用しているならば救いはあった。一国の代表のコミュニケーションはSNS的に成り立つわけでもなく、これを演出した電通のサトナオさんの手柄となっただけ。

4.国際政治-世界に例をみない高頻度の首相交代⇒日本の国際的地位は確実に低下

 【沖縄普天間基地移転問題】
 鳩山前首相の思いつきと自作自演の下手芝居によって、すべてのシナリオが狂った。沖縄県民を愚弄した罪、日米安全お保障を基礎とする日米関係と延いてはアジアの安全保障のバランスに変調を生じさせた罪は、時間の浪費とともに国益の厖大な棄損をもたらした。

 【韓国海軍軍艦の沈没】  日米関係の軋みに同期して北朝鮮の冒険主義、中国の拡張主義傾向が明確になってきている。米国と韓国の大規模な合同演習の実施や台湾への戦闘機等武器輸出は陰画のように、国際政治の織りなす陰陽の絵模様である。国連中心主義も中国が拒否権を持つ安全保障理事会の常任理事国であるかぎり限界があることを認識するのが当然で、そうでなければよほどのお人好しである。国際社会は国益と国益のぶつかりで、近所住民の人間対人間のような良好な関係を常時維持できるほど成熟していない。
 
 【韓国航空機爆破犯人の金賢姫元死刑囚来日】
 北朝鮮の核問題・拉致問題は、日本の未解決政治課題の一つとして大きな問題である。金生日総書記の権力移譲のタイミングでもあり、今しかできない骨太の政治交渉はあり、これは国内政治問題とは切り離して、自民党との協働して取り組んでいくような国家をあげての姿勢でないと通じない。(この点でも朝鮮労働党と友党関係の社民党が連立を離れたメリットは大きい)

2010年4月25日日曜日

沖縄米軍基地移転問題について③

 「混迷を深める沖縄米軍基地移転問題」と書いた前回(1月30日)から3か月が経過し、鳩山首相が自ら設定した期限の5月が迫ってきており、解決はほぼ不可能というのがもっぱらの見方であるし、その通りだと思われる。ビジョンとリーダーシップのない組織の末路というべきか、日経は「政権末期」としての表現を用いるまでになっている。

1.問題の本質

 沖縄米軍基地移転問題② において書いた本質論をサマリーすると以下のようになる。
 
 ・日米合意の取り扱い:日米間で時間をかけて2005年に合意した「日米同盟:未来のための変革と再編」中間報告をどのように取り扱うか。政権交代したから当然「ゼロベース」で検討というが、国家間の合意・意思決定は外交および安全保障にかかわる事項では継続性が担保されるべき。この点において、鳩山政権がこの問題を政権交代時の「高揚」の中で一重に国内政治目線での議論をスタートし、方向付けに曖昧さとか目的に錯覚があった。

 ・普天間基地周辺の危険除去:名護市街地の中心部にある基地の飛行機・ヘリコプター発着による騒音や危険除去を行う必要があることが最重要ポイントでありコンセンサスであった。

 ・移転候補地の決定:環境アセスメントや地元の受け入れ合意には時間がかかるし、基本的にはかなり難易度が高いため、既存の自衛隊基地や米軍基地の役割変更が選択肢となる。

 ・単なる沖縄米軍基地の問題ではない:9.11以降の米国の軍事戦略の変更=グローバルなTransformationにおける位置づけ、今後の日米安全保障の在り方(在韓米軍基地の一部撤退を含めた米韓の軍事関係の変化)。軍事のIT化の進展と老朽既存兵器・装備のリプレースメントといった安全保障や軍事にかかる全面的な見直しの局面にある。

2.単なる日米安全保障上の問題ではなくなった

 こうした本質論を離れ、観念的で浅薄な言葉が躍る。曰く、「沖縄の美しい海を守る」、「5月までに結論を得る」、「最低限県外、できれば国外」などなど。また、閣僚や官房長官の思惑の違いによる発言の不一致、候補地選定や国内調整の段取りの悪さなどにより混迷の度は加速的に深まる。
 首相はこうした混迷を「積極的に」深める役割を果たしている。自分自身の発言が、一国の首相としてどれほど重いものかを認識していない、国民にとっては「耐えられない軽さ」が目につく。そして、この先のシナリオは当然首相交代ということにのだろう。つまり、沖縄米軍基地移転問題が首相退陣という国内問題にまでつながってしまったということ。郵政改革の後退や高速道路料金をめぐる錯綜だけでは首相退陣にまでは至らなかったのではないか。

2010年3月28日日曜日

連立政権の限界

 国民新党の亀井代表が連立政権内での混乱要素となってきている。在日外国人参政権問題では民主党のマニュフェスト外政策の強行を抑止するという効果もあるが、郵政事業の抜本的見直しでは、「暴走」といえる。

 郵政民営化のポイントは、①効率的な運営がされ赤字事業などの見直しにつながること、②郵便貯金のより効率的な運用や貸出が実現し、経済活性化につながる、③事業体としての成熟度のアップやその後の保有株式売り出しにより財政への貢献が期待できるなどがある。
 小泉政権後の自民党政権末期の不作為の反動として民主党を中心とした連立政権が発足しているが、これによって郵政民営化の後退まで国民が選択しているかというとそうではない。特定郵便局長会や労働者団体の意向を汲みすぎるのは政権移行の「光と影」の「影」の面として写る。

亀井郵政改革大臣は以下を強行しようとしている。それを鳩山首相が承認した、しないで意思疎通の齟齬もあるように報道されている。

 ・国の保有する株式を一定部分は売却しない
 ・郵便貯金預入制限の緩和
 ・非正規社員の正社員化

これによって得られる効果は、事業展開の国有としての硬直化、民間金融機関への圧迫、郵政関連事業の費用増加と労働者層の政治関与の増大がある。三党党首クラスによる基本政策閣僚委員会を早期に開催し、亀井大臣の暴走を阻止することが肝要である。

○三党連立政権の政権合意

2009年9月9日に民主党、社会民主党、国民新党の三党は、第45回衆議院総選挙で国民が示した政権交代の審判を受け、新しい連立政権を樹立することとし、その発足に当たり、次の通り合意した。

 一 三党連立政権は、政権交代という民意に従い、国民の負託に応えることを確認する。

 一 三党は、連立政権樹立に当たり、別紙の政策合意にいたったことを確認する。

 一 調整が必要な政策は、三党党首クラスによる基本政策閣僚委員会において議論し、その結果を閣議に諮り、決していくことを確認する。

 政策合意の項目は以下の通り。

 1 速やかなインフルエンザ対策、災害対策、緊急雇用対策
 2 消費税率の据え置き
 3 郵政事業の抜本的見直し
 4 子育て、仕事と家庭の両立への支援
 5 年金・医療・介護など社会保障制度の充実
 6 雇用対策の強化―労働者派遣法の抜本改正―
 7 地域の活性化
 8 地球温暖化対策の推進
 9 自立した外交で、世界に貢献
10 憲法

2010年3月21日日曜日

自民党は今何をなすべきか③

 民主党鳩山内閣の支持率の低下が止まらない。また、それに輪をかけて自民党の崩壊が急速に進んでいる。党内改革を責任者を決め、広報戦略を明確にして、待ったなしで進めていかなければならない。
「自民党は今何をなすべきか②」(1月25日)で明示した党内改革

 派閥・長老的政治の打破
 年功議員は党幹部職として政策立案サイドへの転進か引退
 世襲の弊害の打破(親族の地盤は直接には継げない仕組み)
 民間・官僚との交流の活性化と登用
 政権構想ネットワークの構築
 党員拡大のKPIの設定
 政党助成金の効率的な活用
 政調会の所属ローテーションの活性化・部会再構成・戦略スタッフの外部化
 広報戦略の再定義(訴求するターゲット別支持拡大策の策定)

 これをさらに実効的に進めるために、「影の内閣」制度に基づいた次世代布陣を明確にし、この中で、若手議員(落選した浪人元議員)の発言機会の確保と政策研究の深化を図っていく。

 特に民主党の政策や法案については、何でも反対ではなくて、対案となる考え方の提示、よりよい政策実現となるよう法案修正へ働きかけなど、国民に担政力・政策実現能力をアピールしなければならない。

 鳩山邦夫元総務相の離党騒ぎは、これ自体を非難・批判するのではなく、自民党崩壊の警鐘として上記のような自浄のプロセスのきっかけとなるよう、谷垣総裁は大きな意思決定を早急に行う必要があり、そのための党執行部の人事を断行すべきである。河野太郎議員の登用など最もわかりやすいメッセージとなる。

2010年3月5日金曜日

外国人参政権問題の論点

 民主党マニュフェストへの盛り込みが見送られた「外国人参政権に係る法案」が民主党主導で今国会審議にかけられるところだった。鳩山首相・小沢幹事長の政治資金問題による支持率の低下や連立与党である国民新党の亀井代表の明確な反対もあり、今般の通常国会への上程は見送られることとなったが、今後引き続いた論争となることも想定されるため、論点をまとめておくこととしたい。

 この問題はつまるところ、韓国・北朝鮮との戦後処理問題と同根である。国民的コンセンサス形成不在の中で、民主党が多数を恃みに拙速にすすめる進め方自体が信頼感を損なう結果になっている。また、国家のあり方を論じる高邁な論客もいる一方で、差別的感情論の発露に終始する混迷の論客もおり、収集がつかない状況となっている。国政と地方との参政権の区分、参政権を選挙権と被選挙権の区分なくいっしょくたにし、何でも反対(何でも賛成)となっているように見受けられる。

-ポイントと考え方

 ○外国人の定義と範囲:特別永住者および別途定める要件(滞在期間・語学・資産・職業等)に適合した者として極めて限定的にとらえる必要
 ○相互主義:相互主義対象国については人口規模や制約条件の彼我の差はあるが、前提として必要
 ○プロセス:自動的に付与するのではなく、申請・登録手続きとその受理においてGood Citizen条項による審査や日本人からの推薦を条件
 ○参政権の範囲:国政への参政権(選挙権・被選挙権)については、外交・財政・防衛等の高度な判断は国民に帰属し、帰化を前提に考えるべきで当面凍結。地方への参政権は選挙権をまず開放する一方、被選挙権については選挙権の行使の状況などの経過を参考にしながら今後の検討とし、当面凍結
 ○選挙権剥奪の定義:刑法違反の犯罪行為、一定の過料以上の処分を受ける場合などを定める
 ○帰化の条件緩和:一定期間以上継続して地方参政権を行使した実績をもって帰化の条件を緩和するなどの仕組を別途検討

-その根拠

 ○「開かれた国家」観の提示
 ○相互主義の義務的手当と今後の相互主義対象国の拡大
 ○良質の外国人の流入促進による今後の総人口減少への手当
 ○友好国家群の醸成と外国からの軍事的攻撃を緩衝する国防上の措置
 ○危惧される内国政治干渉についても地方の選挙権に限定することで大きな影響を回避

○外国人の定義

 ・特別永住者
 1991年(平成3年)11月1日、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(入管特例法)の施行により、戦前(1945年 9月2日以前)から引き続き日本に居住している平和条約国籍離脱者(韓国・朝鮮人及び台湾人)とそれらの人たちの子孫を対象に定められた在留の資格で、ほとんど制限がなく日本に永住できる。また、特別永住者の子孫も、日本で出生し、所定の手続をした場合は特別永住者となる。慣例的に「特別永住権」と呼ばれることがあるが法的に権利ではない。平成20年(2008年)の特別永住者の実数は、前年より9924人減少し42万305人である。国籍別では「韓国・朝鮮」が41万6309人で99%を占める。大阪・兵庫・京都の近畿3府県に約45%が集中する。

 日本から一時的に出国して戻ってくる場合に必要となる再入国許可の有効期間が4年間(事情によっては1年間延長可能で計5年。特別永住者以外の在留外国人は最長で3年間プラス1年の計4年)となり、この期間を通して日本国外に滞在でき、数次有効の再入国許可を取得すれば何回でも出入国できる。ただし、この有効期間内に再入国しないと、特別永住者の資格が直近の出国時に溯って消滅する。退去強制事由も4項目に限定(特別永住者以外の外国人は24項目)され、たとえば7年超(前同1年超)の懲役または禁錮に処せられた者で法務大臣が認定した者などと緩和されている。

 ・一般永住者
 一定の要件を満たして永住許可申請をし、許可され、日本国に永住している外国人のこと。平成20年(2008年)末現在で492,056人。国籍別では中国[台湾]が142,469人(29.0%)、ブラジルが110,267人(22.4%)、フィリピンが75,806人(15.4%)、韓国・朝鮮が53,106人(10.8%)、ペルーが29,976人(6.1%)、タイが12,519人(2.5%)、米国が11,814人(2.4%)などとなっている。近年は年10%以上の急速な拡大を見せている。平成19年(2007年)末に初めて特別永住者の数を上回った。特別永住者は韓国・朝鮮が99%を占めるのに対し、一般永住者は中国[台湾]・ブラジル・フィリピンの上位3国で3分の2を占める。

 永住の在留資格等を持ち日本に定着居住している外国人(在日韓国・朝鮮人、在日中国人、在日台湾人、日系ブラジル人、在日フィリピン人、在日ペルー人等)を「在日外国人」(英:resident aliens)と言う。短期滞在者(在日米軍関係者、在留資格を持たない者を含む)を「来日外国人」(英:visiting aliens)と言う。

○在留外国人の現状

 日本は海外移民受入による人口増効果は他国と比べ非常に小さいが、それでも外国人登録者数の推移を見ると、外国人は1991年末の122万人から2008年末の222万人へと17年間で8割増加している。特に90年代末からの増勢が目立っている。(データは法務省の登録外国人統計)

長期的には、1980年代後半からの増勢が目立っている。それまでの在日韓国・朝鮮人が60万人でほぼ一定という状況から、1980年代後半以降、中国人、ブラジル人、フィリピン人など多国籍化が進むという変化が顕著である。

 国籍(出身地)別には、特別永住者が多数を占める韓国・朝鮮人は従来外国人のほとんどを占めていたが近年は高齢化とともに減少を続けている。他方、中国人、ブラジル人、フィリピン人、ペルー人が17年間で2.3~3.8倍と大きく増加している。増加数規模では中国人の増加が同期間に48.4万人増と全体の増加数99.9万人の48%と半分近くを占めており特に目立っている。2007年末以降にはついに中国人が韓国・朝鮮人を上回った。

 韓国・朝鮮人でも特別永住者以外は増加している。韓国・朝鮮人特別永住者は1996年末の55万人から2008年末の42万人へと13万人の減であるが、特別永住者以外は同時期に11万人から17万人へと6万人の増である。

 ニューカマーと呼ばれるブラジル、ペルーなどの日系南米人は、1990年の入管法改正により新たに国内での求職、就労、転職に制限のない「定住者」資格が付与され、自動車産業の下請企業、業務請負業者等に雇用され急増するようになったものである。なお、2008年末には世界経済危機に伴う自動車産業の低迷で帰国した者も多くブラジル人はむしろ減少している。

 国勢調査では国籍別人口について産業別就業者数、失業者数を集計している。これを見ると、ブラジル人は製造業就業比率が6割以上と高く、失業率も4%台と相対的に低く、3次産業就業者が多く失業率も日本人並みに高い中国人、フィリピン人とは対照的となっている。また、韓国・朝鮮人は失業率が11%以上と日本人より高く、米国人、英国人はビジネス派遣や在日米軍関係が多いと見られ失業率も3~4%と非常に低い。このように、外国人は国籍別に日本経済における位置づけが大きく異なっている。
図録:外国人登録者数の推移
○外国人入国者及び登録者数

 主要五カ国の1998-2006年の国籍別外国人登録者数の推移

法務省入国管理局の統計によると、2008年(平成20年)の外国人入国者数は、世界的な不況の影響で、2007年比0.1%減の914万6108人となった。 2008年末現在の外国人登録者数は、中・長期的に生活を送る者が増加し、2007年比3.0%増の221万7426人、総人口に占める割合も1.74%で過去最高を更新した。

 2009年(平成21年)1月1日現在の不法残留者数は、入国審査の厳格化、関係機関との密接な連携による入管法違反外国人の集中摘発の実施等総合的な不法滞在者対策により、前年比24.5%減の11万3072人となった。過去最高であった1993年(平成5年)5月1日現在の29万8646人から一貫して減少している。不法滞在者の21.4%が韓国人であり、毎年最も多い不法滞在外国人となっている。

2008年末現在の日本における国籍別外国人登録者数

国籍     人数    構成比

中国     655,377  29.6%
韓国・朝鮮 589,239  26.6%
ブラジル   312,582  14.1%
フィリピン  210,617   9.5%
ペルー     59,723   2.7%
米国       52,683   2.4%
その他    337,205   15.2%

合計     2,217,426   100%


2008年末現在の日本における外国人の在留資格

在留の資格   人数   構成比

一般永住者  492,056   22.2%
特別永住者  420,305   19.0%
定住者     258,498   11.7%
日本人の配偶者等 245,497 11.1%
留学       138,514   6.2%
その他      662,556   29.8%

合計      2,217,426   100%

○外国人参政権について各国の現状

 外国人に対して、出身国籍を問わず国内全体で地方自治の選挙権を与えている国は、現在24ヶ国(/世界の独立国203ヶ国)ある。これらの国々も国籍や滞在期間、在留資格、年収などの要件で参政権を与える外国人を制限している。国家基本問題研究所によれば、外国人に参政権を認めている国は、長期間外国人労働者を誘引する政策を採用していたなどの特別な理由のある場合のみである。

 ヨーロッパ各国が外国人地方参政権の付与に積極的に見えるのは、欧州連合という枠組みにおいて、国家間の政策や協力により一致結束して実行するという目的が背景にある。ヨーロッパのうち、フランス、ドイツ、イタリア、オーストリア、チェコ、ギリシャの6カ国では、付与対象者の国籍をEU加盟国に限っている。その他、EU加盟国、英連邦加盟国同士や、近隣国の間で国籍を限定した外国人参政権を認めた国がある。また、限られた地方自治体の中で外国人参政権を認めている国もある。それらを合計しても外国人参政権を認めている国は39ヶ国で、外国人参政権を認めていない国の方が多い。

・日本

 日本は日本国憲法の、第15条第1項で「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」、第43条第1項で「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」としており、現状で外国人参政権は国政も地方も認められていない。しかし2009年、外国人参政権推進派の多い民主党が与党となり、推進派は地方参政権を付与する法案の提出を目指して活動を活発化させている。

・韓国

 韓国では一部の外国人にも地方参政権を付与している。なお2005年7月の済州道における住民投票が、永住権者の参政権を認める初の例となった。在日韓国人参政権要求に関する相互主義

• 韓国は、相互主義として在日韓国人への参政権の付与を日本に対して求めている。これに対しては、「そもそも在韓日本人で参政権を得ている者は数十人であるにもかかわらず、日本で対象となる在日韓国人は数十万人もいて、決して相互主義が成立する条件に無い」とする長崎県議会意見書や、「韓国では参政権付与の前提として永住権取得が義務付けられており、永住権取得には日本円にして2億円以上の投資や相当の高年収を得ている必要があるなど条件が極めて高く、とても相互互恵とはいえない」とする見解や、韓国で永住が認められるのは主として韓国人の配偶者やその子弟であること、日韓双方の対象人口の大きな隔たりなどを指摘したうえで互恵主義が成立する条件が欠如しているとする見解がある。

• また、日本では在日本大韓民国民団が外国人参政権を獲得するためとして、外国人参政権付与を民団に約束した政党を支援する選挙活動を行っているが、韓国では外国人が選挙運動に参加した場合は3年以下の懲役刑が科せられることとなっている。

・北朝鮮

 北朝鮮は外国人に参政権を付与していない。朝鮮新報は「参政権付与が安易に時代の流れと言えないことは明白だ。」としている

・中国

 中国は外国人に参政権を付与していない。

・フランス

 フランス(EU加盟国)は、EU国民に限って地方参政権の付与を認めている。過去の憲法においては、外国人地方参政権の付与が認められなかったが、EU他国との相互主義を前提としてEU国民に地方参政権を付与できるように憲法を改正してきたが、2010年1月13日、フランス政府リュック・シャテル(Luc Chatel)報道官は、最大野党の社会党が、EU国民以外に対する外国人地方参政権法案を提出する動きを示したことについて、「論外」とフランス政府の公式見解として表明し、一般外国人の参政権を認めないことを明らかにした

・ドイツ

 ドイツ(EU加盟国)は、EU他国との相互主義を前提としてEU国民に限って地方参政権の付与を認めている。EU成立以前、ドイツ憲法では、外国人の参政権は認めていなかった。1989年、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州が相互主義を前提とした外国人地方参政権を付与した件が憲法訴訟に発展した。1990年、ドイツの連邦憲法裁判所はこの州法を違憲とする判決を出している。ドイツは「ヨーロッパ連合条約の批准」という要請があったため、1990年に憲法を改正し、EU加盟国国民に地方参政権を認めた。

・オランダ

 オランダ(EU加盟国)は、ロッテルダムにおける1979年の地方選挙で外国人参政権を認めた。この動きは1985年までに全国に拡がることとなった。なお西尾幹二は「オランダではEU域外の外国人へ地方参政権付与を行ったために外国人が都市部に集中して移住し、オランダ人の立ち入れない別国家のようなものが形成され、オランダの文化や生活習慣を祖国流に変革しようとする動きが、内乱に近い状態を生み出している」とする見解を述べている。

○国政参政権と地方参政権

国政レベルの被選挙権(立候補権) :イギリスが英連邦国民に認める1例のみで、国籍を問わず与える国は存在しない。

国政レベルの選挙権(投票権) :特定の国籍に限り与える国が7ヶ国あり、国籍を問わず与える国が4ヶ国ある。

地方レベルの被選挙権(立候補権)  :特定の国籍に限り与える国が11ヶ国あり、国籍を問わず与える国が14ヶ国ある。

地方レベルの選挙権(投票権)   :特定の国籍に限り与える国が13ヶ国あり、国籍を問わず与える国が26ヶ国ある。

 ・外国人参政権を与えている国家

• EU(欧州連合):アイルランド、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ハンガリー、スロバキア、スロベニア、リトアニア、エストニア

• EU非加盟:ノルウェー、アイスランド、ロシア

• イギリス連邦:ニュージーランド

• 北米・南米:チリ、ウルグアイ、ベネズエラ

• その他:韓国、イスラエル、マラウイ

韓国における参政権の制約条件

国政 選挙権:×  被選挙権:× 地方 選挙権:○  被選挙権:×
全ての国 を対象  永住資格取得後3年以上が経過した19歳以上の外国人。永住資格(F-5)取得には次のいずれかの条件を満たすことが必要。

1. 200万ドル以上を投資した外国人投資家として、韓国国民を5人以上雇った外国人。
2. 50万ドル以上を投資した外国人で、企業投資(D-8)の資格で、3年以上韓国国内に継続して滞在しながら、韓国国民を3人以上を雇った外国人。
3. 法務部長官が定める先端技術分野の博士学位証明書を所持する者で、永住(F-5)の資格申請時に韓国内企業に雇用され、法務部長官が定める金額(韓国の国民一人当たりGNIの4倍)以上の賃金を受ける外国人。
4. 法務部長官が定める先端技術分野の学士号以上の学位証明書、または法務部長官が定める先端技術資格を所持する者であって、韓国滞在期間が3年以上で、永住(F-5)の資格申請時に韓国国内企業に雇用され、法務部長官が定める金額(韓国の国民一人当たりGNIの4倍)以上の賃金を受ける外国人。
5. 科学分野で、一定の論文引用頻度や受賞歴があり、科学技術部長官の推薦を受けた外国人。
6. 経営分野で、常時勤労者数300人以上、及び資本金80億ウォンを超過する内外企業の常勤理事や相談職を勤めている者で、大韓商工会議所長、大韓貿易投資振興公社長または全国経済人連合会長の推薦を受けた外国人。または、世界有数の経済誌(FORTUNE等)が選定した最近3年以内の世界トップ500企業で、店長や経営幹部として1年以上勤務した経歴を持っている者のうち、韓国国内の支社などで役員として勤務している外国人。
7. 教育分野で、論文の引用程度、又は研究実績によって、教育部長官の推薦を受けた外国人。
8. 文化芸術分野で、国際的に名声のある芸術家、監督、声楽家等として、文化観光部長官の推薦を受けた者 。
9. 体育分野で、オリンピック、世界選手権大会、アジア競技大会、またはこれと同等な水準の大会で、銅メダル以上の賞を受賞した選手と、その指導者の外国人、ワールドカップサッカー大会で16位以上の成績をおさめた選手と、その指導者のうち、文化観光部長官の推薦を受けた外国人。
10. 勲章などを受けた韓国の独立や発展に特別に功労があった者で、法務部長官が認める外国人。
11. 聖職者でとして社会福祉活動に顕著に貢献し、韓国に特別な貢献があると法務部長官が認める外国人。
12. 韓国国外からの年金を受ける60歳以上の者であって、年間の年金額が法務部長官が定める金額(韓国の国民一人当たりGNIの2倍)を超える外国人。
13. 大韓民国民法によって成人で、本人または同伴の家族が生活を維持する能力があり、素行に問題がなく、韓国に継続居住するのに必要な基本的な素養を備えるなど、法務部長官が定める条件を満たした者で、駐在(D-7)、企業投資(D-8)、貿易経営(D-9)、教授(E-1)、会話指導(E-2)、研究(E-3)、技術指導(E-4)、専門職業(E-5)、特定活動(E-7)、居住(F-2)の資格で、5年以上韓国に滞在している外国人。
14. 永住(F-5)の資格を持つ者の配偶者や未成年の子供として、韓国に2年以上滞在している者であって、韓国に必要があると認められる外国人。

○推進の動き

 在日韓国・朝鮮人など「永住外国人に地方選挙権を付与する法案」を通常国会で提出し、実現させることを目的として在日韓国人をはじめとする永住外国人住民の法的地位向上を推進する議員連盟が、2008年1月に設置された。会長は、岡田克也外相。衆参議員65人(衆院29人、参院36人)が参加している。

 民主党は、外国人地方参政権付与法案を1998年、2000年に提出していたが、いずれも廃案となっていた。しかし、2006年に韓国が永住外国人の地方選挙権を認めたことから、白真勲、川上義博、津村啓介、千葉景子らは「相互主義の観点からも、これ以上放置できない」として民主党内で呼びかけ、この議員連盟が発足した。
 また、外国人地方参政権付与は自民党が慎重であり、逆に公明党が強く求めていることから「参院に民主党が法案を提出し、公明党に賛成を呼びかければ、与党の分断を図ることができる」ともしている。しかし、民主党内の保守派議員からは「憲法上も、国のあり方という観点からも、絶対に認められない」し、「逆に党内に亀裂が生じるのではないか」という批判も出ている。
 岡田外相は、2008年1月30日の初会合にて「この外国人地方参政権問題は、民主党としては長年の政策であり、悲願でもあった。私も政策責任者だったおりに、この法案を何度か国会に提出しながら、実現しないことに責任を感じてきた。党として、しっかり法案提出に持って行く。それがこの議連の役割だ。多様な価値観を認める日本の象徴が、この法案だ。」と語っている。
 小沢幹事長は、2008年2月の訪韓の際に、李明博大統領から「在日本大韓民国民団(民団)からの要望」もあり、地方参政権付与の協力を求められ、「在日韓国人への参政権付与を与えるのがもたもたしているのは遺憾に思っている」と成立に強い意欲を示し、2008年12月には民団が民主党の支援を表明し、小沢はそれに謝意を伝えている。
 2009年4月には、櫻井よしこを勉強会に招き、櫻井から参政権付与には帰化をさせるべきと意見され、参加した一部の議員からは「極めて共鳴した」(蓮舫)、「おおむね私の認識と同じだ」(牧義夫)と共感された一方、議連会長の岡田克也は「『選挙権を得たければ国籍を捨てろ』といわれたら許せない」などと主張し、意見を受け入れることはなかった。
 2008年5月、同議員連盟は「永住外国人への地方選挙権付与に関する提言」をまとめている。この中では、(1)対象者を「特別永住者」のみならず「一般永住者」まで拡大すること(ただし国交のない北朝鮮国籍者を除く)、(2)「相互主義」を前提とせずに外国人参政権を与えるつもりであること、(3)対象選挙を「地方選挙権」に限ること(直接請求権・公務就任権は今後必要に応じて検討)、(4)「申請主義」を採用し、要件として20歳以上で3ヶ月以上居住していること、等まとめている。 (この提言が現在の民主党案の草案として想定されているものである)

 一方、北朝鮮系と言われる朝鮮総連は、一貫して在日朝鮮人の選挙権付与には強硬に反対している。

○なぜ帰化ではないのか

 ・経済的・家庭的な理由で結果的に長期に亘る滞在となっただけでもともと帰化の意図は無い
 ・母国への愛国心や先輩世代からの批判、プレッシャーがあり、帰化に後ろ向き
 ・帰化のメリットが明確でない(不自由はない)

○なぜ参政権付与を拒否するか

 ・参政権とは国内の政治に影響力を行使するための権利であり、外国人に参政権を認めるということは、この内政干渉を合理化することにつながる
 ・国政はもちろん、地方自治体の政治も内政の一部である
 ・税金は道路、医療、消防、警察などの公共サービスの対価であり、参政権とは関係ない(もし、税金によって参政権が与えられるなら、逆に言えば学生や主婦、老人など、税金を払っていない人は参政権が剥奪される)
 ・在日韓国人・朝鮮人は祖先が強制的に連れてこられた経緯はあるにせよが、在日の方々は100%自分の意思で日本に居住している人々で、彼らに対して帰国を制限していない
 ・外国人に参政権を与えるとなれば、それは外交問題であり、日本だけの都合では取り返しがつかない
 ・国籍を与えないで参政権を与えることは、国際的な意味での日本のイメージの悪化にもつながる可能性がある

○参政権を付与・剥奪する条件等

 ・当該地方自治体に連続した一定の期間滞在
 ・日常的に利用する日本語能力
 ・Good Citizen条項
  無犯罪
  納税実態
  公安要素(スパイ防止法)
  申請および推薦・身元保証
  Bad Citizen判定は他自治体でも適用

○想定される影響や問題

 ・不法滞在、外国人犯罪
 ・文化の違いによるトラブル - 例えば、銭湯の入場拒否事件
 ・外国人学校の学費が高く、子供をお目当ての学校に通わせられず不就学になってしまう
 ・派遣切りなどで出稼ぎ者が職場をクビになり、再就職先も見つからず 
 ・犯罪の温床
 ・政治団体的な他国の国益の追求とわが国へのネガティブ反応

2010年3月1日月曜日

法案国会提出と閣議決定について

 外国人参政権に係る法案の国会提出が見送られることになった。かねてより亀井静香国民新党代表、金融・郵政改革担当相が党として、また、政治家個人として反対するとしていたため、法案提出に関する閣議決定のプロセスにおいて、事と次第によっては内閣不一致という事態となり、亀井大臣が「更迭」された上で他の国務大臣が後任として兼務し、当案件を閣議決定するというシナリオも無いわけではなった。
 その場合、国民に連立政権の担政能力の著しい欠如を露呈することになり、結局は「誰も得しない」結果となったであろう。一方、自民党も国会の場で審議する十分な用意と毅然としたポリシーも無く、単に民主党政権の問題にとどまらず、国家・国民主権に関わる大問題に発展していたことも想定される。今回は、そのような事態に陥らなかったことをよしとし、「閣議」について各種資料をもとにまとめることとする。(また、外国人参政権の問題については別途、論考することとする。)

○閣議とは(定義)

 閣議とは、内閣法によって、内閣が職権を行使するときに開催が義務づけられている、内閣総理大臣と国務大臣全員による会議のこと。内閣は、合議体であって、内閣の意思は国務大臣が閣議によって決めることを原則としている。(内閣法第4条で規定されたものだが、会議の手続きについては定めがなく、慣行によっている。)

○開催要項

 閣議には毎週火曜日と金曜日の午前中に開かれる「定例閣議」と、必要に応じて開く「臨時閣議」があり、原則として全閣僚が総理大臣官邸閣議室(国会期間中は国会内の閣議室)に集まって行われる。しかし、早急な処理を要する案件の場合には内閣参事官が閣議書を持ち回ってそれぞれの閣僚の署名を集めることにより意思決定とする場合がある。これを「持ち回り閣議」という。閣議は非公開(秘密会)が原則である。
 閣議は、総理大臣が主宰するが、実際の司会・進行は内閣官房長官が行う。 国務大臣が海外出張する時には、当該大臣の臨時代理が前もって決められる。
 閣議は円形のテーブル(*)で行われ、席次は省庁の設置順である。閣議の結論は、内閣官房長官を通じて外部に報告される。意思決定には参加できないが、内閣官房副長官と内閣法制局長官が陪席することになっている。

 (*)現在は首相官邸公式サイトに新・旧両首相官邸の閣議室の写真が掲載されている。現在の首相官邸閣議室は広さ約110平方メートルで、直径5.2メートルの円形テーブルが置かれており、通常は閣僚がこのテーブルを取り囲むように着席する(陪席の内閣官房副長官・内閣法制局長官は別テーブル)

○提出される案件種別

・一般案件(国政に関する基本的事項で、内閣としての意思決定が必要であるもの)
・国会提出案件(法律に基づき内閣が国会に提出・報告するもの)質問主意書に対する答弁書なども含む。
・法律・条約の公布
・法律案の決定
・政令の決定
・報告(国政に関する調査、審議会答申などを閣議に報告する)
・配布(閣議の席上に資料を配付する)

○決定事項の種別

 明確な根拠法に基づくものでなく、案件の重要性に応じた分類と慣習的に考えられている。閣議決定、閣議了解、閣議報告として処理され、どのような案件をどの決定形式にするかの規則が作られているわけではない。閣議の意思決定には「閣議決定」、「閣議了解」の2つがある。内閣としての意思決定を「閣議決定」、本来は主務大臣の管轄事項だが、その重要性から閣議に付された案件に対する同意としての意思決定を「閣議了解」と区別するが、その効力に差があるわけではない。

・閣議決定: 合議体である内閣の意思決定。閣議における案件処理のなかでは、最も重みを持つ。
・閣議了解: 本来主任大臣の権限に属する事項について、それらの事項の重要性を考慮したうえで、閣議に提出して他の国務大臣の意向も聞くことが適当と判断されたものについて行われる。
・閣議報告: 主要な審議会の答申や省庁の白書等を閣議で披露するような場合に行われる。

○閣議決定と文書の流れ
 
 憲法または法令に定められた、法律案・政令・予算など内閣の職務権限として明示された事項および他の重要な事項について行われる内閣の全員一致(*)による意思決定。もし、反対の意志を曲げない大臣がいた場合は、内閣総理大臣は閣議での議決を断念するか、その大臣をその場で罷免するかを選択しなければならない。

(1) 各省で特定の案件を閣議に提出することを求める閣議請議の文書を起案し、大臣が決裁し、内閣官房に送付する。
(2) 内閣官房(内閣書記官室)で送付された文書の案について国務大臣の署名欄のある用紙(閣議書)で起案し、閣議の席上で各国務大臣の署名(花押)を求める。
(3) 内閣官房(内閣書記官室)は、決定された内容について閣議を求めた省に通知し、政府の方針の決定のようなものであれば関係機関にも通知の書面を送る。

(*) 内閣が、「行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う」(内閣法第1条第2項)ことに基づく。)

○その他

 定例閣議は各省庁から上がってきた書類への署名に精一杯なのが現状。閣議終了後、閣議で取り上げられなかった議題や国政の議論を「閣僚懇談会」などを設けて自由討論したり、情報交換を行ったりすることもある。閣議及び閣僚懇談会には、公式的な議事録はない。記録を残すと、外に出た場合、閣内不一致を指摘される恐れがあるからである。
 首相が入院したために、閣議を主催できない状態で首相臨時代理を指定しないまま定例閣議の時間を迎えた安倍内閣末期の場合、定例閣議に代わる閣僚懇談会が閣議進行役の内閣官房長官が主導する形で行われ、全閣僚が閣議書に署名した後で首相が入院先の病院で決裁する「持ち回り閣議」の手法をとっていた。
 鳩山由紀夫内閣の平野博文官房長官は、2009年12月1日の記者会見で、「閣僚間の忌憚ない意見交換ができる場だから作成していない」、「かならず記者会見などを行うことで透明性は確保される」と理由を述べ、公式的な議事録は今後も作成する予定はないとしている。
 また、閣議の効力についても、法律等の国会決議そのものではないので、国民の理解を得て世論が変われば、決定内容も絶対的なものとはいえない。

(首相官邸HP 閣議)
http://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/1-2-5.html

(首相官邸HP 閣議案件)
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/index.html

(kotobank.jp 新藤宗幸千葉大学法経学部教授 )
http://kotobank.jp/word/%E9%96%A3%E8%AD%B0

(北海道医師連盟 常任執行委員 中川俊男氏)
http://www.doiren.jp/key_kakugikettei.html

(wikipedia 閣議)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A3%E8%AD%B0

2010年2月28日日曜日

Ⅲ 平成22年度予算について

 野党自民党の国会戦術の失敗と予算委員会審議への復帰により、週明けにも予算委員会での審議は終結し、平成22年度予算の衆議院本会議での可決、参議院への送付される見通しとなった。3月2日まで衆議院を通過すると、憲法の規定により、参議院で議決が行われなくても年度内に自然成立することとなる。なお、参議院で衆議院と異なった議決をした場合、衆議院は両院協議会を求めなければならないが、協議が成立しないときは、衆議院の議決が国会の議決とされることとなっている。

1.今年度の予算の編成・審議過程

 ・財政制度等審議会 財政制度分科会 建議(平成21年6月3日)
  -平成22年度予算編成の基本的考え方について
 ・概算予算基準閣僚会議了解(平成21年7月1日)
  -平成22年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について(閣議了解)
  -平成22年度一般歳出の概算要求基準の考え方
  -平成22年度概算要求概算要求のポイント
 ・平成22年度予算編成の方針閣議決定(平成21年9月29日)
  -平成22年度予算編成の方針について(閣議決定)
 ・各省庁の予算要求(概算要求)(平成21年10月15日)
  -マニュフェスト(「三党連立政権合意」を含む)を踏まえた平成22年度一般会計概算要求額(平成21年10月16日)
  -各府省の概算要求書及び政策評価調書(平成21年11月26日)
   1.概算要求の概要等
   2.概算要求書
    (1)一般会計
    (2)特別会計
   3.政策評価調書
  -平成22年度予算編成上の主な個別論点
 ・政府案閣議決定(平成21年12月25日)
  -平成22年度一般会計歳入歳出概算
 ・平成22年度一般会計歳入歳出概算の変更について(閣議決定)(平成22年1月22日)
  -平成22年度一般会計歳入歳出概算の変更について
 ・政府案国会提出(平成22年1月22日)
  -平成22年度予算書の情報
  -平成22年度予算政府案 
    
2.平成22年度予算のポイント

 ○平成22年度 一般会計予算フレーム
  「いのちを守る予算」3つの変革
  ・コンクリートから人へ
  ・政治主導の徹底
  ・予算編成プロセスン透明化

       21年度予算    22年度予算    差
(歳入)

 税収    46.1兆      37.4兆   ▲ 8.7兆
 その他収入 9.2兆      10.6兆     1.4兆
    
 公債金   33.3兆      44.3兆    11.0兆

 計      88.5兆      92.3兆    3.8兆

(歳出)

 国債費等   20.2兆      20.6兆    0.4兆
 
 地方交付税等16.6兆      17.4兆    0.9兆

 一般歳出   51.7兆      53.4兆    1.7兆
 
 調整資金繰戻          0.7兆    0.7兆

 計      88.5兆      92.3兆    3.8兆   

 ○主要経費の分類による予算の変化「コンクリートから人へ」

            21年度予算  22年度予算  差  伸率
 社会保障関係費   24.8兆    27.3兆  2.4兆 9.8%
 文教及び科学振興費  5.3兆     5.5兆  0.3兆 5.2%

 公共事業関係費    7.1兆     5.8兆  ▲1.3兆 ▲18.3%

 地方交付税交付金等 16.6兆    17.5兆  0.9兆 5.5%

 ○平成22年度 一般会計の歳出の構成

        21年度当初 %  22年度予算 %          
 一般歳出     51.7兆 58.4%  53.5兆 57.9%
  社会保障     24.8  28.0   27.3  29.5
  公共事業       7.1   8.0    5.8   6.3
  文教科学振興  5.3   6.0    5.6   6.1
  防衛           4.8   5.4    4.8   5.2
  その他        9.7   11.0   10.0   10.9
 地交税交付金等 16.6兆 18.7%  17.5兆  18.9%
 国債費       20.2兆 22.9%  20.6兆  22.4%

 ○マニュフェスト工程表の主要事項について
 
 -子ども手当 子供一人当たり月額13,000円(所得制限なし、児童手当法範囲で地方負担)
 -高校の実質無償化 公立高校(完全無料)私立高校(年額12万円助成)低所得上乗せ規定
 -年金記録 被保険者名簿等の紙台帳の精査 インターネット閲覧
 -医師不足解消 診療報酬本体の大幅プラス改定 急性期入院医療の医療費増額 救急・産科・小児・外科に重点
 -農業の戸別所得補償 モデル事業の定額部分の補償交付単価1.5万円/10a 変動部分を措置
 -暫定税率 当分の間維持
 -高速道路の無料化 社会実験を実施 段階的に進める
 -雇用対策 雇用保険の適用範囲を緩和

 ○マニュフェスト工程表の主要事項の財源確保
 
 -子ども手当        1.7兆
 -農業の戸別所得補償  0.6兆
 -高校の実質無償化   0.4兆
 -暫定税率        0.2兆
 -高速道路の無料化   0.1兆
 -年金記録         0.1兆
 -雇用対策         0.0兆(170億)
 計            3.1兆

 (行政刷新会議における事業仕分け等を通じて予算の全面的な組み替え実施)
 -事業仕分け評価反映  1.0兆
 -公益法人基金返納   1.0兆
 -要求段階での削減   1.3兆
 計            3.3兆

 ○税外収入について
 
   19年度当初  20年度当初  21年度当初  22年度当初
    4.0兆    4.2兆    9.2兆     10.6兆(過去最大)
 
 財投特会       4.8兆 
 外為特会       2.9兆
 その他        0.2兆
 
 公益法人基金返納   1.0兆
      
 ○平成22年度 我が国の財政事情
 
 (フロー)
 公債依存度      48.0%
 プライマリバランス▲ 23.7兆
   
 (ストック)
 公債残高     637兆(GDP比 134%)
 公的長期債務残高 862兆(GDP比 181%)     

3.課題

 民主党政権に移行し、予算策定のプロセスに事業仕分けなど新たな仕組みが導入されたことは一定の評価ができるが、このままでは構造的問題が解決されるばかりか、ますます国家財政が悪化し、国民社会生活に極めて深刻な悪影響を与える可能性が高まっている。その解決のために課題への対応策を明確にし、景気動向などを勘案しながら中長期のフレームワークの中で、具体的で実現可能と思われる目標値を設定し、今年度からでも補正予算も含めて施行していく必要がある。

 ○財政規律の方法論および方向性にかかるコンセンサスの形成
  成長戦略 
  消費税引き上げ
  年金保険料の引き上げ
  マニュフェスト実施優先順位および見直し

 ○予算策定プロセスのさらなる効率化
  事業仕分けの戦略的変更(範囲拡大・効果優先順位)
  結果検証の仕組みビルトイン
 
 ○新たな財源の確保
  政府資産や政府保有株の売り出し・民営化
  消費税引き上げ
  年金給付金引き下げ
  特別会計の抜本的な見直し・一般会計との整合性確保
  公務員制度改革によるスリム化・活性化
  議員定数の削減等政治の仕組みのスリム化

2010年2月25日木曜日

Ⅱ 政権交代の意味と現状

 昨年8月の総選挙で民主党は政権交代の旗印のもと、細川政権などの一時を除いて戦後続いてきた自民党を「平成(無血)革命」により打ち破った。小泉政権での構造改革が成就しないままに安部・福田・麻生と続いた政権の投げ出し・たらいまわしや相次ぐ閣僚の不祥事や不適切な発言など、深刻の度を増す国民経済社会の状況そっちのけで政治茶番劇が続いたため国民の政治不信が高まり、折からの世界金融恐慌というかなり強めの外部要因も加わったことで歴史的な政権交代が実現した。これは、逆説として民主党が勝ったのではなく、自民党に国民が「NO」を突きつけたということでもある。

 民主党政権発足後、100日のハネムーン期間もとうに過ぎて政権交代の高揚感や期待感は沈静・後退、総選挙戦勝ユーフォリアも醒めている。6ヶ月経過した2月末のこのタイミングで、そもそもマニュフェストで掲げていた政策の現状のステイタスはどうか、それを実現するプロセスとして「政治主導」・「事業仕分け」とは何だったのか、また政治の本旨であり、政策を実現するための「予算」とそれを実現する「税制」はどのようなものであるのかを検証していきたい。今後、6月頃に最終取りまとめるとともに、成長戦略実行計画(工程表)が作成される予定である、昨年12月に公表された「新成長戦略の基本方針」についても是非についてコメントを加えることとする。

1.いきなり躓いた政治資金問題と初めての地方選・長崎知事選での敗退

 小沢民主党幹事長の政治資金規正法にかかる疑念(別稿:2月4日「小沢一郎」的政治業の限界と破綻 )と鳩山首相自身の政治献金問題で金権的自民党体質と本質的には差異がないことが印象として固定し、直近の民主党支持率の低下となっている。支持率60%以上から40%以下への急落スピードは政権交代後の実績がない現状では、かなりの恐怖感があってもしかるべきだが、自民党の支持率が上がっていないことで、「妙な安心感」を生んでいる。抜本的な党勢を回復するためには「小沢幹事長の辞職」あるのみと考える。

 また、2月21日の長崎知事選で民主党候補を応援する石井一選挙対策委員長をはじめとする露骨な利益誘導(*)がかえって足を引っ張り、自民党などが支援する候補が、民主党推薦候補に9万票差で圧勝する結果となってしまった。長崎は、民主党が比較的強い県として知られ、2009年8月の衆院選でも、風が吹いたとはいえ、4つの小選挙区すべてで同党候補が当選したが、「政治とカネ」の問題が解決していない中では、県民の反応も冷ややかなだった。今後の地方選でこの傾向が定着するようだと、7月の参議院選挙を控えて小沢辞任論が高まるのは必至の状況となるだろう。

(*) 21日付産経新聞によると、民主党の小沢一郎幹事長は、1月17日にあった同党長崎県連のパーティーで、「(推薦候補の)橋本剛君を知事に選んでいただければ自主財源となる交付金も皆さんの要望通りできます。高速道路をほしいなら造ることもできます」と話した。
2月22日放送のテレ朝系「スーパーモーニング」では、石井一選対委員長が1月29日の応援演説で、「時代と逆行するような選択をされるのなら、民主党政権は長崎に対してそれなりの姿勢を示すべき」と語ったと報じた。
2月22日付日経新聞によると、石井氏は、1月28日の決起大会で「島原には道路は造らんといかん」と訴えたという。さらに、前原誠司国交相も、島原で道路を視察し、同30日には「お金も権限も来る」と支援を呼びかけたと報じられている。

2.「政治主導」像の張りぼて加減・失敗のパターン

 ○功をあせりすぎた失敗

 政権奪取後の民主党の動きはすばやかった。特に前原誠司国交相はフットワーク軽く八ッ場ダムの建設工事の中止を通告しに現地入りし、他のダムサイトにもこまめに足を運んでいる。マニュフェスト至上主義の原理行動だった。また、前政権からの課題であった日本航空問題への対応も視界不良・操縦経験なしの状態で強行着陸を自ら設定した「タスクフォース」に委ね結論が出せず時間を浪費。ダッチロールの末なんとか着陸できる場所を見つけて胴体着陸を試み、機体炎上は回避したものの新パイロットの稲盛機長の手腕に頼っても離陸はかなり困難な状況に陥っている。取り込まれてしまうという恐れを官僚に対して持っている政治家は「政治主導」をいつまでも実現できない。官僚からは「子供大臣」と揶揄されておしまいになっている。

 ○連立与党の政治主導は同床異夢の失敗

 国民新党亀井代表(金融・郵政改革担当大臣)と社民党代表福島瑞穂(少子化対策・消費者行政担当大臣)はそれぞれの支持基盤と政治理念に基づき連立の中で埋没しないことに腐心しており、閣議における反対など閣内不一致となる火種がある。沖縄米軍基地移転問題(社民党の強硬な国外・県外移転主張)、外国人参政権問題(国民新党が反対)などの不協和音もあり、この2つの問題は前者が米国との合意の経緯の問題、後者が中国・韓国など民主党が「公約外公約」として利益誘導しようとする支持層への問題が根っこにある。3党合意は以下のようになっており、平常運転の場合は上記の2つの問題を除いては火種はないと思われるが、少数派連立与党のスタンドプレーや「貧者の論理」はみんな結果が平等という悪平等に陥り、望むべき結果に導かれないことが多い。

 -連立政権政策合意骨子(3党が2009年9月9日に合意)
 
 既得権益構造・官僚支配の自民党政治を根底から転換し、政策を根本から改める
 競争至上主義の経済政策をはじめとした自公政権の失政によって、国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安が増大し、社会保障・教育のセーフティーネットはほころびを露呈
 国民からの負託は、税金の無駄遣いを一掃し、国民生活を支援することを通じ、経済社会の安定と成長を促す政策の実施
 連立政権は、家計に対する支援を最重点と位置付け、国民の可処分所得を増やし、消費の拡大につなげる。
 中小企業、農業など地域経済基盤を強化し、年金・医療・介護など社会保障制度や雇用制度を信頼できる、持続可能な制度へと組み替える
 地球温暖化対策として、低炭素社会構築のための社会制度の改革、新産業の育成等を進め、雇用の確保を図る。こうした施策を展開する
 日本経済を内需主導の経済へと転換を図り、安定した経済成長を実現し、国民生活の立て直しを図る

 (1)速やかなインフルエンザ対策、災害対策、緊急雇用対策
 (2)消費税率の据え置き
 (3)郵政事業の抜本的見直し
 (4)子育て、仕事と家庭の両立への支援
 (5)年金・医療・介護など社会保障制度の充実
 (6)雇用対策の強化-労働者派遣法の抜本改正
 (7)地域の活性化
 (8)地球温暖化対策の推進
 (9)自立した外交で、世界に貢献
 (10)憲法

 (全文)http://bit.ly/9YPvKR

 ○過信による失敗

 上記の郵政事業の抜本的な見直しの一環で、ユニバーサルサービスを担保できる郵便局・持ち株会社と4分社の経営形態の見直しを図るために小泉郵政改革で登用された西川元総裁の事実上の更迭と斉藤元財務省次官を後任に指名した。公約である「脱・官僚支配」の真逆の方向性となる官僚中の官僚の元財務次官の登用となった。これは、亀井郵政改革担当大臣の主導による決定(小沢氏は斉藤氏の盟友として当然同意)によるが、旧大蔵省をやめて14年経過しているとして天下りではないと誰が賛成すると思っているのだろうか?
 2月21日の長崎知事選は、民主党が政権政党としての初の地方選に臨んみ、「政治と金」の問題を曖昧なままでスルーするばかりか、露骨な利益誘導的選挙戦略をとってしまった。政権与党の政治力を見せつければ、選挙民はひれ伏すとでも思っていたのだろうか?
 
 ○軽さ・不誠実による失敗

 普天間米軍基地移転をめぐる問題(別稿:1月18日「沖縄米軍基地移転問題について①」、1月30日「沖縄米軍基地移転問題について②」)については、同盟国代表であり、合意内容の再検討をめぐって鋭意交渉中である米国への対応の不誠実さである。一国の首相と一国の大統領が議論し、一定の合意を模索する中での「トラスト・ミー」という言葉は、いわば債券発行のようなものである。「My word is my bond」というロンドン・シティの金言があるが、一度口にした言葉やそれを誠実に実行する責任の重さは、地位が高くなればなるほど取り返しのつかない事態をまねくことがある。

 ○人を使わない失敗

 政治主導も立派な思いであるが、政務三役ですべての行政事務を取り決めていくということは不可能である。重要な問題間の優先順位の問題、想定していなかった突発事項への対処、時間が限られていることの対応など、トップダウンで指示命令し、担当セクションがそれを効率的に処理していかなければ、会社で言えば即倒産ということになってしまう。政治主導というコンセプトをはきちがえ、官僚を有効に使わないということであれば行政はストップ・無政府状態となり、官僚は強いられたサボタージュ・バカンスを享受することになるだろう。

3.民主党マニュフェストで盛られていた内容と現状

 ○ムダ削減 - 国の総予算207兆円を全面的に組み替える

八ッ場ダム中止など難航。事業仕分けなどの手法により予算策定プロセスをガラス張りというか衆人環視の下にさらした。2010年度の削減額は16.8兆円の腹算用が約1兆円にとどまった。

 ○天下り - 天下りあっせん禁止、公益法人は原則廃止

上記のように日本郵政社長のポストに元官僚を起用。独立行政法人役員の公募を始める。

 ○子育て支援 - 子ども手当、高校の無償化

10年度予算に子ども手当半額分(月額1万3000円)、高校の無償化を担保する所要額を計上。4月以上に実施へ。11年度は子ども手当も満額支給を前提に5兆4000億円が必要。

 ○年金 - 2年間記録問題に集中。月額7万円の最低保障年金を創設

記録問題はマニュフェストより予算削減。制度改革の議論は手つかず。ミスター年金とよばれた長妻厚生労働相も疲れ気味。
 
 ○暫定税率 - ガソリン税など暫定税率の廃止

10年度は廃止を見送り。温暖化対策税の創設を検討。

 ○農業支援 - 農業の個別所得保障

10年度予算で約6000億円を確保。コメを先行実施。11年度以降は漁業などに拡大し、最終的に1.4兆円規模の助成予算となる。

 ○高速道路の無料化

10年度予算は概算要求の6000億円から1000億円に削減。無料化対象も交通量の少ない地方に限定して調査として実施。

 ○郵政事業 - 抜本的に見直し

西川前総裁を事実上更迭し、斎藤新総裁を指名。株式売却凍結法が成立。改革法案も提出予定。 

4.新成長戦略の基本方針

  昨年12月に公表された「新成長戦略の基本方針」では、今後10年について、「名目3%、実質2%を上回る成長を実現し、2020年の経済規模を650兆円とすることを目指す。失業率は直近の5.2%から3%台へ低下させる」としている。過去10年間の平均成長率は名目0%、実質1%に過ぎず、経済規模についても2007年度の515兆円が2009年度には473兆円に減少する見込みとなっていることを考えると、「言うは安し、行うは難し」を地でいくことになる。ばら色の絵は描けたものの、その画中に描かれている「餅」は眺めるだけで、そのうち絵の極彩色も退色していくことになるのだろう。自民党政権下での成長戦略は、公共事業主体の土建型国家、構造改革の名の下での供給サイドの生産性向上による成長戦略(行き過ぎた市場原理主義)に縛られてきたと総括した上で、今後は第3の道(環境・健康・観光の分野)における「新たな需要を創造」し、成長を目指すとしている。具体的にはこの3つの分野で2020年までに100兆円の新しい市場と470万人の雇用創出を実現する。

 ○6つの戦略分野

   強みを活かす成長分野  ⇒環境・エネルギー 健康(医療・介護) 
   フロンティアの開拓による成長 ⇒アジア 観光・地域活性化
   成長を支えるプラットフォーム ⇒科学・技術 雇用・人材

 施政方針演説にある、「官」から「民」へ、「中央」から「地方」へ、「コンクリート」から「人」へ、「国内」から「海外・アジア」へというベクトルに基づき、6月頃に取りまとめられる最終案と成長戦略実行計画(工程表)によって実現性の程度が確認されるので、この段階のコメントは難しい。ただ、成長戦略を実現するための財源の担保が可能であるかは、2009年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が過去最悪の40兆6000億円、名目GDP比8.6%という状況でのスタートとなりハードルはかなり高い。また、この考え方が需要創造型への転換とあるように「消費者であり、労働者である人」、つまり消費サイドのロジックで貫かれており、企業の国際競争力を高める生産性の向上や規制緩和などのコンセプトは曖昧で、供給サイドの視点がすっかり欠落している。
 また、上記の新成長戦略の最終案と同時期の6月までに中期的な財政再建目標を掲げる「財政運営戦略」とこの目標達成のために、2011年度から3ヵ年の予算をコントロールする「中期財政フレーム」を作るとしているが、消費税を4年間据え置くという公約も含めて戦略間の矛盾や不整合が目立ち、立ち往生することになろう。

5.鳩山政権は長命か

 平成時代に入り22年目となったが、この間の日本の総理大臣は15人。政治が安定しないと社会経済も安定しないということもあるが、この短期政権では中長期の成長戦略を取りようもなく、「政策よりも政局」に傾斜せざるを得ないということも否めない。

 ○長期政権の特徴(この項2008年9月12日付シティグループ証券資料より一部抜粋)

 歴代首相で、4年以上の政権の座にあったのは、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎の4氏である。この4氏の共通項は以下の通り。
 
  ・厳しい総裁選挙を戦った経験がある
  ・明確な戦略目標がある
    池田勇人 :所得倍増計画
    佐藤栄作 :沖縄返還
    中曽根康弘:三公社(NTT、JR、JT)民営化
    小泉純一郎:郵政公社民営化
  ・強力な参謀がいる
    池田勇人 :大平正芳(官房長官、外務大臣)
    佐藤栄作 :保利茂(官房長官、幹事長)
    中曽根康弘:後藤田正晴(官房長官、総務庁長官)
    小泉純一郎:竹中平蔵(郵政民営化担当大臣、経済財政金融担当大臣、総務大臣)

 これを鳩山首相に当てはめてみる

  ・厳しい政権交代の総選挙を戦った(民主党内では小沢党首の辞任による総裁選で勝利)
  ・明確な戦略目標がある
    鳩山由紀夫:政治主導・脱官僚、コンクリートから人へ
  ・強力な参謀がいる  
    鳩山由紀夫:平野博文(官房長官)、寺島実郎(日本総合研究所会長)、平田オリザ(演出家)

 ○55体制以降の歴代首相

  就任年  首相     出身大学    前職      世襲の有無
  1954年  鳩山一郎   東京大学    地方議員    父が地方議員
  1956年  石橋湛山   早稲田大学   民間      なし
  1957年  岸信介    東京大学    官僚      なし
  1960年  池田勇人   京都大学    官僚      なし
  1964年  佐藤栄作   東京大学    官僚      なし
  1972年  田中角栄   -ー      民間      なし
  1974年  三木武夫   明治大学    民間      なし
  1976年  福田赳夫   東京大学    官僚      なし
  1978年  大平正芳   一橋大学    官僚      なし
  1980年  鈴木善幸   東京水産大学  民間      なし
  1982年  中曽根康弘  東京大学   官僚      なし
  1987年  竹下登    早稲田大学   地方議員    父が地方議員 
  1989年  宇野宗佑   神戸大学中退  地方議員    なし 
  1989年  海部俊樹   早稲田大学   政治家秘書   なし
  1991年  宮沢喜一   東京大学   官僚      父が国会議員
  1993年  細川護煕   上智大学    知事      祖父が首相
  1994年  羽田孜    成城大学    民間      父が国会議員
  1994年  村山富市   明治大学    公務員     なし
  1996年  橋本龍太郎  慶応大学    民間      父が国会議員
  1998年  小渕恵三   早稲田大学   学生      父が国会議員
  2000年  森善朗    早稲田大学   地方議員    父が地方議員
  2001年  小泉純一郎  慶応大学    政治家秘書   父が国会議員
  2006年  安倍晋三   成蹊大学    民間      父が国会議員
  2007年  福田康夫   早稲田大学   民間      父が国会議員
  2008年  麻生太郎   学習院大学   民間      祖父が首相
  2009年  鳩山由紀夫  東京大学    学者      祖父が首相・父が国会議員  

 ○菅副総理・財務大臣はしたたか

 昨年9月16日、鳩山由紀夫内閣発足により、副総理(内閣法第九条の第一順位指定大臣、経済財政相兼科学技術相)に就任し、担当事項として国家戦略局の担当したが、今年1月7日、藤井元財務大臣の体調不良による辞任に伴い、後任の財務大臣に横滑りの形で就任した。なお、経済財政相を続投するばかりか、国家戦略室は仙谷大臣に引き継ぐも国家戦略策定部分の権限は自らの手に残した。早速、消費税議論を開始するとの宣言とマニュフェスト(政権公約)についても政策に効果がなければ見直すという「政策達成目標明示制度」を導入を主導した。2010年、11年と実施した結果を12年度から政策の精査基準をもって予算査定へ反映することになる。これらはすべて菅副総理がもし首相になったときには、極めて重要かつ役に立つ仕組となるはず。

 ○民主党は自ら政権を降りることはない(連立解消はトカゲの尻尾切り)

 衆議院で絶対過半数を占め、解散がなければ今後3年半は政権与党として権限を思う存分に奮うことができる。鳩山首相、菅副首相、岡田外務相、前原国交相小沢党幹事長と5人の党首経験者をそろえ、自民党のようだと批判されようとも首の挿げ替え・政権のたらい回しによる政権維持は可能なラインアップである。これに枝野行政刷新相、野田財務副大臣も加わり、総理総裁候補の育成プロセスも起動し始めているように見える。解散するとしても勝利の方程式とタイミングは民主党の手の中にある。ということで、民主党の長期政権の道は始まったばかりであり、今後国内外の経済環境の好転や予算執行の効果が実感され始めると政権運営に強さもでてくることが予想される。今夏(7月11日想定)の参議院選挙で民主党が過半数を獲得できない、または惨敗を喫するケースでも衆議院の優越からこのシナリオに大きな変化はない。後述の自民党解体プロセスの進行により、「荷崩れ的」(馬糞の川流れといった御仁もあった)に民主党に合流する元自民も増えるのではないか、また公明党が節操もなく政権与党の甘い蜜に擦り寄ってくるケースもあると想定する。w)€刋ネw) 民主党にとっての獅子身中の虫は連立合意に縛られる社民党と国民新党の存在である。参議院の安定運営が上の2つのシナリオのいずれかの場合には是々非々で連立合意の見直しを提起し、実行することになるだろう。

 ○自民党の最終的な解体プロセスは確実に進行中

 自民党の凋落はとどまるところを知らない。(別稿:1月18日「自民党は今何をなすべきか①」、1月25日「自民党は今何をなすべきか②」 )今何をなすか。また、今何をなすことを期待されているかを理解していないし、理解しようともしていない。民主党の「政治とカネ」の問題追及は、天に唾するようなものである。「自民党的」政治とカネという枕詞が必ずつく論点を掘り下げても、国民の政治不信感を高めることはできても、自らは同じ穴のムジナのポジショニングから抜け出すことが出来ない。政策提案をし続けるべきだが、新しい党綱領を見ると政策立案能力欠如が露呈しており暗澹たる思いがする。渡辺みんなの党主の歯切れのよさ、潔さから比較すると2大政党制のもう一つは近い将来「みんなの党」ということになるかもしれない。

2010年2月24日水曜日

Ⅰ 鳩山首相の施政方針演説について

 1月29日の首相施政方針演説の全文を読んだ。マスコミで報道されるのは、もっぱら「いのちを、守りたい」との冒頭切り出しとこのフレーズが全文で24回繰り返したということ。また、具体的な内容が無いため実効性が疑わしいとのコメントである。首相の施政方針演説にはそもそも具体的な実効性のある項目は盛り込まれなくても構わないのであり、文字通りその内容において「施政の方針」が貫かれており時代の要請に適合しておればよいと考える。その中身を聞きも読みもせず、片言隻句を捉えた表面的な批判は的外れであるとともに国民としてよりよい政治・政治家を選ぶという責任を放棄しているともいえる。以下に全文を骨子としてまとめる。

 また、内容についての評価であるが、良い点としては①鳩山家の家訓:「友愛」の精神である博愛的な主義・思想が貫かれている、②拝金的な資本主義はすでに限界的な状況であるとして「新しい公共」という概念を提示している、③国内の限界を海外、特にアジアとの連携で成長していこうとしてる、④政治主導(官邸主導)による行政体制の見直しが明示されている、などあげられる。
 一方、①「総花的」でこの全てを実行できるのか、②何を基準として優先順位を決めるか、③「いのちを守る」予算を実現するための財政規律についてスルーしているなど実務上の措置を考える際に大きな欠陥があることは否めない。この施政方針どおりに全てを同時に運営しようとしても「へそ」がなく、国家レベルでの混乱に陥る可能性が高い。その予兆はすでに現れている。

 ○首相施政方針演説の骨子

1.はじめに
 いのちを、守りたい。⇒いのちを守る予算
  ・生まれてくるいのち、そして育ちゆくいのち⇒少子化への対応
  ・働くいのち⇒雇用問題への対応と新しい共同体のあり方
  ・世界のいのち⇒核廃絶、国際社会における責任や協働ネットワーク
  ・地球のいのち⇒環境・資源問題と生態系の激変への対応や「人間圏」のあり方
 
2.目指す日本のあり方⇒人間が人間らしく幸福に生きていくための経済、社会、教育
  ~マハトマ・ガンジーのことば(7つの社会的大罪)~
  ・理念なき政治
  ・労働なき富
  ・良心なき快楽
  ・人格なき教育
  ・道徳なき商業
  ・人間性なき科学
  ・犠牲なき宗教

 人間のための経済、再び
  経済のグローバル化・情報通信の高度化で便利になる反面で経済システムを制御できない事態
  ⇒経済のしもべとして人間が存在するのではなくて人間の幸福を実現するための経済
  ⇒ステイクホールダーや社会に貢献する日本の企業風土の確立

 「新しい公共」によって支えられる日本⇒5月を目途に具体化
  企業の社会的な貢献、政治の力だけではなく市民・非営利組織の活躍による課題解決
  肥大化した「官」をスリム化し、「新しい公共」を育成支援

 文化立国としての日本
  芸術や文化活動のみではなく、国民の生活・行動様式うあ経済のあり方や価値観を含む
  伝統文化と現代文明の融合:日本へ訪れたいという気持ちとなる愛され、輝きのある国

 人材と知恵で世界に貢献する日本
  人(人格)を育てる教育、人間の可能性(人間性)を創造する科学

3.いのちを守るために⇒予算 公共事業18.3%減、社会保障費9.8%増、文教科学費5.2%増

 子供のいのちを守る
  所得制限のない月額1万3000円の子供手当ての創設
  高校の実質無償化
  「子供・子育てビジョン」⇒待機児童の解消や幼保一体化によるサービス充実
 
 いのちを守る医療と年金の再生
  危機的な国民医療の立て直しと再生⇒医師養成数の増大、診療報酬の改定と配分見直し
  年金集中対応期間(2年間)

 働くいのちを守り、人間を孤立させない
  雇用機会の拡大(雇用調整助成金の支給要件の緩和)
  雇用保険の対象の抜本的拡充
  派遣労働法の見直し
  生活費支援を含む恒常的な求職者支援制度の創設
  男女共同参画の推進
  障害者自立支援法の廃止や障害者権利条約の批准
  自殺対策の強化や救急救命体制の充実
  犯罪捜査の高度化

4.危機を好機に

 いのちのための成長を担う産業の創造
  新たな成長戦略の基本方針
  成長の原動力としての危機:環境・エネルギー・医療・介護・健康
  2020年に1990年比CO2の25%削減⇒グリーン・イノベーションの推進
  地球温暖化対策基本法の策定し、環境・エネルギー関連規制の改革と新制度の導入
  医療・介護・健康産業の質的充実⇒ライフ・イノベーション  

 成長のフロンティアとしてのアジア⇒世界経済におけるわが国の活動の場
  環境問題、都市化、少子高齢化などの日本と共通する課題を共有し、ともに成長する
  アジア地域の自律的な経済成長に貢献できる高度な技術やサービスのパッケージ
  日本への訪問誘致⇒2020年までに2500万人、3000万人目標の総合的な観光政策
  空港、港湾、道路などのインフラ整備の戦略的な推進

 地域経済を成長の源に⇒地域経済の疲弊の緩和・活性化
  地方交付税の1.1兆円の増額
  地域経済活性化・雇用機会の創出を目的とした2兆円規模の景気対策
  農林水産業における新たな価値創出⇒「第六次産業」化
  個別所得補償制度
  食料自給率を50%まで向上
  中小企業の資金繰りへの対応
  「中小企業憲章」の策定
  高速道路の一部無料化への試み
  ユニバーサルサービスを担保できる郵便局・持ち株会社と4分社の経営形態の見直し

5.地域主権と財政規律

 地域主権の確立⇒地域主権革命元年・地域主権戦略大綱・地方分権改革推進計画
  中央集権から自律的でフラットな地域主権型の構造に変革
  地方に対する不必要な義務や枠付けを廃止
  直轄事業負担金制度の廃止
  国と地方との協議の場を法律に基づいて設置
  ひも付き補助金の一括交付金化・出先機関の改革
  「緑の分権改革」推進
  「コンクリートの道」から「光の道」として情報通信技術の利活用

 責任ある経済財政運営⇒中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略
  2009年予算第二次補正予算24兆円の編成
  過去最大規模となる2010年予算の編成⇒切れ目のない景気対策の実行・デフレの克服
  財政の規律(今回新規国債発行額44兆円以下)
  事業仕分けや公益法人の基金返納などで3兆円捻出
  複数年度を視野に入れた中期財政フレームの策定

6.責任ある政治の実践

 「戦後行政の大掃除」の本格実施
  予算編成の議論を事業仕分けという公開の場で実施
  規制や制度のあり方の抜本的見直し
  独立行政法人や公益法人の必要性の検証
  特別会計の整理統合
  一般会計と特別会計を合わせた総予算を全面的に組み替え
  行政刷新会議を法定化し、権限と組織を強化 

 政治主導による行政体制の見直し
  行政組織や国家公務員のあり方を見直しと意識改革
  縦割り省庁行政を廃し、国家的観点からの予算・税制の編成を担う国家戦略局の設置
  内閣人事局の設置による幹部人事の内閣一元管理
  政府内における国会議員の職責の充実強化を担保する関連法策定
  府省編成の見直し
  天下りの根絶と国家公務員の労働基本権のあり方、定年まで勤務できる環境等

 政治家自ら襟を正す
  議員定数や歳費のあり方
  政治資金の問題

7.世界に発信する日本

 文化融合の国、日本
  多様な文化は技術を吸収し、独自の文化との融合で豊かな文化をはぐくんできた
  伝統的な価値観は大切にしつつ、新たな文化交流・人的交流に積極的に取り組む
  新しい価値観を世界に発信していく

 東アジア共同体のあり方
  東アジア共同体は「いのちと文化」の共同体
  日米同盟はその前提条件となる重要な位置づけ
  多角的な自由貿易体制の強化が第一の利益

 いのちと文化の共同体
  東アジア共同体の具体策はいのちを守るための協力、文化面での交流の強化
  地震・台風・津波などの自然災害対策の協働
  新型インフルなど感染症・疾病への対応策の協働
  米国中心の人道支援「パシフィック・パートナーショップ」に海上自衛隊の輸送艦派遣

 人的交流の飛躍的充実
  今後5年間にアジア各国を中心に10万人を超える青少年を日本に招聘
  域内各国言語・文化の専門家の育成
  アジア太平洋経済協力会議(APEC)の枠組みの充実強化

 日米同盟の深化
  今年は日米安保条約改定50周年
  日米安全保障体制はアジア・世界の平和と繁栄に不可欠・重要な存在
  日米同盟の成果・課題の総括と重層的な同盟関係への深化・発展
  国連総会で採択された「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」で日米協調
  普天間基地移転問題の最善な解決策の5月末までの策定
  気候変動問題における技術協力や共同実証実験、研究者の交流の実施

 アジア太平洋地域における二国間関係
  日中間の戦略的互恵関係の充実
  日韓関係の節目韓国併合100周年における未来志向の友好関係強化
  ロシアとの北方領土問題の解決・アジア太平洋地域における協力強化
  北朝鮮の拉致・核・ミサイルの諸問題の包括的な解決と日朝国交正常化
  6カ国協議による緊密な連携と拉致問題対策本部のもと解決に向けてた最大限の努力 

 貧困や紛争、災害からいのちを救う支援
  発展途上国や紛争地域における飢餓や貧困で苦しむ人々への支援
  ハイチ地震など被災者への救済策(自衛隊派遣や緊急・復興支援金の提供)
  国連など国際機関や主要国との密接な連携

8.むすび

 いのちを守りたい。
 15年前の阪神・淡路大震災の教訓⇒防災・減災への取り組み
 「新しい公共」の出発点 

2010年2月4日木曜日

「小沢一郎」的政治業の限界と破綻

1.はじめに

 「小沢一郎」的政治業とは、、、と書いて続ける気の重さに戸惑ってしまう。私たち国民が求めている「政治家」像とは、私の考えではそれと全く異なる「政治屋」の属性と思われる。また、それならば、その政治屋をどの程度知り、分析し、理解したうえで論じるのか。伝えられた間接的な虚像をもって判断する気の重さ。さは然り乍ら、そうせざるを得ない対象であることの重さ。それを意識しつつ進めていこう。

 政治家の在り方とは、選挙民から選挙によって選出され、その付託された権限に基づいて、法律(ルール)を制定し、選挙民の福利厚生や益増進に貢献すること。また、関連する内外の利害関係を調整することなどが実務的な面といえる。さらに、その根本となる精神的な面は、国家(団体)の方向性や意義をビジョンとして指し示し、己を捨ててもこれを達成するというリーダーシップを持つことであろう。

 小沢一郎的な政治屋の成り立ちを簡略に記すところから本題に入ろう。27歳という若さで初当選してから、田中角栄元首相に引き立てられ薫陶を受けた。その後、自治大臣兼国家公安委員長を経て、自民党幹事長に就任。常に政治の全線で剛腕と破壊を繰り返す、政界の「壊し屋」政治屋の経歴の始まり始まり。

 宮沢内閣の不信任決議の際に造反し、自民党を離党。流動化の中心として、新生党、新進党、自由党を経て、自民党との自・自連合で政権に復帰。その後、自自公政権で存在感が低下した自由党は連立を離脱。この際に連立残留派と政党助成金の分割を巡った「金(カネ)」を巡る争いを起こす。その後民主党と自由党の合併となり、この際に自由党から小沢一郎が代表を務める改革国民会議に自由党の政党助成金5億6096万円を含む13億6816万円の寄付行われ、ここでも「金(カネ)」を巡る問題を起こした。その後、民主党代表となるものの自民党福田総理総裁との連立を民主党代表としてリードするも党内の合意を得られず、「プッツン」したとして代表辞任を訴えるも慰留を受け続投。また、2009年5月に西松建設疑惑関連で公設秘書が逮捕された件で代表を辞任した。

 小泉劇場・自民党人気のあおりを受けて存在感のない民主党であったが、安倍、福田、麻生と政権たらいまわしの中で景気後退や政治不信が募り、自民党が自滅的に国民の信を失う中、2009年の衆議院選挙で「政権交代」を旗印に地道な選挙戦を戦い抜き、自民党政権を終焉に追い込んだ第一人者。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%B2%A2%E4%B8%80%E9%83%8E

2.政治家の姿

 価値観は個人的なもので、また、時代背景により異なることもあるが、明治維新の偉勲の一人である西郷隆盛の政治家の在り方を記した「西郷南洲遺訓」を例としてとりあげよう。

 万民の上に位する者、己を慎み、品行を正しくし、驕奢を戒め、節倹を努め、職事に勤労して人民の標準となり、下民その勤労を気の毒に思ふ様ならでは、政令は行なはれ難し。
 租税を薄くして民を裕にするは即ち国力を養成する也。故に国家多端にして財用の足らざるを苦しむとも、租税の定制を確守し、上を損じて下を虐げぬもの也。
 会計出納は制度の由って立つ所、百般の事業皆これより生じ、経綸中の枢要なれば、慎まずばならぬ也。その大体を申さば、入るを量りて出ずるを制するの外、更に他の術数なし。
 節義廉恥を失ひて、国を維持するの道決してあらず。西洋各国同然なり。上に立つ者下に臨みて利を争い義を忘るる時は、下皆これに倣ひ、人忽ち財利に趨る。
 命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也。この仕末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬ也。

3.判断の根拠

 直接会ったこともないので人のコメントなどを三題話としてまとめよう。

(石原慎太郎氏の判断)

「私は彼を評価しません。あの人ほどアメリカの言いなりになった人はいない。大した党にならないと思うね」と酷評。「(小沢氏は)自民党を牛耳っていた金丸信元副総裁らを背景に自民党幹事長を務めたが、アメリカに言われて、造らなくていい公共工事をやって、湾岸戦争の時は、一瞬にして戦費支出を決めた。自民党で一番いい思いをしたのは、あのグループ(旧経世会)じゃないの」と指摘。

産経新聞に掲載された「日本へ」(石原慎太郎によるエッセイ)

 あの後とは、私が議員時代自民党が金丸信なる悪しき実力者の君臨の下経世会に支配され、その後体よく自民党を割って飛び出し新党を作って転々し今は民主党のフィクサーとして在る小沢一郎がその配下として幹事長を務めていた頃、日本はアメリカから構造協議なるものを持ちかけられ内需の拡大という美名の下に貿易を抑制し国内で無駄な支出を重ねることで国力を衰弱させよという圧力に屈した後々のことだ。大体、「構造協議」などという二国間協議のもっともらしい名称は国民の目を憚(はばか)るために日本の役人たちが改竄(かいざん)したもので、相手側の原文はストラクチュラル・インペディメンツ・イニシャティブ(構造障壁積極構想)、その「積極性」を持つ者は当初からアメリカということだ。それを当時の政府は国民への体裁を考慮し敢えての改訳を行った。そもそもこうした経済会議はOECDとかWTOといった汎世界的な協議機関で論じられるべきなのだが、他の先進国たちも相手が日本なら放っておけということでアメリカの非を唱えはしなかった。
 その場でアメリカが持ち出した要求は二百数十項目にも及ぶ内容で、中には日本の実情を無視した荒唐無稽(むけい)なものも数多くあった。それに対して私たち有志の勉強会「黎明の会」は日本としての対案を百四十項目作って相手にぶつけさせようとしたが、その提案を申し込んだ自民党の最高議決機関の総務会を小沢幹事長は会期末に意図的に三度続けて開かずに封殺した。仕方なしに他に場所をもうけ、外国人記者クラブでもその案を発表したが、当時の日経連会長の鈴木永二さんにこんな良い案の発表が遅すぎると叱(しか)られたものだった。

 しかしその後金丸、小沢体制下の自民党政府はさらに、向こう八年間に400兆の公共事業を行って内需を刺激せよというアメリカからの強い要請を丸呑みして、結果としてそれを上回るなんと430兆の公共事業を行ってのけたのだった。その結果夜は鹿か熊しか通らぬ高速道路があちこちの田舎に出来上がった。

「Will」2007年9月号に寄せられた石原慎太郎による記事「小沢総理なんてまっぴらだ」より

 そして1991年に湾岸戦争が起きた。ブレディというアメリカの財務長官が日本に圧力をかけに飛んできた。アメリカにはカネがないから、日本はカネを出せと言いに来た。
 当時は傀儡政権の海部政権、これは金丸と小沢が作った内閣です。金丸は海部の言うことなんか全く聞かずに、自分で人事をし、内閣を作った。海部は総理にしてもらっただけで、人事は何もできなかった。
 その海部内閣の主要閣僚、外務大臣・中山太郎、大蔵大臣・橋本龍太郎、通商産業大臣・武藤嘉文、内閣官房長官・坂本三十次の四人で紀尾井町の「福田屋」という料理屋で接待したら、ブレディがいきなり40億ドル出せと言った。
 四人はぶったまげて「そんなカネは急には出せない」と断った。ブレディは繰り返し三回言った後、「駄目なら俺は帰るぞ。駄目なんだな」と念を押した。
 「よしわかった。これで日米関係は悪くなる。あんた方の責任だ。もう一回名前を教えろ。中山、橋本、武藤、坂本だな」。
 そうしたら慌てて一人が立ち上がって「ちょっと待ってください!」。恐らく官房長官の坂本でしょう、そう言ってある人に電話をかけた。
 当然、相手は幹事長の小沢です。その後には金丸がいたろう。小沢が相談して、金丸が「それじゃあ出してやれ」となって、40億ドル出すことになった。
 ブレディは日本に四、五時間しかいなかったのに40億ドルせしめて帰ってきて、ワシントンで記者会見をした。
 私は日本の政治家で一人だけ外人記者クラブのメンバーなんです。年中アメリカ人の記者と喧嘩する。喧嘩すると仲良くなるので、こちらに嫌な情報も教えてくれる。その一人からブレディの情報を聞いた。けれども嘘か本当かわからない。NHKの日高義樹くんが当時ワシントンの支局にいたので、帰国した時に裏をとって聞きました。その通りだと。

 記者会見で、記者が「あまり機嫌がよくないけど、日本はやっぱりカネを出しませんでしたか」と聞いた。ブレディは「出したよ」と答える。
 記者が「不機嫌なのを見ると、額が少ないんですね?いくらなんですか?」と聞かれて、ブレディが「40億ドル」と言ったら、みんなぶったまげた。
 日本に数時間しかいなくてそれだけのカネが取れたのなら大成功じゃないですか、と言われたブレディがニヤッと笑って「俺は二日かかると思ったんだが、アイツらちょっと脅かしたら四時間でカネを出した。だったら最初からもっとふっかければよかった」。こんなことまで言われていたんだ。
 その後、さらにアメリカは90億ドルを要求してきた。さすがにこれは内閣の一存では決まりませんから、九月に臨時国会を開いて、結局、合わせて130億ドルを出してアメリカの戦争を助けた。
 ところが出した直後に戦争は終わってしまった。カネをどう使ったか報告がない。日本にキックバックしたという噂があります。日本のメディアはやる能力も覇気もないから調べられない。アメリカ人の二人の記者が書きました。そのカネが誰にいったのか。想像に難くないけど。

 そして、それからすぐ小沢一郎は党を割って出て行った。
 その後、1992年に金丸事件が起き、金丸さんは略式起訴された。警察が金丸さんの事務所に踏み込んでみると、刻印のない金の延べ棒が出てきた。金塊というのは、それを作った国の刻印が必ずあるんです。刻印のない金塊は北朝鮮です。北とどういう取り引きがあってのことか。途中で当人が亡くなってしまい真相は闇に葬られてしまった。
 小沢・金丸は何をやったんですか。アメリカに約束した八年間に430兆のカネを無駄遣いして日本の経済力を弱めた。
 430兆のカネを使って何をやったか。沖縄の経済需要の全くない島に5万トンのコンテナ船が着くような港ができている。市長が自慢して見に来てくれと言われたけれど、船が来るのかと聞けばニヤニヤ笑うだけ。
 北海道で熊や鹿しか出てこないようなところに道路を作った。その先に街なんかありゃしない。そういう馬鹿なことをやった。みんな国民の税金です。そのため国債も発行した。それで日本の財政はガタガタになってしまった。
 いまだに670兆という厖大な国債がある。あっという間にイタリアの倍の国債依存率になってしまった。この体たらくを作ったのは誰なんですか。

 今、年金の問題で騒がれているが、これはまさしく組合の体質の問題だ。四十五分働いて十五分休む。一日にキーボード五千字しか打たない。原稿用紙にしたら十二枚半だ。小説で十二枚半書くのは大変だけど、そこにある資料を打ち込むだけです。こんなものを業務協定で約束させる組合なんて、昔の国鉄よりもっと悪い。
 国鉄は民営化することによってよくなった。当時の国鉄の中に、西日本の井出、東日本の松田とか、東海の葛西とか、そうそうたる連中が体を張って組合と戦い、殺されるのを覚悟で民営化した。
 社保庁も安倍総理が、このままじゃ駄目だ、一度つぶして、解体し新しいものにしようとしている。それに反対しているのは組合におもねっている民主党じゃないですか。

 アメリカの言いなりになって、いまだに国をアメリカ化するための要望書をつきつけられている。こんな国は日本しかない。こんな体制を作ったのは誰か。小沢一郎じゃないですか。こんな男がリードする政党が日本を変えていくとはとても思えない。
 私は民主党に期待しているんです。しかし岡田君も挫折した。前原君もつまらんことで挫折した。ああいう若い人たちがもう一度立ち上がって、若い仲間と若い発想で、自民党が思いもつかないことを考えてやってくれることを期待しています。

 しかし現在上に立っている小沢一郎たちに、何を期待するんですか。彼が過去にやってきたことを思い出すと、本当に怖い。彼が日本の親父になるのは、ひとりの日本人として、まっぴらゴメンです。

(奥村貞雄氏の判断)

奥村貞雄氏は自民党幹事室に1965年から1996年の31年間勤め、22名の幹事長に仕えた。以下は「自民党幹事長室の30年」(中央公論社2002年12月10日発行)からの引用。

幹事長室長として最初に仕えた田中角栄こそベストの幹事長だった。では、ワーストワンは?と聞かれれば、私は躊躇なくこの人物の名前を挙げる。
 小沢一郎である。海部内閣での幹事長就任。この時47歳。奇しくも師匠である田中角栄が幹事長になったのと、同年齢であった。権力欲が旺盛で警戒心がことのほか強かった。自民党が参議院で少数派であるため、予算、補正予算、暫定予算と参議院で否決され、両議院協議会での協議。与党として国会対策に煩雑で胃の痛くなるような調整を強いられた。このような情勢の中、小沢がもっとも血道をあげていたのは、自らの基盤固めであった。昼時になると決まって自派(竹下派)の若手だけを5~6人程幹事長室に招き入れ、奥の個室で懇談の時間を持っていた。幹事長室に自派の議員を引きずりこんで、自分のシンパ拡大に励んだ政治家は他にはいない。

二日酔いで重要会議すっぽかし

1991年米英を中心とする多国籍軍がイラクを攻撃し、湾岸戦争が勃発する。自衛隊の多国籍軍支援などをめぐって議論が沸騰している中、1月24日に自民党は定期党大会を開く。前日には各都道府県の幹事長を集め全国幹事長会議が開かれる予定となっていた。結論から言うと、その重要な会議の前夜、小沢は通産官僚と痛飲し、「高熱のため出席できなくなった」とこの重要な局面の重要な会議をすっぽかしたのだ。憲法と自衛隊の在り方が真正面から議論されている「有事」に開かれる党大会であり幹事長会議をさぼる。日頃「日本はこんな平和ボケでいいのか」とのたまうその人の真の姿なのである。

(岩手県地元建設会社)

 「野党」の党首や幹事長として職務権限が法の違反を構成する立場にはないので、贈収賄として法を犯していないというのか。では「天の声」とは、何か。工事受注を邪魔されたくないので「企業献金をした」という動機はどこにあるのか。政治家の在り方としての選挙民やその他利害関係者への総合的な福利厚生に貢献するといった謙虚な姿は全く見えない。
 「多少とも何か理念を揚げるのなら、自分がいったい何をしてきたのか、その実態を洗いざらい総括して国民に示し、まず謝罪すべきではないか。冗談じゃないですよ」(AERA 2010年1月25日)

4.政治資金規正法違反

 元秘書らの政治資金規正法違反は、2004年、2005年にあったとされる容疑である。政治資金規正法違反の虚偽記載罪(罰則は最大禁固5年)の時効は5年である(刑事訴訟法250条の5)。時効は犯人もしくは共犯者が起訴された場合には停止する(刑事訴訟法254条1項、2項)。つまり、元秘書ら3名が起訴されれば、29005年以降については、小沢氏が関連していれば小沢氏の時効の対象にはならない。

5.それでいいのか

 疑わしきは罰せずは法の精神であるが、政治家は疑わしきは説明せよである、と日経新聞は書いている。国民の税金である政党助成金は、政治活動=国民の福利厚生に資する事項のための活動に費消してもよいのであって、不動産購入がこれにあたるのか。

 西郷南洲曰く、万民の上に位する者、己を慎み、品行を正しくし、驕奢を戒め、節倹を努め、職事に勤労して人民の標準となり、下民その勤労を気の毒に思ふ様ならでは、政令は行なはれ難し、ということではないか。

 このような政治はいらない。

2010年1月30日土曜日

沖縄米軍基地移転問題について②

 混迷を深める沖縄普天間の米軍基地移転問題。1月18日の小論に続いて論説をまとめた上で、鳩山首相が言明した5月やバマ米大統領の訪日が想定されている11月までの政策決定につながる提言としよう。

1.在日米軍基地の再編の背景 - 単なる沖縄の問題ではない

  唯一のスーパーパワーとしての地位を強めた1991年のソ連崩壊と冷戦構造の終結や2001年9月11日の米国同時多発テロの発生により、2001年以降、米国は従来の軍事戦略・防衛に関する枠組みを大幅に見直す必要が生じた。この背景には、イラクの大量破壊兵器問題やアフガニスタンにおける駐留継続の中、人的被害を抑制するためのITの活用など軍事技術の進展もある。2001年以降、米国防総省は、Transformationとして、米国軍配置を世界的な観点で見直す作業に着手。軍事的に不安定な地域(不安定の孤)に対する即応体制を主眼とした再編を進めてきている。その「孤」を形成する東シナ海・北朝鮮・ 中台海峡などアジア地域の軍事戦略は世界的戦略の柱の一つであり、その潜在的な脅威としては、社会主義国として軍事プレゼンスを拡大する中国および核保有の野心を隠さない北朝鮮が引き続き定義されている。この脅威に対応しつつも、米軍のトランスフォーメーションを円滑に遂行することは、日本および韓国やフィリピンにおける在留米軍基地の最適な再編・縮小を実現することであり、単なる撤退といった誤った政治的なメッセージを生まないようにしなければならない。

2.「日米同盟:未来のための変革と再編」中間報告の合意

 日米両国は2005年10月29日に米国防総省において、外務・防衛担当の4閣僚による日米安保協議委員会(2プラス2)を開催し、在日米軍と自衛隊の再編についての基本的な考えかたや当面の二国間の安全保障・防衛協力での態勢強化に不可欠な措置をまとめ、「日米同盟:未来のための変革と再編」として中間報告として大枠合意した。米国側は、中間報告という位置づけではなく、基本的な合意で変更の余地はないという理解であり、自民党から民主党への政権交代によって中間報告にすぎないという議論のすり替えに妥協する可能性は低い。この合意の意図は、国内基地規模の縮小と再編、共同訓練等の強化や共同戦略展開の方向性である。

 【主な合意内容】

○沖縄県
・普天間飛行場
 普天間飛行場を日本側に返還するために代替施設を2014年までにキャンプ・シュワブ海岸線陸上部 と大浦湾海域にまたがった地域(名護市、辺野古沿岸)に建設する。周辺集落上空を飛行ルートから外すため、2本の滑走路がV字状に設置される(図参照)。各滑走路は1,600mとなる予定。普天間飛行場は代替施設が完成後返還される。
・第3海兵遠征軍
 2014年までに、第3海兵遠征軍司令部。第3海兵師団司令部、第3海兵役務支援軍司令部、第1海兵航空団司令部、第12海兵連隊司令部等約8,000人及びその家族約9,000人をグアムに移転する。家族住宅を日本負担で約3,500戸建設する。グアムに建設される施設の整備費102.7億ドルのうち、日本側が60.9億ドルを支出する。
・キャンプ桑江
 全面返還。
・キャンプ瑞慶覧
 一部返還。
・牧港補給地区
 全面返還。
・那覇港湾施設
 浦添埠頭地区に新施設を建設し移転する。その後、全面返還。
・陸軍貯油施設(第1桑江タンク・ファーム)
 全面返還。普天間飛行場代替施設の桟橋に貯油施設を建設する。
・自衛隊
 陸上自衛隊-キャンプ・ハンセンで訓練を行う。
 航空自衛隊-嘉手納飛行場で日米共同訓練を行う。

○神奈川県
・キャンプ座間
 キャンプ座間(相模原市、座間市)へ、2008年度までに米陸軍第1軍団(米ワシントン州)をUEx:Unit of Employment Xに改編して移転。http://www.rimpeace.or.jp/jrp/riku/zama/uex.html 2012年までに陸上自衛隊中央即時集団司令部も朝霞駐屯地から移転する。チャペル・ヒル住宅地区のうち、1.1ヘクタールを住宅移設後に返還する。
・相模総合補給廠
 相模総合補給廠に戦闘指揮訓練センターを新たに建設する。小田急電鉄多摩線を延伸し、鉄道を平行して道路を建設するため、2ヘクタールを返還。西側の野積場(52ヘクタール)のうち、15ヘクタールを返還。35ヘクタールを地元との共同使用とする。
・厚木飛行場
 厚木基地へ岩国基地の海上自衛隊のP-3C等が移転する。

○東京都
・横田飛行場
 航空自衛隊航空総司令部を米軍横田飛行場(福生市、立川市など5市1町)に移転し、第5空軍司令部と併置する。日米統合運用調整所が設置された。日米両政府は、横田空域の管制権返還、飛行場の軍民共同使用について検討する。

○山口県
・岩国飛行場
 厚木基地の第5空母航空団(空母艦載機のF/A-18Cレガシー歩―ネット、F/A-18Fスーパーホーネット、EA-6BプラウラーおよびE-2Cホークアイ飛行隊)を岩国基地に移転。
 普天間飛行場の空中給油機KC-130ハーキュリーズは、飛行隊司令部、整備施設等とともに、岩国飛行場へ移転する。海上自衛隊鹿屋基地(鹿屋市)、グアムへ定期的にローテーション展開する。

○全国
・嘉手納飛行場、三沢飛行場、岩国飛行場における米軍の航空機訓練を千歳基地(千歳市)、新田原基地(新富町)、百里基地(小美玉市)、小松基地(小松市)、築城基地(行橋市)、三沢飛行場(三沢市)の6基地の自衛隊施設で行う。

3.沖縄米軍基地の全貌と普天間・辺野古
 
・沖縄における米軍基地
 沖縄の平地部の7割を占めるという米軍基地の全体像は以下の地図で

column/


・辺野古沖基地















4.結論に向けての考慮点

  もつれにもつれた、Gordian Knot(ゴーデァン・ノット)を一刀両断に解決することは不可能と思われるが、顧慮点を以下にあげてみる。

 (推進論)
 ・日米安保条約に基づいた平和と繁栄の実績
 ・日米両国は長期間(13年)をかけて基本方針として合意
 ・米国のグローバルな規模でにすでに展開している軍事戦略の一環
 ・代替策(基地受入地方自治体)がない(検討時間もない)
 ・代替策はコストがさらに嵩む可能性

 (反対論)
 ・在日米軍の趨勢的な国外撤退戦略の推進(対等な関係の樹立)
 ・連立政権における社民党の強硬な反対と連立維持
 ・反対派の稲嶺氏を24日の市長選(民主・共産・社民・国民推薦)で選出した名護市民の民意
 ・辺野古はジュゴンの生息地とする自然環境保護

5.展望

 鳩山首相は、オバマ大統領との信頼関係が確立できていない状況となっており、また、自らの政治献金問題、小沢民主党幹事長の政治資金問題等により、政権樹立時の民主党および鳩山首相の支持率が急速に低下してきている。「5月まで結論を得る」との言明も、平野官房長官の迷走も含めて、コントロール・タワー不在の中で道筋が見えていない。小沢幹事長もその剛腕発揮を封じ込められている。
 このような中で鳩山首相は、28日に「普天間基地の継続使用は選択肢としてない」と、自ら最後の妥協的選択肢をつぶしてしまった。ということで、残された選択肢は2つで前者の可能性が高い。(軍事評論家の田岡俊次氏の佐世保付近移転案を追記:1月31日)
 
 (選択肢)

 ○現行案で着地

 ・来年度予算を今年度中に可決したタイミングで社民党を切り捨てる形で現行案に揺れ戻す
 ⇒
  7月の参議院選挙では自民党はこの線では攻勢に出れないためダメージは少ない
  (社民党を政権与党として選択としたという意識は国民にはない)
  沖縄県民感情は最悪の状態となるが、計画の一部縮小や公共事業投資効果で反感を抑制

 ○普天間基地の継続使用
 
 ・首相が自らの発言を撤回し、結論の先送りとなる八方美人策で丸く収めとようとする
 ⇒
  自民党のみならず民主・社民の与党内からも厳しい批判が続出し、首相は引責辞任する

(追加:軍事評論家の田岡俊次氏の提言)

 ○佐世保付近へ再編

 ・第3海兵遠征軍8000人のグアム移転後も沖縄に残留する歩兵第4連隊、ヘリ部隊第36航空群を佐世保南の大村航空基地近辺への移転
 ⇒
 ・佐世保基地北西約6キロ地点の陸上自衛隊相浦駐屯地(島嶼防衛を専門とする西部方面総監
 部直轄の普通科歩兵連隊が駐屯)への歩兵第4連隊を移転
 ・普通科連隊はその替りとしてキャンプ・シュワブに移転
 (環境影響評価進行中)

http://webdacapo.magazineworld.jp/

2010年1月25日月曜日

自民党は今何をなすべきか②

 自民党が24日党大会を開催し、谷垣禎一総裁は政権奪還に向けた結束を訴え、「常に進歩を目指す保守政党」と党の性格を定義した2010年綱領を了承した。「一部の人間が利益を分配して権力闘争に明け暮れる自民党とは訣別する」という、このタイミングでは最も古い自民党的体質を温存する民主党小沢幹事長のアンチテーゼとなるようなイメージ戦略を提起し、下記の綱領を掲げている。

 【自民党2010年綱領の柱】

 ■ 国民の自立心を損なう社会主義的政策を採らない
 ■ わが党は常に進歩を目指す保守政党である
 ■ 日本らしい日本の姿を示し、世界に貢献できる新憲法制定を
 ■ 自助自立する個人を尊重し、共助・公助の仕組みを充実
 ■ 地域社会と家族の絆・温かさを再生する
 ■ 財政の効率化と税制改正により財政を再建する
 ■ わが党は誇りと活力ある日本像を目指す
 ■ すべての人に公正な政策を実行する政府
 
採点が難しい。限りなく0点に近い。この綱領で政権は奪取できないことは間違いない。綱領に盛られた文脈において政策として具体的にイメージできるのは「財政再建」だけである。

 それでは、どのようにビジョンを掲げるべきか、以下に考え方をまとめてみよう。
 
1.期間の考え方

 3年半後の衆議院総選挙を視野に24か月連続計画を策定する

2.綱領に盛り込むメッセージ-10カ条

 (社会主義的政策をとらないなど、自明のテーゼは全く不要)

 ■ 日本の良いところをより伸ばす新保守主義
 ■ 国際社会における共存的発展を目指す国際協調主義
 ■ 新しい日本の在り方を定義する日本国憲法の改正
 ■ 地域経済の安定化・活性化につながる道州制(広域行政)の導入
 ■ 経済活性化のためのイノベーション関連の法人減税と助成制度
 ■ 長期的に安定的財政が担保できる税制改正
 ■ 国会議員の段階的で大幅な定員削減(参議院の制度抜本見直し)
 ■ 行政・公務員改革による効率的で透明な政府の確立
 ■ 少子高齢化への対応および各種教育制度等の充実
 ■ 責任政党としての持続的な改革・担政力の涵養

3.党内改革について

 派閥・長老的政治の打破
 年功議員は党幹部職として政策立案サイドへの転進か引退
 世襲の弊害の打破(親族の地盤は直接には継げない仕組み)
 民間・官僚との交流の活性化と登用
 政権構想ネットワークの構築
 党員拡大のKPIの設定
 政党助成金の効率的な活用
 政調会の所属ローテーションの活性化・部会再構成・戦略スタッフの外部化
 広報戦略の再定義(訴求するターゲット別支持拡大策の策定)

2010年1月23日土曜日

自民党は今何をなすべきか①

 落日の自民党は、民主党の自滅に近い敵失に有効な策を打てていない。その遠因は、第45回衆議院議員総選挙の惨敗の責任をとって辞任した総裁麻生太郎の後任を選ぶべき総裁選において惨敗原因の総括などの現状認識を党として共有しようとしなかった点にある。安倍・福田内閣と続いた政権の投げ出しがあり、国内経済の疲弊および二極化の進展に加え、リーマンショックに端を発する世界金融恐慌の勃発に適切に対処できていない状況となっていた。

 そのような厳しい環境であるにもかかわらず、麻生首相の耐えられない「物の言いの軽さ」、閣僚の不祥事と続き、国民はついに長期間にわたった自民党政治にとって代わる新しい政治原理を求め、民主党の歴史的な大勝が導かれたということである。ただし、これは消極的選択という意味合いもあり、国民の大部分は経験不足の民主党を実力・経験のある野党として矯正しうる自民党、二大政党制による安定を望んでいた。

 そのような現実に直面しても、自民党の動きは鈍く、ある意味支離滅裂となった。舛添要一氏、小池百合子氏、石原伸晃氏、石破茂氏などの総裁選経験者や有力閣僚の不出馬や出馬断念が続き、党の再生を目指す力学よりも「旧政権政党的」な人事力学を優先してしまった。その結果、谷垣禎一氏、河野太郎氏、西村康稔氏の三つ巴となったが、選出されたのは安定的とはいえ世代交代の意味合いのもっとも少ない谷垣氏であり、氏の「みんなでやろうぜ」の空虚な掛け声にもかかわらず、短期的には世代交代もなく党再生の可能性も低くしてしまった。この過程で印象的な映像が二つある。一つは麻生氏の辞任を受けて開かれた会議で両議員総会会長の若林正俊氏を首相候補することが決議されたが、その際に麻生元総裁が浮かべたうすら笑いなど耐えられない浮薄さ。もう一つは総裁選挙中の札幌の街頭演説の際に総裁候補の河野洋平氏が町村信孝氏に「あまりに調子に乗って跳ね返るなよ(覚悟しておけ)」との恫喝。

 自浄作用を失った干潟には生物は住まない。中選挙区制度がはぐくんだ派閥を住処とする豊かな人脈からなる自民党の復活はしばらく期待できない。

日米安保 21世紀的深化

 日米安全保障条約改定の署名50周年にあたって、日米の外務・防衛担当の4閣僚が共同声明を以下の通り発表した。首脳共同声明とならなかったのは、在日米軍基地問題等において信頼関係の構築が困難な状態であったため見送られてる。前日に発表された鳩山首相の声明と併せて読むと官僚の作文の特徴である「整合性」と「概要と詳細」の構図が読み取れる。外務省および防衛省官僚による共同作業としては現時点では成功裏に推移し、今後5月までに策定される基地移転問題をリードすることになろう。「同盟に対する国民の強固な支持を維持していることを特に重視し」、その方向性の中で戦略・施策の構築や世論の形成が企図されている。
 また、この声明のなかで明示されている「脅威」は、それらしく修辞されているものの「中国」、「北朝鮮」、「テロ」、「海賊」、「自然災害」となっている。鳩山首相の指向する「中国との関係強化」はその補完するものであるが、日米安保条約の存在を前提にしては、優先順位は逆転するものではない。鳩山首相とオバマ大統領との共同声明としなかったのは前述のニュアンスによるものと理解するが、穿った見方をすれば、今後の各首脳の退任を織り込んで、普遍的な関係強化を官僚的普遍性において担保しようとするものとも思える。

 (共同声明全文)
 日米安全保障条約改定の署名の50周年に当たり、日米安全保障協議委員会の構成たる閣僚は、日米同盟が日米両国の安全と繁栄とともに、地域の平和と安定の確保にも不可欠な役割を果たしていることを確認する。
 日米同盟は日米両国が共有する価値、民主的理念、人権の尊重、法の支配、そして共通の利益を基礎としている。日米同盟は過去半世紀にわたり、日米両国の安全と繁栄の基礎として機能してきており、閣僚は日米同盟が引き続き21世紀の諸課題に有効に対応するよう万全に期して取り組む決意だ。
 日米安保体制はアジア太平洋地域における繁栄を促すとともに、グローバル及び地域の幅広い諸課題に関する協力を下支えするものである。閣僚はこの体制をさらに発展させ、新たな分野での協力に拡大しておくことを決意している。
 過去半世紀の間、冷戦の終焉及び国境を越えた脅威の顕在化に示されるように、国際的な安全保障環境は劇的に変化した。アジア太平洋地域において不確実性・不安定性は依然として存在しており、国際社会全体においてもテロ、大量破壊兵器とその運搬手段の拡散といった新たな脅威が生じている。
 このような安全保障環境の下、日米安保体制は引き続き日本の安全とともにアジア太平洋地域の平和と安定を維持するために不可欠な役割を果たしていく。閣僚は同盟に対する国民の強固な支持を維持していくことを特に重視している。
 閣僚は沖縄を含む地元の基地負担を軽減するとともに、変化する安全保障環境の中で米軍の適切な駐留を含む抑止力を維持する現在進行中の努力を支持し、これによって安全保障を強化し、同盟が引き続き地域の安定の礎石であり続けることを確保する。
 日米同盟はすべての東アジア諸国の発展・繁栄のもととなった平和と安定を東アジアに提供している。あらゆる種類の顕在化する21世紀の脅威や地域およびグローバルな継続的課題に直面する中、日米同盟は注意深く、柔軟であり、かつ対応可能であり続ける。この地域における最も重要な共通戦略目標は日本の安全を保障し、この地域の平和と安定を維持することである。日本及び米国はこれらの目標を脅かし得る事態に対処する能力を強化し続ける。
 日本と米国は北朝鮮の核・ミサイル計画による脅威に対処するとともに、人道上の問題に取り組むため、日米で緊密に協力するとともに6者会合を含む国際的な場を通じて日米のパートナーとも協力している。
 閣僚は中国が国際場裡において責任ある建設的な役割を果たすことを歓迎し、日本及び米国が中国との協力関係を発展させるために努力することを強調する。
 日本及び米国はまた、アジア太平洋地域における地域的協力を強化していく。日本及び米国はこの地域及びそれを超えて自然災害に対処し、人道支援を行っていくために協力していく。日本及び米国は変化する安全保障環境の中で、共通の利益を有する幅広い分野において、米軍と日本の自衛隊との間の協力を含め、協力を深化させていく。
 閣僚はグローバルな文脈における日米同盟の重要性を認識し、さまざまなグローバルな脅威に対処していく上で緊密に協力していく決意であることを改めて確認する。日本及び米国は必要な抑止力を維持しつつ、大量破壊兵器の拡散を防止し、核兵器のない世界の平和と安全を追求する努力を強化する。
 日本及び米国は国際テロに対する闘いにおいて緊密に協力することも決意している。日本と米国による現在進行中の海賊対処に関する取り組みと協力は航行の自由と船員の安全を維持し続けるために不可欠である。
 日米安保条約改定署名50周年に当たり、閣僚は過去に日米同盟が直面してきた課題から学び、さらに揺るぎない日米同盟を築き、21世紀の変化する環境にふさわしいものとすることを改めて決意する。このため閣僚は幅広い分野における日米安保協力をさらに推進し、深化するために行っている対話を強化する。
 日本及び米国は国際的に認められたあ人権水準、国際連合憲章の目的と原則、そしてこの条約の目的、すなわち相互協力及び安全保障を促進し、日米両国の間に存在する平和及び友好の関係を強化し、民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することに改めてコミットする。


 

2010年1月19日火曜日

日米安保改定50年に寄せて

 鳩山首相が19日、日米安保条約改定署名50年にあたり以下の談話を発表した。

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 日本と米国との間の相互協力及び安全保障条約(日米安全保障条約)は、1960年1月19日にワシントンで日米両国の代表によって署名が行われた。本日はそれから50年の節目を迎える日だ。
 日米安保体制は我が国の安全のみならず、アジア太平洋地域の安定と繁栄に大きく貢献してきた。我が国が戦後今日まで、自由と民主主義を尊重し、平和を維持し、その中で経済発展を享受できたのは、日米安保体制があったからと言っても過言ではない。
 過去半世紀の間、冷戦の終結や9・11テロなど、世界の安全保障環境は大きく変化したが、我が国をとりまく安全保障環境は北朝鮮の核・ミサイル実験に見られるよう厳しいものがある。こうした中、現在及び予見し得る将来、日米安保体制に基づく米軍の抑止力は、核兵器を持たず軍事大国にならないとしている我が国がその平和と安全を確保していく上で、自らの防衛力と相まって引き続き大きな役割を果たしていくと考える。
 また、日米安保体制は、ひとり我が国の防衛のみならず、アジア太平洋地域全体の平和と繁栄にも引き続き不可欠であるといえる。依然として不安定、不確実な要素が存在する安全保障環境の下、日米安保条約に基づく米軍のプレゼンスは、地域の諸国に大きな安心をもたらすことにより、いわば公共財としての役割を今後とも果たしていくと考える。
 こうした認識に立ち、私は50周年を記念する年にあたり、日米安保体制を中核とする日米同盟を21世紀にふさわしい形で深化させるべく米国政府と共同作業を行い、年内に国民の皆様にその成果を示したいと考える。

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 かなり完成度の高いコメントである。官僚の作文ではなく、首相自身の信念と本心に基づくものであることに少なからぬ懸念はぬぐえないが。

 在日米軍基地については、日米安全保障条約に基づく安全保障体制の「要」となっている。ただし、1991年のソ連崩壊による冷戦終結や2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件後の安全保障環境の変化、軍事技術の進歩に対応し、米国防省は冷戦型の米軍配置を世界的に見直す作業に着手。その一環として自衛隊と在日米軍の役割分担や在日米軍基地の再編について協議を重ねてきた。
 その後、日米両国は米国防総省で2005年10月29日、外務・防衛担当の4閣僚による日米安保協議委員会を開催し、在日米軍と自衛隊の再編について基本的な考え方や当面の二国間の安全保障・防衛協力で態勢強化に不可欠な措置をまとめた中間報告「日米同盟:未来のための変革と再編」で合意、再編計画の大枠を固めた。報告書は、自衛隊と在日米軍の連携強化と、基地負担の軽減対策を盛り込むと謳っている。

 首相が言う「日米安保体制を中核とする日米同盟の深化」の方向性は、「アジア太平洋地域における平和と繁栄に引き続き不可欠である」在日米軍のプレゼンスによるところが大である現状認識をしっかりと共有し、その50年の協働の実績に基づく「信頼」をさらに強化することにある。つまり、これをもって「トラスト・ミー」が正しく意味するということである。

 ただし、環境変化や軍事技術の進化も大きく考慮していく必要があり、1995年配備以降、ボスニア、アフガニスタン、パキスタン、イラクおよびイエメンで作戦に参加した「無人攻撃機プレデター」などの有効性を勘案すると、大型原子力空母や海兵隊を中核とした陸海同時展開などの軍事戦略は古臭いものとなってしまうかもしれない。当然、戦争を肯定的に推奨する人はいないわけでこのような効果的抑止力を維持しつつ、イデオロギーの対立や国益のぶつかり合いがあっても交渉と妥協によって平和的に解決していくという安全保障の王道も忘れてはならない。

 つまり、日米安保条約の第二条には、「締結国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締結国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。」とあり、単に軍事に基づく同盟関係という位置づけから昇華させ、国際社会における平和の増進、友好関係の促進を経済的な協力をもってあたるという成熟した関係を目指している。

 今後は朝鮮半島の軍事・経済社会的な安定も意識し、日・米・韓の安全保障条約も視野に入れた国際戦略を策定していかなければならない。このトライアングルにおいて、社会主義国である中国や北朝鮮など不安定要素を効果的かつ相互扶助的に緩和していくことになり、三国それぞれのメリット、「三方一両得」の構図を作っていくことで、はじめ21世紀にふさわしい安全保障体制の深化ということができる。  

2010年1月18日月曜日

沖縄米軍基地移転問題について①

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移転受け入れの是非を問う、沖縄県名護市の市長選が17日に告知された。24日に投開票。過去3回は容認派が当選。米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(名護市辺野古)を移転先とした日米合意の履行をどのように修正していくか。

 ○現職再選:島袋吉和氏(63・無所属)、自民・公明両党が支持、受入容認
  →県(仲井真弘多知事)と連携、13年の検討の経緯に基づいて計画を進める

 ○新人:稲嶺進氏(64・無所属)、民主・共産・社民・国民推薦、受入反対
  →前市教育長として、市政刷新や教育・福祉の充実。「市民目線の街づくり」

 米軍の日本駐留の継続の必要性については、極東の「軍事的安定の要」として機能してきた日米安全保障条約の50年間の実績とともに評価しなければならない。(1951年の日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約=旧安保条約からは約60年)
 現在、極東におけるロシア(旧ソ連)の軍事的な脅威は冷戦時よりも大幅に減退しているものの、中国および北朝鮮の拡大主義や冒険主義的な軍事リスクは引き続き存在するという認識から、質的変換を求める検討を行いつつも、引き続き日米安全保障条約の堅持と在日米軍基地の継続は国益に合致すると考える。
 市長選で稲嶺氏が勝利した場合、鳩山首相はさらにリーダーシップを発揮すべきまさにそのタイミングにおいて優柔不断さを露呈せざるを得ないだろう。最終的は米軍の国外退去を「希望」しているということだが、現時点では野党時代の無責任論は与党として国益を代表する立場になると封印せざるを得ないという判断をしている以上、名護市長選で国家の外交戦略を諮るという建てつけにしてしまった矛盾はどうしようもない。
 国民は社民党や国民新党に政権を委ねたわけではない。今後の日米安全保障にかかる方向性の検討は新安保50周年を機にしっかりと進めつつも、キャンプ・シュワブ沿岸部への基地移転と集約化、段階的縮小化に向けた中中期アクションプランを提示すればよい。この際、軍事技術のハイテク化や情報化もあり、旧来の海兵隊ロジックに基づいた基地運営ばかりではないビジョンも協働して策定するべきではないだろうか。

2010年1月17日日曜日

通常国会開催

1.通常国会とは

 1月18日に第172回通常国会が召集される。国会法に規定されている通り、国会には通常国会・臨時国会・特別国会の3種類があり、いずれも内閣が召集を決定する。通常国会は毎年1月に召集され、次年度の国家予算やその予算を執行するために必要な法律案を中心に審議する。会期は150日で、延長できるのは1回だけ。参照:http://bit.ly/6A1B9G (Business Media 誠より)

2.議論のポイント
 今回の国会は民主党政権後初の通常国会となり、平成22年度予算が審議・承認されることになる。昨夏衆議院選挙において民主党がマニュフェストとして掲げた政策の実現可能性を測る初年度としての「基本的な方向性」を国民として確認しなければならない。
 また、この際の議席で過半数を占める連立与党の国会運営の手法についても、その巧拙やプロセスも吟味しなければならない。マスコミの報道も偏向傾向も強まっている中、国家運営の基盤であり、立法府としての国会がどの法律をどのように審議・承認するかを冷静に合理的評価する必要がある。
 この判断を今夏の参議院選挙に反映させ、中長期的な国家運営が安心でき・安定期なものとするように努めるのは国民の義務である。

 予算関連の議論
 -マニュフェストを反映した施策、「コンクリートから人へ」の実現
 -税収の減収傾向と国債発行水準の高止まりによる財政の危機的状況の打開
 -成長戦略の実現性の予算的な担保と考え方の提示

 政治と金に絡む議論
 -小沢民主党幹事長の政治資金処理に関する疑惑
 -鳩山総理の行政を司る立場としてのこの問題に対処するスタンス

 民主主義の根幹に係る議論
 -外国人参政権法案における地方自治の在り方に関する審議

 外交に係る議論
 -日米安全保障条約改定の調印50周年(1月19日)と沖縄米軍基地移転に係る方向性

3.予想
 マスコミとしては小沢幹事長の政治資金問題に焦点を当て、退任するかどうかの報道合戦となろう。そして、これにより国民生活の安定や経済再生を企図する予算審議や地方自治における外国人参政権の是非等の各項目の国民的コンセンサスの形成の機会を減じることになろう。
 悲観的な観測ではあるが、民主主義的多数決のプロセスをどのように行使するかという形式論はあるが、過半数を占める与党による法案成立は自然の流れと考えるべき。鳩山首相も「このような問題があったとしても国民から選ばれた政権である」として位置付けており、それを覆す世論の高まり(マスコミ等の正常機能としての役割発揮)がなければ、ベルトコンベアー的に今後の4年間が進んでいくことを覚悟する必要がある。
 さらに世論の高まりがあっても、問題点のすり替えは起こりえる。小沢幹事長が「党職」としての責任をとり幹事長辞任を引き換えに予算その他法案を通すというシナリオである。自民党の完全殲滅の「布石」は打たれているため、自らを例によって捨てることにより、大石を固めていくというやり方は、小沢流と考えれば不思議はない。管副総理が次期総理・総裁候補として、小沢リモートコントロールの手筋に入った以上、このシナリオとなる可能性が高い。この場合。参議院選挙の結果如何によらず民主党政権の基盤は強化され、長期政権となるだろう。

4.その他
昨年の第171回通常国会はまとめがWikipediaにあるが、今後政権交代の意味も含めて参考にする必要がある: http://bit.ly/912aEp

日本政経塾の発足にあたって

【設立の趣旨】

- 世界における日本の現状および将来を鑑み、あるべき政治経済の戦略・政策・施策を検討し、実現可能な提言として体系的に構成する
- 広く政治経済に係る議論を興し、国民経済社会の活性化に資する
- 若い世代を育成するプログラムを構築する
- 価値感を共有する人的ネットワークを形成する

【構成】

1.政治
2.外交
3.防衛
4.地方自治
5.金融経済
6.文化教育
7.法律
8.科学技術
9.制度

(御参考)内閣・官庁の体系
http://www.kantei.go.jp/jp/link/server_j.html